月面基地に滞在する人間は大きく分けて『科学者』と『技術者』、『行政代表職員』に区分される。
そもそも、月面基地は科学研究所であるのでそれを受け持つ科学者が花形であるが、極地における基地運営には特殊技術を持つ多様な人材が必要であるので、人口の割合としては技術者団がもっとも大きい。
しかし、数百人から千人以上の人間が生活する居住施設でもあるので、やはり物品の手配や各国の利害調整業務を請け負う行政担当職員も少なからず滞在している。
しかし、全ての人員が希望して、厳しい選抜を勝ち抜いて赴任している事には変わりなく、その裏には共通して宇宙への憧れを推進力として持っている事が見て取れる。
その為、結託し、非番の日に自転車用ジャンプ台を自作し、体育館で『ETごっこ』に興じる者達が大勢いる。
重力が小さいため、同じ高さから落下したときの衝撃そのものは小さいが、その分高く飛ぶため、結局は地球上で同様の愚行を行うのと同じダメージが体にかかる。
一応、厳密に放物線軌道が計算され、着地用のマットも必要十分に用意されるのではあるが、射出時の出力=速度が人力である為、どうしても失敗が起こる。
行政側としては無用の事故を避けるため『自転車を用いた跳躍の禁止』を通達したが、その裏でかなりの数の行政職員(主に男性)がETジャンプに携わっていたことも有り、有名無実の禁止令となっていた。
やがて、非公式に始まったETジャンプは物理的研究のお題目と密閉環境のストレス緩和というお題目を与えられ、一種の娯楽として確立されていき、エクストリームスポーツのように発展していった。
このETジャンプに女性としてはじめて挑戦した職員は、映画そのもののコスチュームを着込み、自転車にも宇宙人の人形をくくりつけて登場し、大いに観衆を沸かせたあと、百名を越える観客の前で思い切りよく跳躍を見せた。
彼女がその直後に残した言葉は、大くの女性に影響を与え、後に宇宙開発へ女性参加者が増大した遠因となり、初期宇宙開拓史を代表する文句となった。
テラルナ復活したのかと思ったのに