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セミナー体験記 序

数年前、「自己啓発セミナー」が話題になっていた事がありました。
某バンドのヴォーカルがハマってたとか、某相撲取りがドップリだとか、ワイドショーを賑わせていましたね。


そのブーム(?)から更に遡ること数年前、俺自身、友人からの紹介で「自己啓発セミナー」というものを経験したことがあります。


その体験について、違うサイトにテキストを書いた事があります。


今更旬な話題でもないし、俺の体験などをわざわざ改めて書かなくても、大概の情報はインターネットで得られるようになりました。詳しく調査した書籍も結構でています。


しかし、少なくとも俺にとっては衝撃的な経験であった事には変わりなく、今思い出すと結構笑えるところも多いと思ったので、多少の加筆と大幅な修正を加えた上で、ここに記録として残したいと思います。


人名を仮名にしてある以外は、ほぼノンフィクションですが、いかんせん昔の話なので、記憶違いもあるかもしれません。また、話の流れをわかりやすくするため起こった出来事の順序を変えたりしていますので、ご了承下さい。


1 二つの電話とお誘いの巻

2 無料体験セミナーの巻

3 勧誘の巻

4 ベーシックセミナーの巻

5 赤黒ゲームの巻

6 最後の15分

7 石とダイヤモンド

8 告白協奏曲の巻

9 4つの選択(出会いのゲーム)の巻

10 ベーシックセミナー終了~山田君との再会の巻

11 まとめの巻

12 おわりに





1 二つの電話とお誘いの巻

あれは俺が二十歳くらいの頃。当時の俺はダメ大学生。
ある日高校時代の友人である佐藤君(仮名)から久しぶりに電話かかってきた。


佐藤君「久しぶり。最近どう?」
俺「俺は相変わらず。毎日楽しく生きてるよ。」
佐藤君「そろそろ就職のこととか考えてないの?」
俺「考えたことないなー。まだ2年だし、何とかなるんじゃないの?」
佐藤君「周りを見てみなよ。そろそろ皆将来に向けて準備はじめてるよ。そういう人達向けの就職セミナーがあるんだけど。」
俺「へーどんなの?ためになるなら行ってみてもいいかな。」
佐藤君「3日間くらいある場所で、色々教えてもらったり、体験したりするの。」
俺「ある場所って?」
佐藤君「オフィス街の普通のビルだよ。」
俺「色々って?具体的にどんなことやんの?」
佐藤君「詳しく話しちゃうと行く意味がなくなるから。とにかく行ってみてよ。」
俺「わかった行くよ。いつ?佐藤も一緒に来てくれるんでしょ?」
佐藤君「いや、一人で行ってもらうことになるよ。日時は今からだと多分月末くらいかな。会費は7万5千円かかるから。」
俺「マジかよ!3日間で7万5千円!?ムリムリ。そんな金無い。」
佐藤君「でもこれは自分を大きく成長させる又とないチャンスだよ。逃す手はないよ。」
俺「行きたくてもそんな金ないんだってば。」


押し問答がしばらく続いたが、やがて佐藤君はあきらめたようだ。


佐藤君「残念だよ…。お前は今、人生を輝かさせる為のチャンスを失ったよ。」
俺「(しばらく会わない間に随分と失礼なヤツになったな・・)今度俺が金ある時にまた誘ってよ。」
佐藤君「今度って言っても…。次はいつあるかわからないし。」
俺「そう言われても。Aは?あいつヒマそうだし、金もありそうじゃん。」
佐藤君「A!?あいつなんてダメだよ!俺は高橋ならチャンスをモノにできると思って誘ったんだよ!誰でも良いってわけじゃないんだよ!」
俺「(Aは佐藤と高校ん時一番仲良さそうだったのに?)そうかぁ本当ゴメンな。又いつか誘ってくれよ。今度飲みにでも行こうな。」
佐藤君「ああ。また近い内に連絡するよ。」


しかしそれ以後、平成十六年二月現在に至るまで、佐藤君から電話が来ることはなかった。
それから約一ヶ月後。今度は同じく高校時代からの友人である山田君(仮名)から久しぶりに電話が。


山田君「久しぶりだな高橋。最近調子どうだ?」
俺「俺は相変わらずダメ人生謳歌してるよ。それよりお前、こないだ札幌駅のミスドで可愛い子と二人で居るの見たぞ。彼女?」
山田君「違う違う!詳しくは話せないんだけど最近色々あってさ。それよりお前、まだバンドとかやってるの?」
俺「やってるよ一応。それがどした?ライブでも来てくれんの?」
山田君「いやライブはいつか行くけどさ。それよりスゲーいい話があるのよ。俺の知り合いに音楽のグループがあってさ、そこでバンド組めばタダでCD作れるの。」
俺「マジで?どういうこと?詳しく教えてよ。」
山田君「詳しく話すから今度会おうぜ。次の土曜日あいてる?」
俺「おお。あいてるよ。」
山田君「んじゃ会おうぜ。久しぶりに色々話もしたいし。」
俺「ああ。じゃあ土曜日な。」


