店舗などの接客現場で、客から従業員が受ける悪質なクレームやセクハラは深刻さを増している。立場の弱い者へのストレスのはけ口にも見える。人への不寛容が社会の中に広がっていないか。
・総菜の価格確認に行こうとしたら「待たせるな」と三時間、従業員を拘束
耳を疑うような客の迷惑行為を労働組合「UAゼンセン」が報告している。百貨店やスーパーマーケットなどで働く組合員を対象に実施したアンケートにでてくる実例だ。
74%が被害に遭ったことがあると回答している。複数回答による被害内容で多かったのは暴言だ。それ以外にも説教、脅迫、長時間拘束、セクハラ、金品の要求、土下座の強要まであった。
約五万人が回答し、うち三百五十九人は迷惑行為で精神疾患にかかったという。商品や対応に問題がなくてもクレームをつけたり、少しのミスに過剰な謝罪を求めることが現場を疲弊させている。
UAゼンセンがその対応策をまとめたガイドラインでは、クレームの特徴に高学歴、高所得だったり、社会への不満を持つ人が多いのではないかと分析している。
鉄道会社の駅員への暴力行為も以前から問題になっている。国土交通省によると二〇一五年度の発生件数は八百七十三件で、一二年度から件数はほぼ横ばい状態だ。加害者の約六割が飲酒していた。
もちろん商品やサービスに不備や要望があれば、それを客が企業に伝えることは当然である。企業も、クレームは商品・サービスを向上させるための有益な情報であるとの認識は前提だ。
ただ、こうした迷惑な行為に共通するのは、自分より立場の弱い人たちに不満の矛先を向けていることだ。日常のストレスを発散しているのだろうか。格差拡大などの社会問題が背景にあるようにも見える。
現場の従業員が安心して働けない深刻な事態ならば、既に企業に対応を義務付けているセクハラ対策のように働く人を守る手だてを取ることも必要だろう。
東日本大震災などの災害時に、深刻な被害に遭いながら助け合う被災者たちの姿は海外からも称賛された。
弱い者いじめにも見える行為の広がりは、社会からこの力を削(そ)ぐことになりはしないか。
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