「人に発したものは自分に返ってくる」
PCの画面に打ち込まれている文字を読み、私はしばらく考え込んでしまった。
私が読んだのは、とある写真家が書いた文章だった。
「言葉であれ、態度であれ、人から発せられたあらゆる要素は壁に投げたボールのようにして、いつか必ず自分に返ってくる」
その方は26歳の写真家の方で、ポカリスエットなどの広告写真で有名な方だ。
写真家、奥山由之さん。
私は彼の写真展に行った際、あまりにも写真から湧き出てくる「生」のエネルギーに圧倒され、感化されすぎて体調が悪くなるくらい、いろんなものを吸収してしまった。
とにかく生きていくエネルギーが写真から滲み出てきているのだ。
写真に圧倒され、帰りの電車の中でも奥山さんのホームページに掲載されている写真を眺めていると、写真展の紹介の部分にこんな言葉が書かれてあった。
「人に発したものは自分に返ってくる」
私は呆然としながら彼が書いた文章を眺めていた。
とてもとても深く、感受性に潤いを与えるような優しい言葉で綴られていたのだ。
私は子供の頃からとにかくマイナスでしか世界を見れなかった。
人と話をしていても
「この人はこうで、こんな考え方をしているから自分とは合わない」
「この人は表ではこう言っているけど、裏ではきっとこんな風に思っている」
人と会話をしていても、ちょっとした言葉遣いや仕草から相手の感情の裏側を想定してしまい、身動きが取れなくなってしまうのだ。
「きっとこの人はこう思っているはずだ」
「一瞬目の動きがずれたから、この人は本心で喋ってない」
とにかく極度にまで人の目を気にしてしまうため、普通に生きているだけでも精神的にぐったりとしてしまう時が度々ある。
「あっ、やばい」
満員電車の中でふとそう思った時は、急いで途中下車して深呼吸をするようにしている。
もう誰とも話したくない。
そう思って、ずっと部屋に引きこもって自分の世界に閉じこもった時期もあった。
いつしか大学を卒業して社会人になっても、自分のマイナスでしか世界を見れない性格は治らなかった。
どうして自分はモノクロでしか世界を見れないのだろうか。
どうして人と同じように会話ができないのだろうか。
そう思い悩んでいる時期がずっと続き、ある日パチンと頭の中が鳴るようにして、電車の中に吸い込まれそうになった。
その時は過酷なテレビ制作の仕事をしていて、結構精神的に滅入っていたのかもしれない。
一旦全て捨ててしまおう。
そう思って、仕事も全部捨て、海外に旅に出た。
海外に旅に出れば、全てが変わる。
いつも人見知りで、世の中のマイナスの部分しか見れなかった自分のひねくれた性格を変えられる。
そう思っていた。
だけど、一ヶ月近く海外を放浪しても自分の中では何も変わらなかった。
いろんな刺激的な人と出会った。
ラオスの山奥で耳が不自由なのに英語と日本語と韓国語を理解するおっちゃん。
カメラの魅力を教えてくれた旅人。
タイ、カンボジア、ベトナム、ラオスと回っているうちにいろんな刺激的な人と出会った。
その出会いは自分にとっては宝物のような存在だ。
だけど、自分の中の何かが変わったという感触はどうしても得られなかった。
日本に戻り、アルバイトから始めて少しずつ社会復帰していったが、
目が死んだまま仕事している自分を見て、社員の人にこう言われた。
「君は海外を旅してきたっているけど、海外で何を得てきたの?」
私は何も返答出来なかった。
全てを捨ててまで旅に出たのに、何も変わらなかった。
外に刺激を求めているだけじゃいけないのか。
そう思っている時、ふとしたきっかけでライティングというものに出会った。
きっかけは単純なものだった。
友人から「面白い本屋があるから行ってみなよ」と言われ、ほぼニートだった私は暇つぶしもあって、その本屋へとたどり着いたのだ。
自分のライティングの師匠と呼べるその人に本屋で初めて会った時に言われた言葉がとても印象に残っている。
「とにかく書いてください。書けば人生が変わります。結論は書け! です」
書けば人生が変わるってどういうことだ?
その時は半信半疑だった。
常にマイナス志向で負のオーラを周囲に撒き散らしていた私は、特に何も考えずに書くということをはじめてみた。
はじめは一週間で2000字を書くのがやっとだった。
もともと映画が大好きで学生時代には死ぬほど映画を見たため、
頭の中の映像を文字にしていくことが意外と自分にはしっくりときていたのか、
とにかく書くのが楽しくて仕方がなかった。
もっと書きたいと思った。
自分の中にある感情を何かの形で人に伝えたい。
そう思い、去年の今頃は何かに取り憑かれたかのように書きまくっていた。
人に読んでもらう文章だから、無理にでもポジティブに終わられなきゃ。
そう思い、ハイパーネガティブ思考な性格の私だったが、ポジティブな素材を世の中から探していった。
毎日、毎日書いていると常にポジティブに世の中を見ようとする癖がついたのか、自分の周りに見える景色も変わって見えてきた。
「いつも文章読んでますよ」
「あっ。今度一緒に飲みましょうよ」
そんなことを少しずつ周囲から言われるようになっていった。
今までの自分の人生からすると大きな変化だった。
なぜか自分の周囲にポジティブな要素が滲み出てくるようになったのだ。
そして、ライティングというものに出会って一年が経った今、自分の周りに見える景色もだいぶ変化していった。
あ、やっぱり人に発したものは自分に返ってくるのか。
「言葉であれ、態度であれ、人から発せられたあらゆる要素は壁に投げたボールのようにして、いつか必ず自分に返ってくる」
去年の今頃、死んだ目をしていた当時の自分が、
この写真家の文章を読んでも意味がわからなかっただろう。
まだライティングを初めて1年しか経ってないが、この1年間私はポジティブな要素をなるべく世界から汲み取ろうと努力していた。
そして、ポジティブなものをなるべく周囲に発するようにしていたのだと思う。
プラスな要素を周囲に発するようにしていると、少しずつ少しずつだが、
ポジティブな気を発する人が周囲に集まってきたのだ。
常にマイナスでしか世界を見れず、負のオーラを周囲に発していた昔の私には信じられないことだった。
きっと当時の私は負を発していたため、海外で刺激的な人と出会ってもマイナスなものしか受け取れなかったのだ。
「人に発したものは自分に返ってくる」
そのことに気がつくまでに一年がかかってしまった。
きっとあの日言われた言葉がなかったら自分はどうなっていたんだろうかと思う。
「書けば人生が変わる」
少しずつだが、最近そのことがわかり始めてきた。
下記も参考に