治療者必見!ジャンパー膝のリハビリと復帰までの道筋3つのポイント

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ジャンパー膝。それはバレーボール、バスケットボール、サッカーなどジャンプ着地スポーツにおいて膝前部に痛みを訴えることが呼ばれている疼痛性疾患です。その症状への主な診断とされる膝蓋腱症。

膝の痛みに悩んでいる選手を現場で見ることは多いと思います。
そのような選手に対してなんとか痛みをなくしてプレーしてもらいたいところですよね。

こんな経験はないでしょうか?復帰したが、再発してしまうケース。
復帰させる時期や評価方法はすごく難しいと感じています。

医師の指示やプロトコール通りにうまくいったかなと思っても再発してしまうケースもなくはない。もちろん『…こうしてたら』『…こうしてれば』の話しになるかもしれないが、できる限り復帰したら再発をなくしたいと選手・治療者とも強い思いがあります。
そんな、ジャンパー膝のリハビリから復帰までのプロセスにターゲットをあて、まとめました。

1.ジャンパー膝に対する結果を出すためのリハビリ3選

ジャンパー膝はランニングやジャンプ動作により繰り返しのストレスがかかり、膝伸展機構(大腿四頭筋ー膝蓋骨ー膝蓋靭帯)に生じることが原因と考えられています。ゆえに過負荷となっていることが多く、復帰しても繰り返しやすい特徴があります。

1-1 運動療法について

主な介入方法は大きく分類すると

・関節可動域訓練
・リラクゼーション
・筋力増強訓練
・運動のコーディネーション構築
・各競技毎の特性練習を行い、競技復帰へ向かいます。

リハビリを行う上で大事なことは常に『ゴール』を忘れてはいけないということです
ゴール=競技復帰で良いでしょうか?競技復帰とは明確な目標にみえますが、意外と不透明です。
パフォーマンスアップが成されないまま、復帰してしまえばやはり再発してしまう可能性が高くなります。

選手のチームでの立場・シーズン時期・重要な試合が近い・選手、監督は早期復帰を望んでいる・選手の年齢など多角的に考慮すると理想論ではないか。そう思われる方もいるかもしれません。
それでも本当に選手のことを考えるのであれば、しっかり情報共有を行い、選手を守らなければいけません。
ではパフォーマンスアップはどのように考えればよいのか。
パフォーマンスアップのKeyとはなにか。
スピード・パワー・キレ・持久性。

もっと具体的に挙げるならバスケットボールであれば「より高く飛ぶ」「より速く最高打点に到達する」「シュート精度をあげる」「試合終盤でも落ちないジャンプ力」など最終的なゴールはなんなのか。ただ怪我からの競技復帰のみを考えて行うだけでは訓練内容や評価もぶれてしまいます

準備/ケア⇔非機能的トレーニング⇔機能的トレーニング⇔ゴール

ここでいう機能的トレーニングは競技特性に近づいたトレーニング。
非機能的トレーニングは問題点となる弱さのある部分を取り出して行うトレーニング。
準備/ケアとはいわゆる痛みや可動域低下などがあり、非機能的トレーニングの前段階である準備期間とご理解ください。
ジャンパー膝のリハビリでは負荷量のコントロールをきちんと管理するということが重要となってきます。


引用画像:協同医書出版社 理学療法ハンドブック第3巻 改訂第4版 P365

みなさんはどのようにして管理を行い、ステップアップをしていますか?もちろん医師の指示のもとでという大前提はありますが、プロトコル通りに行っていても、全てがうまくいくケースばかりではないと思います。
プロトコルは重要ですが、あくまで基準です。

次段階に進める状態ではない可動域・痛み・筋力・動作では間違いなく運動パターンが崩れた状態での再構築が学習されてしまいます。
次はそれぞれの段階での具体的な方法を紹介していきます。

ケア/準備

この時期はいわゆる受傷や症状発生から間もない「急性期」のイメージです。
炎症症状が強い場合に関しては安静が必要になってきます。

炎症での安静と安静による不動からおこる末梢の循環不全が生じるということをしっかり理解する必要があります。

炎症が生じると、細胞レベルでは間質液がパンパンに腫れて、痛覚が過敏となります。 その為、どんな刺激に対してでも痛みの神経の閾値が下がり疼痛を引き起こしやすくなります。さらに腫れによって、ブラヂキニンといった痛みの物質が患部に溜まり、より痛みに敏感になり、筋肉の緊張が高くなり、組織間や組織内は癒着や硬結が生じます。また、パンパンに腫れた局所は動かさないこと(不動)で隣接する組織の癒着が進み、滑走性が落ちた分、可動性がない部位が伸ばされ、組織への酸素/栄養供給はなくなってしまいます。一方で、局所の循環が悪いことでさらに痛みや腫脹を生じやすいという負のサイクルに陥ってしまいます。

