先日、半年間の放送を経てラストを迎えたNHK連続テレビ小説『ひよっこ』。舞台となった奥茨城で、主人公みね子を送り迎えした、バス車掌・益子次郎役の松尾諭さんに脚本の魅力、共演者との秘話を語っていただきました。


松尾諭さん。文春オンラインで「拾われた男」を連載中です!

岡田さんの脚本は「遠赤外線」

――松尾さんにとって岡田惠和さんの作品は『最後から二番目の恋』に続いて2作目になりますでしょうか。

松尾 そうですね。岡田さんの脚本は読んでいてジーンとするセリフがたくさんあるんですよ。特殊なことを描いているわけではなく、むしろありふれた出来事を、普通の言葉で描いているからこそ、ああいう遠赤外線でじわっと温めてくれるような物語が生まれるんだと思うんです。役者としても、変に構えて「こういうふうにセリフを言おう」とか思わなくても、自然と役に入り込めるホンなんです。


 

――物語の後半、みね子の父・実が東京から奥茨城に帰ってくるバス車内のシーンは、言葉が過不足なく、みね子、実、次郎3人の佇まいだけで保っている印象的な場面でした。

松尾 次郎に関するト書きには「涙ぐむ」くらいしか書かれていなかったと思います。なので、みね子の表情や、実の表情によって、こちらも感情の色合いを出していくような、作り込みのない自然な場面になりました。余計な情報や説明が省かれた、余白のある台本だからこそ生まれる名場面なのかもしれませんね。

――松尾さんはセリフをどうやって覚えるんですか?

松尾 昔はひたすら書いて覚えていたんですが、今は歩きながら小声でひたすら口に出してブツブツやってます。散歩しながらやるときは変に思われないようにマスクしてます(笑)。“どうやってセリフ覚えるか話”は、たまに役者同士、現場でするんですよ。いつだったか、松重豊さんが「それは企業秘密」って仰ってましたけど、気になってます。

――台本に書き込みはしないんですか?

松尾 いえ全然。僕の台本は真っ白です。セリフの覚え方と同じで、人それぞれやと思いますよ。


 

僕と涼真と伊藤沙莉の「関係」

――打ち上げはどんな感じだったんですか?

松尾 ほとんどのキャストが集まっていたと思いますよ。僕にしたら、みね子が働く「すずふり亭」の人たち、古舘佑太郎くん、乙女寮の面々といった“東京の人”はみんな初対面でした。


益子次郎役の松尾さん「谷田部家のシーンでは長ゼリフもありましたねえ」 ©NHK

――宮本信子さんとも初対面でしたか?

松尾 はい、お初にお目にかかりました。「バスの運転、お疲れ様でした」って声をかけていただいたんですが、「いや、あの、車掌なんです」って恐縮しながらお返事しました(笑)。

――東京の人、といえば『ひよっこ』でブレイクした竹内涼真さんもいますね。

松尾 涼真は役柄と同じ、好青年で頑張り屋。自分がどこまでできるかを考えながら仕事ができる、頭のいい役者だと思います。『ラストコップ』で彼と、米屋の娘・米子役をやった伊藤沙莉(さいり)と一緒だったんですが、そこでは涼真が沙莉をイジるみたいな関係になって、仲良しです。

和久井映見さんが僕にだけしてくれること

――伊藤沙莉さんもいいキャラクターを演じてましたよね。

松尾 打ち上げで「時子のライバルとかって、マジ半端ないんですけど」って、千葉のヤンキーみたいな挨拶してました。しっかりしてるのに、なぜか普段の言葉遣いがギャルっぽくて面白い子なんですけど、役者としては天才肌だと思います。お父さん役の斉藤暁さんが「あの子は返しが早い」って舌巻いてました。


 

――これまで共演も多い和久井映見さんとは、今回は接点がなかったんですよね。

松尾 今回こそは恋人役になれるかと思っていたんですけどね。和久井さんは、あんまり人をイジったりする方ではないんですが、僕に対してだけは「ちゃんと真面目に仕事してるんですか?」みたいに接してくれるんですよ。あの特別感が、ほんまに嬉しいんですよね……。打ち上げでもたくさんお話しさせていただきました(笑)。

次郎の出馬と『シン・ゴジラ』泉修一のこと

――それにしても、次郎は村長選出馬という衝撃の展開で幕を閉じましたが、松尾さん演じる政治家といえば、『シン・ゴジラ』の泉修一を思い出さずにはいられません。

松尾 ハハハ、確かに「次郎まさかの出馬」が判明して、ネットではゴジラファンがざわついたんですよ。思わず「まずは君が落ち着け」って言いたくなったんですけど、今でも泉修一を思い出してくださる方がいるというのは、冥利に尽きます。次郎はバスで培った人脈があるから、そこそこ選挙で健闘するかもしれませんよね。まあ、あの時代の超保守的な場所での戦いですから、現職にはなかなか勝てないんじゃないかなと想像しますけどね(笑)。


 

――みね子と同じく、次郎もいつか上京する日が来るんでしょうか。

松尾 僕の中では、もし次郎が上京するんなら、菅野美穂さんが演じる女優・川本世津子の運転手という職を見つけて……という勝手な設定なんですよ。

――まさに松尾さんが以前、井川遥さんの運転手をしていたように。

松尾 そうです。それで、バー「月時計」で白石美帆さんに出会って、良い仲になるってことでどうでしょう。


 

写真=榎本麻美/文藝春秋

(「文春オンライン」編集部)