パソコンやデジタルレコーディング機器が比較的安価で簡単に揃う現在なら、ちょっと気のきいたアマチュアバンドならCDくらい簡単に作れるが、当時はアマチュアバンドの宣伝用の音源といえば、まだまだカセットテープが中心だったのだ。


土曜日。某喫茶店。


山田君「さっそくなんだけど、これ見てよ。」
(若者が合宿所のような所で楽しそうに楽器を弾いたりしている写真満載のパンフレットを見せる) 俺「楽しそうだね。なんか使ってる機材も本格的だし、凄えな。本当タダ?」
山田君「タダタダ。しかもCDも作ってくれるんだよ。俺もそのCD買ったし。今度聞かせるよ。」
俺「是非聞かせてよ。そんでいつから参加できんのそれ?」
山田君「それなんだけど、参加するには、あるセミナーを受けなくちゃならないんだ。」
俺「? 別にいいけど。」
山田君「そのセミナーは7万5千円かかるんだけど。」
俺「マジで!?高いなー!!」


普通の人ならここで佐藤君と山田君の言う共通の符号「セミナー」「7万5千円」にピンと来ると思う。
しかしアホな俺はタダCD制作の魅力に心奪われて気づきゃしない。
(しかもこの時点でもうタダじゃなくなってるし)


俺「うーん。考えさせて」
山田君「そうだ!ちょうど今日その音楽グループとセミナーの説明会があるから来ない?」
俺「それは、幾らかかんの?(少し疑心暗鬼になってきた)」
山田君「それはタダだよ。お前みたいな(アホな)奴もいっぱい来るし。」
俺「タダなら行こっかな」


山田君との少しの間の会話の後、その足で行った説明会あたりから怪しい世界に少しずつ足を踏み入れることになる。





2 無料体験セミナーの巻

そんなわけで山田君と二人で行ったセミナー会場。
確か大通り近くにあるどこかのビルだったと思う。


そのビルの一室。広さは学校の教室くらいだったろうか。
見渡すと、既に2~30人集まっていた。


皆俺と同じ様に、紹介者とカモの二人連れ(一人の紹介者に二人カモのパターンもあった)のようだった。


イスに皆で並んで座り、ビデオを見せられる。
内容をかいつまんで言うと、


どこそこに合宿して皆の共同作業により素晴らしい音楽とそのPVもどきを作り、音楽の専門家(っぽい人)に聞いてもらい、誉めてもらい良かったネ!


とかそんな感じだったと思う。
ビデオの最後にはその彼らの努力の成果である「作品」を一曲通して見せられた訳だが、正直ダサいと思ってしまった。上手いか下手かで言うとまぁ極めて普通だった訳だが。
好みの問題と言われればそれまでかもしれないが、何と言うか、曲も演奏もPVも、いかにも「素人が頑張って青春ソングを青春しながら作りました!」って言うクサさが丸出しであるように感じた。音楽は、表現は、ロックは、そういうもんじゃないだろう、というような事を俺は考えていたと思う。


大体自分の友達でもない素人バンドが、
小高い丘っぽいところで楽器持ったまませーのでジャンプしてる様を見せ付けられて、俺はどうリアクションすれば良いんだろう。あげく寒い歌詞に合わせたミニストーリーなんかを展開された日には、もう笑うしかない(笑わなかったけれど)。


山田君「どうだった?」
俺「ごめん俺が悪かった。もう帰っていい?」


などと言える筈もない。


俺「ああ(違う意味で)面白かったよ。(ある意味)スゲーと思ったよ」


友達思いの俺は答える。山田君は微笑む。


そしてビデオ鑑賞タイムの後、先ほどの山田君が話していた体験セミナーが始まる。
司会者の男性(20代後半~30代前半位だったろうか、別に怪しくはない)は、まずざわめく皆を静かにさせ、自分に注目を集めたのち、一言。


「今から5分間あげます。好きなように行動してください。」


…はい?
そもそも何をしにきたのか良くわからないままここにいる俺は戸惑った。
周りをみると、全体の約半数の人間(俺と同じような感じでここに来たのだろう)も同様に戸惑っているようだった。


そんな中、残りの約半数(山田君と同じ『連れてくる』側の人達)は司会者の一言を合図に一斉に立ち上がり、戸惑う人達に無差別に話し掛けた。勿論全員初対面の相手に、である。


俺のところには俺と同い年くらいの女の子が来た。


「どっから来たの?」
「最近どう?」
「学校の勉強とか忙しいの?」


質問攻めに合う。お前タモリか、とか思いながら俺は適当に返事する。


後から気付いたことだが、「彼ら」は全員、初対面の人といきなり度を過ぎて気さくに話せるという必殺技を持っている。


そのまま5分経ち、趣旨が良く分からないままテレホンショッキングは終了。


その後、司会者は再び会場を静かにさせ、こんな話をしだした。


普通のノミは、ものすごい高さを飛ぶことが出来ます。数メートルを一瞬で飛ぶこともできます。
しかし、ビンに入れフタを閉めたノミは、何度も天井にぶつかるうちに天井の高さまでしか飛べなくなってしまいます。今のみなさんも、このノミと同じではありませんか?