本来、組織ダメージが加わると生体防御反応が起き、炎症が生じます。炎症が生じると隣接する組織間の圧上昇に伴い癒着が生じます。炎症は24~72時間でピークを迎えます。新たな外部刺激が加わらなければ炎症は起きません。しかし、新たに外部刺激を受け炎症の再発を繰り返せば、組織の線維化が起き、関節周りの軟部組織の柔軟性低下が生じます。

そこで重要な事は「局所循環を正常化させること」です。  組織修復するには、下図のように組織修復に必要な材料である「酸素」や「栄養」が動脈管を通して損傷組織内に流入します。そこで「二酸化炭素」や「老廃物」となり静脈やリンパ管を通して排泄されるというシステムとなっています。このサイクルが繰り返されることで組織修復が行われます。

参考文献:Sportsmedicine 2015 No.171  足関節捻挫後のCRPSを回避する対応 土屋潤二

ジャンパー膝の誘発要因として
大腿四頭筋、膝蓋腱の過負荷
足関節や股関節の可動域制限による重心位置の後方下のため膝伸展機構の伸張ストレス
膝蓋下脂肪体の滑走障害
Knee in-toe outのアライメント不良などが考えられています。

上記から考慮すると、
・膝蓋靭帯・膝蓋下脂肪体リリース
・大腿部筋肉リリース
・大腿脛骨関節屈曲方向のモビライゼーション
・距腿関節モビライゼーション
・股関節モビライゼーションなど

まだまだ治療介入方法としてはたくさんあると思いますが、一例としてあげます。
その中で今回は大腿脛骨関節屈曲方向のモビライゼーション、距腿関節モビライゼーションの動画を紹介します。

非機能的トレーニング

この時期は準備/ケア期と重複しますが、炎症期間が過ぎ、競技練習に合流する前段階の準備期間と考えていきます。

一例として、
・レッグエクステンション
・レッグカール
・ヒップリフト
・グルードハムレイズ
・片脚立ち(閉眼含め)
・ステップからの着地動作など
局所の抵抗力を改善するための内容が中心です。

ランニングはまだ行わないの?ゆっくり行えばよいトレーニングでしょ。と思った方もいると思います。
一見負荷が軽くみえるランニング。運動に取り入れやすく、比較的早い段階から行っていくイメージがあると思います。、本当にすぐに行うことが良い運動でしょうか?
ランニングでの着地では膝関節にかかる荷重は体重の約5倍程度(差異あり)負荷がかかるといわれています。
体重70kgの男性で仮定します。
70×5=350kg
それが仮に、ステップからの着地動作でぴたっと止まれず、ぐらぐらしてしまう身体状況で行い、何千回、何万回とランニングの着地動作が繰り返される負荷がかかるとそれが良いトレーニングになっているかといわれるとそうでないことが容易に想像がつくと思います。
行える状態であればもちろんランニングはとても良い運動のひとつです。
実は良いトレーニングと思っていた内容が身体状況により過負荷になっている可能性があるという事を理解していなければなりません。そうでないといわゆる「繰り返してしまう」可能性が高くなります

参考文献:Burdet, RG: Force predicted at the ankle duringrunning. Med Sci Sports Exerc 14: 308-316, 1982.

機能的トレーニング

ここでは、いわゆる復帰を目指し、競技動作に限りなく近い動作、運動を取り入れていく時期にあたります。
例として
・ジャンプ動作
・縄跳び
・ランニング
・サーキットトレーニング
・プライオメトリック
・実際の競技練習の合流(部分的合流から)
最初にゴールをたてたパフォーマンスアップとなるKeyからぶれずにそれに沿って訓練内容に目的をもっておこなっていく必要があります

