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11月8日マウスの性行動は性交渉の経験の有無で大きく変化する(11月16日号Cell掲載予定論文)

2017年11月8日
マウスの性行動時に、相手対する認識はフェロモンを感じる鼻鋤骨器官から副嗅球経て扁桃体へ投射される神経ネットワークにより行われている。すなわち扁桃体で相手についての表象が行われるわけだが、この表象がどのように形成されるかはもちろんわかっていない。

今日紹介するハーバード大学からの論文は脳の奥にある扁桃体に一種のファイバースコープを差し込んで、扁桃体の内側領域全体での神経活動をカルシウムイメージングで検出しようという論文で11月16日に発行予定のCellに掲載された。タイトルは「Neuronal representation of social information in the medial amygdala of awake behaving mice(覚醒し行動しているマウスの内側扁桃体の社交情報の神経的表象)」だ。

これまで性行動の相手方に対する表象が扁桃体で形成されることはわかっていたが、扁桃体は脳の奥に存在するため自由に行動させているマウスで連続的にニューロンの活動を拾うことはできていなかった。この研究は、マイクロ内視鏡と呼ばれる方法で60日以上のカルシウムイメージングを撮り続け、この間メスマウスは妊娠出産まで経験したというのがポイントだ。

研究では、オス・メスマウスにそれぞれ蛍光イメージセンサーを装着し、オスマウス、メスマウス、乳児、ラット(天敵)の床敷き、そしてフェロモンの出ない物質と出会ったときの扁桃体の反応を細胞レベルで調べている。結果は期待通りで、それぞれに対して扁桃体の個々の細胞は興奮が上昇、不変、低下など様々な反応を示すが、全体を合わせたパターンはそれぞれの対象に対して特徴的で、細胞集団として相手に対する表象を形成し認識していることがわかる。この結果は、同じマウスに様々な対象を経験させ反応を比べることができることで初めて可能になっている。また、この時のパターンは、個体は異なっても一定のパターンが存在し、それぞれに対する反応はオスとメスで違っていることから、性行動のための認識システムが成長期に完成していることがわかる。また、それぞれに同じように反応するニューロンは一塊になっているのではなく、バラバラに混じり合って存在している。そして、パターンとしては区別できるが、同じ細胞が様々な対象に反応しあいまいさも多いため、完全に表象のパターンを区別することは難しい。

ところが、一度それぞれのマウスが相手と性交に至ると、対象に対してより特異的に反応する細胞の比率が上昇し、それまで個々の細胞の反応の重なりのために区別があいまいだった神経反応が完全に分離する。すなわち、明確な表象が形成され、相手を正確に区別するようになる。この区別は一回の性交で長く続くが性交を途中で中断させると表象の分離は完成しない。この分離は相手に対してだけでなく、性交を経験したマウスはオス・メスともに乳児についての表象も他の相手の表象から明確に分離できる。

この分離を起こすメカニズムについてはまだわかっていないが、匂いを含む様々な感覚が統合され分離が完成するのだろう。面白いのは、性交の代わりにオキシトシンも分離を促すことができるが、オスだけに効果があることだ。

この研究のハイライトは、性交自体が重要なシグナルになっていることを明らかにした点で、個人的には面白い結果だと思う。この実験系では、性交から妊娠、さらには出産まで脳活動を追いかけることができることから、種の生存にとって最も重要な行動の秘密が明らかにされていく期待がある。

  1. 本田孔士 より:

    動物の行動学的研究では、親等の性行為を観察した事のない子(例えば、特異な環境で人口飼育された個)が生殖期になっても性行為をしないという。従って、このシステムを作動させる更に上位からの入力系があるのではないだろうか。

    1. nishikawa より:

      マウスの性行動はフェロモン依存性が強いですが、高等動物になるとボス支配などさらに社会性が加わります。

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