俺含むカモたちは意味が良く分からず黙るのみ。


会場に微妙な空気を残したまま、セミナーは次のメニューである、「9つの点ゲーム」に進む。
参加者を2つのグループに分け、問題の紙を渡す。


9つの点の問題
・この9つの点を、連続する4本の直線で結んでください。

(これを読んでいるあなたも、ちょっと考えてみてください)


グループ皆で考えるが、なかなか正解は分からない。
紹介者(山田君側の人間)は全員答を知っているようだが、言わない。


10分ほど考えて、グループの中で比較的勘の良いヤツが答えを思いつく。


↓正解
9つの点の正解


ゲームが終わり、司会者がまた話す。


みなさんがなかなか答が分からなかったのは、
9つの点の周りに、勝手に枠を作ってしまっていたからではないですか?
そのワクからはみ出すのを、無意識のうちに恐れていたのではないですか?


どうやら、この体験セミナーで言いたい事は、
「既存の枠組にとらわれて自由な発想や行動が出来なくなっていないか?」
ということらしい。


その言葉だけは立派である。
が・・・。その「自由な発想」とやらが参加者たちによってどう生かされていったのか、今考えるとそら恐ろしいものがある。





3 勧誘の巻

体験セミナーに行った日以降、 山田君からの電話が多くなった。いよいよ本格的な勧誘活動が始まったらしい。


「今なにしてる?」
「今週の週末ヒマ?」
「俺んち遊びにこない?」


など、普通の用事に見せかけて、実際に会うとセミナーの勧誘である。


少し説明すると、この会社(?)には3つのセミナーがある。


ベーシックセミナー → アドバンスセミナー → 実践セミナー(詳細な名称忘れた)


費用はそれぞれ7万5千円、15万円、3万円かかります。
俺がこの時勧誘を受けていたのはベーシックセミナー。


山田君はベーシックセミナーを2回、アドバンスセミナーを1回受け、その他にもセミナー関連の用事でアメリカに行ったと聞いていた。


ちなみに、ベーシックセミナーの勧誘に入って以後、俺のそもそもの目的だったはずの音楽サークルの話は一切誰からもされなかった。そんなもんなんだろうか。


山田君「セミナー行こうぜ、チャンスなんだから」
俺「内容を教えてよ。訳わからないもんに7万5千円も出せねーよ」
山田君「内容は言えない。絶対イイってわかってるのに何で悩む?」
俺「そんなのオマエが言ってるだけで本当か分からないじゃん」
山田君「お前友達を疑うのか?」
俺「だから内容教えてくれよ」
山田君「教えられないんだってば」


結局堂々巡りになって会話にならない。
そもそも高校時代の山田君は真面目だがノリの良い、ちょっとお調子者キャラだったはずなのに、久しぶりに会った山田君は何か少し違うようだ。
(この時から感じた違和感は、後に気付いたがセミナー勧誘者全員に共通するモノだった)


その後も山田君はあの手この手で勧誘する。
「女の子いっぱいいるよ」「スゲエ可愛いアイドルみたいな娘が参加するらしいよ。」といった色仕掛けに始まり、俺を飲みに誘い、人生の意味や将来の夢について語る青春攻撃もあった。


結局、2週間のあいだ毎日のように説得を受けて根負けした俺は、
参加費7万5千円のうち4万円を山田君が貸してくれるという条件でベーシックセミナーへの参加を決めた。






4 ベーシックセミナーの巻

ベーシックセミナーは連続する3日間、朝から夜まで(詳細な時間忘れた)札幌のあるビルで行われる。
セミナーの前日、山田君から電話で注意事項を聞く。


①セミナー期間中、山田君と一切連絡を取ってはいけない。
②どんな急用が出来たとしても必ず時間どおりセミナーに参加すること(欠席、遅刻厳禁)
③セミナーの期間中見たことや体験したことは、一切誰にも話してはいけない。


俺「お前に電話とかしたらダメなの?」
山田君「ダメ。会うのも話すのもダメ。俺には一切連絡しないで。」
俺「あと、遅刻や欠席も厳禁なんだ?具合悪い時は?」
山田君「具合悪くても絶対来い。」
俺「マジで?親戚に不幸があったときなんかは・・・」
山田君「どんなことがあっても休むのは許されないよ。」


この注意事項や山田君の発言から、3日間俺はかなり特異な状況におかれることが伺える。


しかし、身内に不幸があっても来いとは。一体どんな一大事なんだろう。
俺が金を払ってる立場なのに。


俺「誰にも話しちゃダメなのはなんでなの?」
山田君「誰かに話しちゃうと、効力が薄れるから」


黒魔術かなんかの類なんだろうか。だったら俺はノーサンキューなんだけど。


不安な気持ちを残したまま、ベーシックセミナー初日の朝が来た。


徹マン明けの眠い眼をこすりながら辿り着いた札幌の中心にある某ビルの一室。
俺と同じく、何らかの勧誘を受けて来たと思われる18~23歳位の男女が40人程集まっていた。
皆事情は同じらしく、何か自分にとってためになる事をやるらしいが、具体的には何も知らないらしかった。