1-2 物理療法について

疼痛性疾患のため主な目的としては
①除痛効果
②炎症消炎
③局所・全身の循環状態改善
が最大の目的となります。

電気治療・温熱療法・交代浴などが主に用いられています。 実施するにあたり、ただ、疼痛部位にセッティングし、行うだけではもったいないです。 もちろん疼痛部位に対して行うことは基本とされています。
では、こうゆう考えはどうでしょうか。 さらに、その神経をつかさどっている、脊柱部にも刺激を入れることができれば、さらなる局所の循環状態の改善につながります。 また同部位の運動/感覚神経に関連している自律神経部にもアプローチできればさらなる効果、ターゲットにしている問題点へのアプローチへとつながることが考えられます。  除痛目的であれば、痛みに耐えうるぎりぎりの刺激の強さのほうが痛みの閾値をあげられる効果があり、  感覚入力目的であれば、認識できるぎりぎりの刺激の強さで促したり、  自律神経系の促し目的であれば、とにかく気持ちよい刺激の強さで行い、リラックスさせたほうがより目的にそった治療を促すことができたりと物理療法でも、促したい治療目的により、刺激の強さ、当てる場所など、引き出しを多くもてるほうが患者さん、クライアントさんのためになりますよね。

1-3 装具について

疼痛に対して装具やテーピングという対症療法もあります。
一例としては下記の様な装具があります。

商品名:ZAMST 膝JKバンド 
画像引用:日本シグマックス株式会社 http://www.zamst.jp/product/jk-band/

疼痛軽減・安心感を与えるには有効な手段ではありますが、装具やテーピングを長期的に使用しつづけることはデメリットも理解する必要があります
そのわけとして患部を不動・固定することでの
・循環不良になるリスク
・廃用のリスク
・関節組織の軟部組織(腱、関節包、靱帯、筋膜、筋肉、皮膚など)に適度なストレスがかかる機会を減らし局所の抵抗力や強さを養う機会が奪われやすい。
・運動のコーディネーション能力が低下するリスクもあります。
上記を理解したうえで適切な対処方法を選択する必要があります。

2.ジャンパー膝の治癒期間を理解し、現在の状況を把握せよ

リハビリの過程だけ理解していても不十分です。
痛みの発生部位や評価により軟部組織ターゲットの鑑別を図ることができます。その組織ごとの正常な治癒期間についても理解していくことで、より選手の現状、経過をおって、現在の状態が正常なのか逸脱しているのかを評価することができます。

靭帯の正常治癒期間であれば治癒期間は  グレードⅠ(20%断裂) 5~14日  グレードⅡ(20~75%断裂)…14~30日 グレードⅢ(75%~完全断裂)…数ヶ月 となっています。 ジャンパー膝に関しては、基本的にはグレードⅠ~Ⅱが基本です。

そのほかにも筋膜、脂肪体などもありますが、上記治癒期間を考慮しながら痛みの経過がどうなっているのか。順調に回復傾向なのか、再燃・寛解を繰り返してるのか、悪化傾向なのかをとらえていくことが重要です。

3.これで納得!繰り返さないための復帰までの道筋のプロセス

3-1 絶対外せない!まずは競技特性を理解せよ

そんなこと当たり前だよ。いわれてみればその通りです。
たとえば、高齢者の方が骨折や脳卒中を患い、在宅復帰時に基本動作だけが行えるようになるだけでは不十分なケースは多々あります。
もともとの役割であった洗濯物干しや家事動作、職場復帰まで行うためにはその動作の理解をすることが必要です。
スポーツ選手も同様です。

①競技ルール

サッカーであれば、点数を相手より多く取り競う競技。

バレーボールであれば、規定の点数を相手より早く取り競う競技。

100m走であれば、相手より速いタイムを競う競技。

それぞれの点数基準方法、コートの大きさ、時間制限の有無、コンタクトの有無などのルールを理解しなければ、その次に考えるべき必要な項目がわからず、あいまいなまま進んでしまいます

②生理学的要素

競技ルールを理解することでこの生理学的要素が考えられます。 その競技の『主運動』『副運動』はそれぞれどのくらいの『時間』がある競技なのか。
その運動時間は下記に分けられます。

(1) ATP-クレアチンリン酸(CP)機構(非乳酸性機構)

