田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 特別国会では論戦が一応展開中である。しかし相変わらず森友学園と加計学園についての質疑が論戦の中心である。筆者の記憶によると、確か選挙では野党側が「消費税凍結」を訴え、それに対して安倍晋三政権は「消費増税を前提にした再分配の見直し」を提起していたはずだ。だが、国会では各党党首の代表質問をみても、この「凍結vs増税」という図式はない。

2017年11月、衆院本会議で共産党の志位和夫委員長(手前)の質問を聞く安倍晋三首相(斎藤良雄撮影)
 筆者はこの連載でも指摘してきたが、野党の消費税凍結は偽の論点だと思っていた。立憲民主党も希望の党も2年後の凍結をうたうものの、その経済政策は、成長を否定する単なる緊縮主義か、または金融緩和への否定的評価に基づくものであった。要するに、今の日本経済がそこそこうまくいっている事態を否定する政治勢力と思えた。そのため消費増税の賛否という偽の論点に釣られることなく、経済政策全体をみる必要性を訴えてきたつもりである。今の国会の論戦では、この「消費増税凍結」がいかに国民の多くを「釣る」ために持ち出されてきた論点が明るみに出ているといえよう。つまり、今の野党は安倍政権を打倒できればそれでいいわけであり、日本の経済政策などまともに考えていないのではないか。

 とはいえ、安倍政権が今もまだ消費増税路線を放棄していないことも深刻な間違いである。消費増税を推進する側の理由は、税の公正性、高齢社会にむけての福祉目的、そして「財政危機」への対応の三点を列挙するのが普通である。以下では、消費増税に反対する観点を、これらの賛成側の三つの理由に反論する形で書いてみたい。

 日本で最も長く消費増税に反対を続けているのは、八田達夫大阪大学名誉教授である。『消費増税はやはりいらない』(1994年)、『日本再生に「痛み」はいらない』(2003年、岩田規久男氏と共著)などが代表的な著作である。八田氏の消費増税への反対は、消費税が税の公正性をもたらさないこと、高齢化社会の福祉目的として妥当とはいえないこと、そして消費減税をむしろ行うべきでありそのときは所得税改革とともに行うべきだ、という点にある。八田氏の従来の主張を参照しながら、消費増税の抱える問題を深く検討していこう。

 税の公正性については、消費税推進派はしばしば「クロヨン」の解消を挙げる。クロヨン(9・6・4)とは、税務署の課税所得の捕捉率をいう俗称であり、給与所得者は9割、自営業者は6割、そして農業者・漁業者などは4割にしかすぎないことをいう。だが消費はすべての人たちが行うので、所得税から消費税に税制の基本をシフトすることは、このクロヨン問題の解消につながる、というのが推進派の理屈である。