会場には実際にセミナーを受ける若者達の他に、「アシスタント」と呼ばれる二人の女性(20代半ばだろうか)、
「トレーナー」と呼ばれる男性(20代後半~30代前半くらいだろうか)が来ていた。


セミナー内では誰も本名を呼ばない。事前に決めてある、セミナーネームという名前(あだ名のようなもの)を胸に名札としてつけ、その名で最後まで呼び合う。アシスタント、トレーナーも同様である。(結局、この3人の本名は最後まで知ることはなかった。)


三列ほどに並んで座り、いよいよ開始。


トレーナー「今から5分間あげます。好きなように行動してください。」


またかよ。
しかし、我々は既に正解を知っている。皆戸惑いながらも席を立ち、誰かを見つけて話し掛ける。
俺の所にはそこに居た中で一番可愛いと思われる女の子が来た。


「こんにちは。何か話さない?」


山田君が言ってたアイドルみたいな娘って、この娘か?マジで居ると思わなかった。山田君、感謝!
できすぎた偶然を疑うこともなく浮かれる俺。


俺「こんにちは。何で俺に話そうと思った?」
「なんとなく…。眼が気になって。透明感のある眼っていうか…。」


オカルトな雰囲気に騙されてオカルトな言葉を吐いていますね彼女。
こういったクッサイせりふが平然とまかりとおる空気に既になっているのだ。


「ありがとう(?)。誰に誘われた?俺は同級生の山田って奴からだけど」
「私は○○君。大通りの地下街歩いてたら声かけられて…。」


などと雑談を交わしているうちに5分間経過。


トレーナーからの言葉。


「これから始まるセミナーはゲームです。人生の色々な場面で学んだことを活用できるゲームです。自分の人生の転機で自分ならどうするかを真面目に考えて真剣に取り組んでください。」


そう、実際セミナーはゲームだった。
いくつかのゲームを通して生き方を学ぶゲーム。
ただし、あらかじめセミナー側によって答が用意されているゲームだった。
用意された答と違う答を出しても、言えなくなってしまう空気になる。時にはトレーナーや参加者達から罵倒されることもあった。
結局、用意された「一つの答」が圧倒的に正しいという雰囲気になり、場は落ち着く。
こういうのを洗脳という。


次回からは、セミナーで行われた「ゲーム」の中から、特に印象に残っているものを俺の体験を交えていくつか紹介したい。





5 赤黒ゲームの巻

セミナー初日の最後に行われたのがこれ。
このゲームの前までは結構みんな楽しく笑顔でゲームに取り組んでいたのだが、このゲーム以後楽しい笑顔は違う意味の笑顔に変わり、参加者たちの目つきも変わっていった。


全員がAチームとBチームの2つに無作為に分かれ、別々の部屋に移動させられる。 その上で、それぞれにこのような表を渡される。
赤黒ゲーム表

トレーナーが一言だけの説明をする。
「このゲームの目的は、より多くの点を取る事です。目的はそれだけです。」


各チームがすることは、話し合って「赤」か「黒」か決めることだけ。
(相手チームがどちらを選んだかは知ることができない)


ルール
A,B両チームがともに赤を選んだ場合 → A,B両チーム共に-5点
Aチームが赤を選び、Bチームが黒を選んだ場合、 → Aチームが+3点、Bチームが-3点
Aチームが黒を選び、Bチームが赤を選んだ場合、 → Aチームが-3点、Bチームが+3点
A,B両チームがともに黒を選んだ場合 → A,B両チーム共に+5点


どうすれば目的を達成できるだろう?
これを読んでいる人も、少し考えてみて欲しい。





ずっと「赤」を選んでおけば、相手チームに負けることはない事に気づくと思う。ゲーム理論の初歩だ。
そういうわけで、A、B両チームとも終始赤しか出さない。 当然このような結果になる。
赤黒ゲーム結果

結果は-40点対ー40点の引き分け。
みんなそれまでのゲーム同様、楽しいムードで「勝てなかったねー」などと笑っているが、トレーナーが妙に不機嫌な顔をしている。


そして耐えかねたかのように間をゆっくり取ってトレーナーが言った。


「皆さん、私は最初にこのゲームの目的はなんだと言いましたか?」


黙る一同。


「私は、『より多くの点を取ること』が目標だといった筈です。 『相手チームに勝つ事』が目的だとは一言も言っていません。あなた達は何ですか!相手に勝つことばかりを考えて、その結果がー40点対ー40点。より多くの点を取るには、相手を信じ思いやって黒を出しつづけるべきではなかったですか?
あなた達は、普段から誰かに勝つ事ばかりを考えて、大切な事を忘れていませんか?」



なんだソレ。 そんな青臭い考え方でその年までよく生きてこれたな…。
そもそも、ひっかけ問題みたいなもんじゃないか。誰だって勘違いする。
そんなアホな理屈で納得する奴なんかどこにも居な






「グスッ・・・。」







え?