(2)乳酸性機構

(3)有酸素性機構
1)(2)のATP供給機構を主に利用する運動を無酸素運動、(3)を主に使う運動を有酸素運動となっています

これらをもとに運動生理学を理解することでゴール設定がより明確になりやすくなります。

③タイプやポジション

プレイヤーのタイプやポジションにより、さらに個別性を考慮した能力、特性を把握し、トレーニング内容を考慮する必要があります。

3-2 抵抗力と負荷量(3S)とは

抵抗力とは字のごとく抗う力です。負荷量(3S)とはここでは、ライフスタイル・ワークスタイル・トレーニングスタイルのことを言います。  具体的にはトレーニング内容(量/質)、仕事時間、仕事・トレーニングの姿勢、生活状況などのことです。  

治療において、運動連鎖や膝の機能解剖などももちろん重要な要素ではあります。しかし、そこに着目点をおくだけでは、その場では良くなったと選手から言われたとしてもその後はどうでしょうか?本当にスムーズに経過をたどっていけるかは疑問です。ましてや再発など難渋するケースであればなおさらです。

冒頭でも記載しましたが、ジャンパー膝の治療に重要な負荷量の設定。
それは『問診』により把握することができます。
・練習時間や頻度
・練習、試合量
・休みの間隔
などなど

上記のリズムの変動(急激な増加)なども重要になります。
このような状態は下記図のような釣り合いとなります。

明らかに負荷量が増えている項目があれば、局所の機能改善とともに負荷量も調整することが悪化防止には必須となります。

他には、練習量などはかわっていないのに痛くなったケースではどう考えればよいのでしょうか。
選手が「なんか特にかわったことないのにまた痛くなったんですよ。」きっかけも身に覚えがないまま、上記のような訴えがあればどう読み解けばよいのでしょうか。
ひとつの視点として、この考え方があります。

『負荷量が変わっていないのに、抵抗力が下がっていた場合』です。

再発例を考える場合、頭に入れておく必要がこれです。

一度損傷した組織は、以前より脆弱になる」ということです。 損傷した組織が十分に回復していない状態=組織の抵抗力が落ちた状態は再発を招きやすいです。そのため、負荷量の設定をするとともに復帰する時期に身体・局所の抵抗力を戻してから復帰させる事がとても重要なのです。

3-3 心理社会的要因とは

ここでの重要なポイントとしては『慢性期や再発』ということです。慢性期であるほどここの要因もしっかり考慮しなければならなくなってきます。  具体的には精神的なストレスにより身体への負荷がかかり、影響されるものです。  例えば「早く復帰しなければポジションがなくなる」「やっと復帰したのにまた繰り返してしまった」といった焦りや不安感。周囲からの目線、評価など過剰に反応するなど人によって感じるストレスや要因は様々です。 なぜ心理社会的な要因が関係するかというと、組織の局所循環をコントロールするなどの調整機能を司る「自律神経」と密接に関わるからです。これは、末梢神経レベルでの運動/感覚神経と自律神経は相互に影響しあいます。

4.簡単解決!ジャンパー膝の基本的な病態把握をチェック!

4-1 ジャンパー膝とは

バレーボール、バスケットボール、サッカーなどジャンプ着地スポーツ者において膝前部に痛みを訴えることが呼ばれている疼痛性疾患です。
ジャンプやランニングなどのスポーツ動作において、大腿四頭筋の求心性・遠心性収縮が繰り返されることによって生じる膝伸展機構への伸張ストレスが挙げられます。
好発年齢は10歳代後半。
複数の病態が存在し、膝蓋靭帯に圧痛を認め、膝屈曲位にて痛みが強い例・膝伸転位にて痛みが強い例・膝蓋靭帯の膝蓋骨付着部に限局してみられる例などがあります。
下図はRoels分類(病期分類)です。

引用画像:整形外科リハビリテーション学会 改定第2版 関節機能解剖学に基づく整形外科運動療法ナビゲーション

選択される治療法はほとんどの場合、保存療法が優先されます。

4-2 ジャンパー膝に似ている疾患

ジャンパー膝(膝蓋靭帯炎)と類似する疾患はOsgood Schlatter病、Sinding-Larsen-Johansson病、有痛性分離膝蓋骨、神経病性関節症(シャルコー関節)痛風、偽痛風、膝蓋嚢腫、滑膜ひだ(タナ)障害、半月板損傷、膝蓋骨不安定症などがあります。

5.まとめ

競技復帰というあいまいな目標ではなく、具体的なゴール(パフォーマンスアップのKey)を定めることでぶれない様にする

競技特性・運動構造を理解することでアプローチ内容が明確化されやすくなる

対処療法のみでなく、抵抗力と負荷量を見きわめ、コントロールすることが選手にとって重要である

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