「グスッ…。俺は今まで間違っていた…。」



気が付くと、参加人数の3分の1ほどが涙を流してうずくまっている。
泣いていない者も、ひどく沈痛な面持ちになっている。


まあ、今思い返してみると、若いうちはこういうセリフに弱いものである。
普段突然こんなことを言われてもムカつくだけだが、場は既にすっかりこういう言葉で簡単に心を動かされる空気になっていたと思う。


今までの明るいムードからうって変わって重くなる会場。
嗚咽と自己批判の声の中、セミナー初日は静かに幕を閉じた。






6 最後の15分

セミナーのゲームには、トレーナーが状況、各人の役割を設定し、参加者がロールプレイするという形式のものが多かった。 その中でも、最も参加者がハマりこんだ(ように見えた)ものがこれである。


「地球は今、核戦争が起こり人類は死滅してしまっています。
ここは最後に残ったシェルターで、ここにいる皆さんは人類の最後の生き残りです。しかも、残った酸素はあと15分で、シェルターを脱出する方法も酸素を補給する方法もありません。皆さんは15分後、確実に死んでしまいます。」


アシスタントが部屋の電気を消し、全員に目隠しをする。
(核爆弾で目をやられた、という設定)
その後皆を誘導し、一つの大きな円を作るように座らせる。


説明はこれだけ。後は参加者がどう過ごすかが試されるわけだ。
トレーナーの声を合図に、「最後の15分」スタート。


最初のうちは、皆「生き残る方法はないか?」ということを話す。


「みんなで力を合わせて扉を押そう!きっと開くはずだよ!」
「生きるんだ!」
「化学反応を起こして酸素を作れないか?」


「死にたくねぇよー・・・」


死ぬわけはない、のだが、皆なりきっている。


開始から5分ほど経った頃だろうか。
俺の隣に座っていた男が信じられない大声で、


「俺はもう死んでしまうのに悔いを残したくない!皆で生き残る方法を考えるより、残りの時間をどうやって生きるのかを考えるべきじゃないか?」



と叫んだ。すると参加者たちは一斉にその声に同調し始めた。


「そうだ!そうしよう」
「悔いは残さないぞ!!」
「皆で歌を歌うってのはどうだろう?」
「そうだ歌おうよ!」


それから皆で大合唱ですよ。合唱コンクールでも出さないだろうって位の大声で。何の歌かは忘れたけど(かえるのうたか何かだったと思う)。
皆酸素足りなくなってマジでどこか切れちゃったの?と心配になるほどだった。


何曲か歌っているうちに15分経過。全員死亡。ゲーム終了。
目隠しを取り、電気をつける。


周りを見回すと、とさっきまで騒いでいたのがウソのように全員押し黙っていた。
ホントに死んでしまったように顔面蒼白になっている人もいた。


トレーナーが静かに語りかける。


「地球は滅んでしまいました。皆さんは、最後の15分間を悔いなく過ごすことができましたか?」


それにしても、皆本当に自分は15分で死ぬんだと心から信じている様子だった。
セミナーは、部屋の明るさ、BGM、語り口などから「それっぽい雰囲気」を作るのがとても上手だ。
そういう「いかにも」な雰囲気にオイオイと突っ込みを入れられる人ならば、洗脳をはねのける事はそんなに難しくはないと思う。

参加者が二十歳前後の若者しかいないのも、その辺に理由があるのかな、と思う。






7 石とダイヤモンド

「皆さんは、石コロですか、それともダイヤモンドですか?」


トレーナーのこんな問いかけからこの実習は始まる。


これを読んでいる皆さんなら、何と答えるだろう。
こう聞かれたら、自分の事を褒める事にためらいを覚える普通の日本人なら、


「いやぁ俺なんて、平凡な石ころだよ。」



とか答える人が多いだろうと思う。


セミナー参加者たちも例外ではなく、最初のうちは皆そう答える。
そこで、トレーナーがこう付け加える。


「ダイヤモンドは、最初から輝いているわけではありません。
最初は石ころのように見えていても、磨かれていない原石のダイヤモンドかもしれないのです。」



自尊心に火をつけられた若い参加者たちは、次々に応える。


「オレはダイヤモンドだ!」
「私だって!」
「俺だって今はこんなんだけど、いつか輝くダイヤモンドだ!」


そう言いたい気持ちはわからなくはないが、
そんなにダイヤモンドばかりだと、値打ちも下がるってもんだ。


トレーナー「人は誰でも、努力次第で輝く可能性を秘めています。
みんなこのセミナーを通して、そのことを学んでいきました。
そんな卒業生達がこの実習で学んだことを歌った歌があります。聞いてみて下さい。」



ここで、用意していたラジカセで曲をかける。


かけられた曲は、ちょっと昔の某有名女性バンドの超有名曲。
曲名もそのまま「ダイヤモンド」。


あのバンドのメンバーの彼女たち、ここのセミナー出身?
そういう風に取れる言い方をしていたよな。本当なのか?





8 告白協奏曲の巻

確かセミナー最終日(3日目)に行われたゲーム。
例によってトレーナーの言葉から始まる。


「あなたはこの3日間、様々な実習を受けて来ました。その中で、セミナーの仲間達と出会い、一緒に体験してきました。その仲間達の中で、最も出会いたいと思う人を一人だけ決めて下さい。ただし、言葉を使ってはいけません。」


ルール
・ゲーム中、一切口をきいてはいけない。
・自分が最も好意を抱いている相手を一人だけ選ぶ(同性異性問わず)。
・選んだ相手の前に立つ。
・選んだ相手が自分に向かって立ってた時(つまり相思相愛の時)は、そのまま二人で座る。
・選んだ相手が自分以外の誰かに向かって立ってた時(つまり片思いの時)は、誰か他の人を探す。
・自分に向かって複数の人が立っていた場合、アイコンタクトで相手を決め、決まった相手と座る。
選ばれなかった人は、誰か他の人を探す。
・立っている人がいなくなるまで続ける。


つまり、恋愛(とは限らないが)、告白、成就(または失恋)を十数分で一気に体験するゲームである。


「では、スタート」


トレーナーの唐突な合図でゲームは始められる。
妙な空気の中で大概の事はやってきた参加者たちも、これには戸惑う。異性に奥手な男女だっていっぱいいるのだ。場は一種の混乱状態に陥る。


俺は、グループの違う一度も話す機会の無かった女の子をあえて選び、前に立った。
その子に向かって立ったのは俺一人だったが、その子は別の男の子に向かって立っていて、その男の子もまた別の子の前に立っていた。

さらに、内気で正直に行動出来なかったであろう男の子二人が俺に向かって立っていた。


実際の恋愛だったらエラい事である。
泥沼なんてもんじゃない。


しかも、誰かに立たれたり、立ったりすることが出来る者はまだ良い方で、可愛そうなのはそれが出来ない人だ。
最後までオロオロするばかりで、結局アシスタントに誘導され同じ様な境遇の人と無理矢理くっつけられ座る。


彼らの心中や如何。ものすごい自己嫌悪に襲われているのだろう。


結局俺は、セミナー期間中一番気が合い、仲が良かった太郎君とペアを組み座った。


その後しばらくして、なんとか全員の相手が決まり、一緒に座った相手と反省タイム。


俺「いやー結構上手く行かねーモンだな」
太郎君「あぁ・・・。」


いつも明るい太郎君だが、明らかに憔悴しきっている。


俺「どうした?すげえ落ち込んでない?」
太郎君「そういうお前だってかなりブルー入ってるやろ」
俺「いや俺さ、正直自分でもそんなに好きかどうかわかんない相手を選んじゃったのよ。そんでしかも、フラれちゃったわけじゃん。なんか良く分からんままショック受けてる」
太郎君「そうかー…。オレな、すごい好きな相手決まっててんけど、結局その子のとこ行けへんかってん。そんで結局お前んとこ来てんけど、行けへんかった事がごっつ悔しいねん」
俺「難しいもんだよなぁ…」


ここまで、セミナーの妙な空気に囚われず、どこかハマりこめないままここまで来てしまった俺と太郎君。そういった状況も似ていることが気があった一因でもあるのだが、ここへきて大分ヘコまされてしまった。


難しいというか最初から明らかにムチャなんだが、そんな当たり前の事に気付くような状況ではなかった。
そんな二人の肩をトレーナーは無言の笑顔でポンと叩く。


洗脳完了、とか思ったのだろうか。






9 4つの選択(出会いのゲーム)の巻

三日間のベーシックセミナーの最後を飾るこのゲーム。
参加者の涙腺緩み率も最後らしく最も高かった。


ルールはいたって簡単。
下図のように参加者が二つの輪を作り、向かい合って回る。
出会いのゲーム図1

向き合った相手と、トレーナーの合図で1から4までの数字を出す。
自分が出した数字と同じ数字を相手も出していたら、以下の行動をする。

1の場合 → そっぽを向く
2の場合 → 見つめあう
3の場合 → 握手をする
4の場合 → 抱き合う

その後、内側の円の人たちが右に一人分ずれ、次の人と出会う。
これを何度も繰り返す。
ルールはこれだけ。簡単でしょ?合コンのゲームに応用できるかもしれない。


癒し系っぽいBGMを大音量で鳴らしながら、スタート。


最初は、皆照れもあってか大体2か3を出す。
しかし、トレーナーが煽るようにこんな事を言う。


「皆さん、目の前に立っている相手とは、もう二度と出会えないのですよ!」


そう、これは出会いのゲーム。
人生で幾度も起こるハローグッバイの疑似体験である。


トレーナーのこの一言から、参加者の様子が変わってくる。
ぽつぽつと皆4を出すようになり、最後には全員が4しか出さなくなった。
厚化粧の女の子も汗臭いデブもみんな号泣しながら抱き合う。
客観的に見るとかなり汚い図だったんだろうな・・・。


俺はある目的(後述)があったので最初から最後まで4しか出さなかった。
3日目ともなると、俺はセミナーの伝えたいメッセージとやらを、「頭で」理解するようになった。
「気持ちで」理解してしまった参加者たちは、もう抜け出せないのだろう、という事を少し考えながら。






10 ベーシックセミナー終了~山田君との再会の巻

最後のゲームである「4つの選択」のあと、エピローグというか総まとめみたいなものがあった。


部屋の電気を消し、目隠しをし、癒し系の音楽が流される。
お決まりのパターンである。


目隠しをされた参加者達は、アシスタントに手を引かれ、何列かに並ばされる。
そしてトレーナーが優しい口調で語り出す。


「この三日間、色々な事を学びました。赤黒ゲームでは相手を信じ助け合う事の大切さ・・・」

小学校の卒業式のノリで三日間を振り返る。
もう感極まって泣いてる者もいる。


「そして最後の『4つの選択』・・・。あなたは今まで色んな人達に出会ったと思いますが、わかり合えないまま別れてしまった人もいることでしょう…。しかし、あなたは既にとても大切な人に巡り合っています。この素晴らしいセミナー(自分で言うかい)を紹介してくれた人です。あなたはその人に、何番を出したいですか?正直に、出してみてください。」

目隠しをされたまま4を出す。皆も見えなかったが4を出したと思われる。

「さぁ、目隠しを取ってみてください!」



目隠しを取ると、目の前に紹介者が花束を持って立っている。
感動のご対面というわけだ。


俺の前には当然、満面の笑みを浮かべた山田君が立っていた。


山田君「おつかれ高橋。どうだった?」
俺  「いやーどうっていわれても。特に何も。」
山田君「・・・・・」
俺  「あ!最後の『4つの選択』、色んな女の子と抱き合えて気持ち良かった」
山田君「しょうがねえなあ。お前は・・・」


周りを見るとみんな紹介者と抱き合い、再会を喜びあっている。
「ありがとう、ありがとう」とただ泣きながら紹介者に礼を言っている者もいる。


山田君も俺と感動的に再会したかったのだろうが、俺があまりに期待ハズレのリアクションを取ったために苦笑しているようだった。



こうして、花束を抱えた参加者達は興奮状態のまま帰路につき、ベーシックセミナーは終了した。
帰り道、皆口々に「アドバンスセミナーにも是非行きたい」と言っている事に俺は違和感を覚えたが、口には出さなかった。


きっと理解できなかった俺の方がおかしいのだろう、と考えていたと思う。






11 まとめの巻

体験レポートは前回で終了です。
この完結編ではこのセミナー体験に対する俺の私見を述べたいと思います。


総括1:セミナーの表の意義と裏の意味



セミナーが参加者に伝えたかったメッセージとは一体何だったんだろう?
俺は最初に山田君から、「人生をより良く変える素晴らしい何か」としてセミナーを勧められた。


体験してみた結果は今まで書いてきた通り。
俺は「人生をより良く変える」事はできなかった。
唯一良かった事といえば今こうしてネタにできる事くらいだろうか。


今思い返してみると、セミナーが伝えたかったメッセージにはいずれも真新しいモノは無かった。色々な本を読み、社会にでれば普通に学べる範囲のことでしかない。


例えば、体験セミナーのメッセージであった(と思われる)
「既存の枠組みに捕われて自由な発想ができていないのではないか?」
というメッセージ。


この程度の事は、普段の生活の中で当たり前に学べる事だと思う。
わざわざ大枚はたいて行くモンではない。
ベーシックセミナーを通じて伝えたかった他のメッセージに関しても同様の事が言える。


ところで、実は、ベーシックセミナーを終えた参加者達は、希望により(といっても物凄い勧誘を受けるのだが)アドバンスセミナーを受け、その後実践セミナーを受けられる。
この実践セミナーというのは、「これまでセミナーで学んできた事を実社会に応用する」セミナーだそうである。


これって具体的に何を「実践」すると思います?




勧誘するんです。新たなカモを。ノルマまで決めて。


俺を勧誘した佐藤君や山田君は、この実践セミナーの途中だったと思われる。
こうやってセミナーを主催する会社は自己保存を行っているわけだ。
良く出来たものである。


そう考えると、先ほどの命題「セミナーが伝えたかったメッセージとは何か?」の答もおのずと分かってきます。


・赤黒ゲーム
相手を信じ自分の不利益を恐れず行動すべきだ → 友達なくす事を恐れず勧誘すべし。


・最後の15分
一瞬一瞬を大切に悔いなく生きよう → 時間を惜しまず勧誘すべし


・石とダイヤモンド
人間は無限の可能性を秘めている → 諦めることなく勧誘すべし


・告白
好意を抱いた人には思いきって自分の気持ちを伝えよう  → ためらわず勧誘すべし


・4つの選択
初めて会う人でもその出会いは大切にしよう。 → 道行く人をキャッチで勧誘すべし


どうですか?曲解してますかね俺?
でも、「学んだことを実践する事」=「勧誘」なら、こう理解するしかないんだけど。


俺のように何度も勧誘されて根負けしてセミナーに行く人も多いとは思うが、それぞれの夢や目標を持っていてそれを叶えるためにセミナーに行く人だっているのだろう。


そんな人がいつのまにか日々勧誘に明け暮れるようになっていくわけだ。


総括2:ハマった人達の見分け方の巻



ベーシックセミナーを受ける前の参加者達は、どこにでも居る普通の若者たちだ。 その普通の若者が、ベーシックセミナーを受け魅力に取りつかれ、アドバンスセミナーを受けた頃から皆ある特徴が出てくる。
俺が気づいた彼らの特徴をいくつか挙げたいと思う。


・目がムダに輝いている。
とりとめの無い会話をしている時でも俺の人生サイコー!って感じの目になっています。ギラギラしています。


・怪しい呪文を唱えている。
「エンロール」「シェア」「コミットメント」「ポジティブ・フィードバック」「ストレッチング」「ギバー」「テイカー」等々。
怪しいセミナー用語の数々。
「エンロール」は「勧誘する」という意味。
他の用語の説明は割愛するが、周りの人がこう言う事を言い始めたら要注意。


・無礼である。
彼らは勧誘する時、いきなりセミナーの話ではなく、「将来の夢」や「今夢中になっている楽しいコト」などの話を聞き出そうとする。それは別に良いんだが、「そんなコトしてどうなるの?」とか「それで満足なの?」というように何のてらいもなく他人を全否定する。そして至上の価値として「セミナーに行くこと」を上げます。


・勝ち誇っている。
無礼な上に、勝ち誇っている。常に相手を見下し、諭すように話す。


俺  「やっぱり俺には必要ないよ。俺だって頑張ってるんだし」
山田君「でもやっぱりお前はわかってないよ」
俺  「何故そんな事言いきれる?」
山田君「やっぱお前はアマいよ」
俺  「じゃあどうすれば良いって言うんだよ?」
山田君「セミナーに行くこと。行かなきゃ分かったとは言えないよ」
俺  「俺には必要ないって言ってるだろ?俺は俺なりに夢も目標もあるしさ。それに向かって努力もしてるんだからさ。」
山田君「今のままじゃお前絶対失敗するよ」
俺  「だから何で言いきれるんだよ!」
山田君「セミナー行ってないからさ。」


俺はこんな事言われてる訳だから当然苛立ってるが、山田君は終始笑顔。ワカってないなぁコイツって感じの。
ベーシックセミナー行ったら行ったで、


山田君「アドバンスセミナー受けるんだろ?」
俺  「いやーもう十分だ。もういいわ。」
山田君「そこで満足してちゃダメだよ」
俺  「いやもう俺色々学んだし、これからまた目標に向かって頑張ろうかなって」
山田君「ベーシックだけじゃ不十分なんだよ。アドバンス行って初めて学んだと言えるんだ」


こんな感じ。俺がいくら「もう十分」といっても、アドバンス経験者同士でニヤニヤしながら「アドバンス受けてないんじゃなぁ」というばかり。


総括3:ハマり易い人の巻



ここまで読んでくれた方は気が付いたと思うが、セミナーの効き目には個人差がある。
どっぷり浸かって涙腺が切れてしまう人もいれば、俺のように途中で居眠りてしまう人もいる。
(もっと瞑想系のゲームなども紹介したかったが、俺はその類は殆ど寝ていたので覚えていないのです)


以下にあげるタイプの方は、ハマってしまう可能性があると言える。


・マジメすぎる人
セミナーは「就職の為」とか「夢を実現する手段」なんていう名目で誘ってくる。勧誘者も自信ありげに「セミナーで学んだから夢に近づいた」なんてことを平気で言う。「夢に近づいた」結果として勧誘に明け暮れているのだから、マジメに付き合う必要はない。


・コンプレックスの強すぎる人
「今の情けない自分」を引き受けられない人が多くハマっていったように思う。
「人と上手く話せない」「努力しても思うようにいかない」など、誰しもが持っているかもしれない悩みを、勧誘者は巧妙についてくる。人工的な方法でたかが三日四日で自分の性格のイヤな部分を変える方法なんてのは、たとえ変わったような気がしたとしても、元に戻るのも早い。その「変わった」気分を維持するタメに、セミナーに金払って何度も通う「中毒者」も実際いた。


・プライドの高すぎる人
勧誘者は人の虚栄心や功名心をあおるのがとても上手い。
おだてたり、妙な仲間意識をチラつかせ、勧誘する。


カモ 「なんで俺を誘ったの?」 
勧誘者「俺は、お前なら理解してくれると思ってお前だけに話したんだよ。」
カモ 「そう?」
勧誘者「お前は、他の奴らと違って頭イイし、夢に向かって努力することの出来る人だろ?」
カモ 「まぁな・・・。」
勧誘者「そんなお前だから、絶対このチャンス生かせると思って」


そしてアドバンスセミナーを卒業してしまえば、周りは同じ価値観を持った仲間ばかりになり、自分の事を悪く言う人は誰もいなくなる。さぞかし居心地が良いことだろう。






12 おわりに

ここまで読んで頂き本当にありがとうございました。


3年程前に書いたテキストを、今回「憂無」に再UPするにあたり修正・加筆しました。
俺がこのセミナーを受けたのは、もうかれこれ10年近く前になります。このセミナーを主催している「組織」がその後どうなったのかは俺は知りません。


ちなみに、15万円払って受けられる次のステップ「アドバンスセミナー」は、「ベーシックセミナー」の数倍過激らしいですよ。タダだったら絶対行ってみたかったなあ。


セミナーについて何か情報をお持ちの方、もしくは「俺も体験談晒したい!」という人は是非俺にも教えて下さい。


では。