
その視点はなかったな…商品にそういうものが書いてあると思うのです
実はかねてより気になっていることがあります。それは「商品というものには"視点"が書いてあるぞ」ということなんです。
Webの記事がみなさまの「知らなかった!」をお届けするものだとすると、今回はどちらかというと日々の雑感に近いものです。記事というよりもお地蔵さまへの報告くらいが正しいのではないでしょうか。
なのでお地蔵さま、私に報告させてください。
お地蔵さまへの報告スタイルでいきます
これは記事ではなくお地蔵さまへの報告です
お地蔵さま。聞こえますか。デイリーポータルZというサイトで記事を書いている大北です。
実に3年ぶりの報告です。前回はポテトチップスの袋の詰めてなさをお地蔵さまに告発しましたね。
参照→『
ポテトチップスの袋が本気を出せばどれだけ詰められるのか』
今度はもっと広い話です。商品そのものです。私はかねてより思っていたのです。商品を選ぶときに「何基準で選べばいいか」その視点が商品に書いてあるなあということを。
あっちにも、こっちにも書いてある…!! と、それに気づいてしまった今はもう気になって仕方ないのです。
ご説明します。たとえばヨドバシカメラ新宿西口店に行ってみましょう。
たくさんの商品がある場所、ということでヨドバシカメラ新宿西口に
たとえばハサミの視点です
さすがヨドバシカメラにはたくさんの商品があります。今回は文具コーナーに行きました。ほら、もう一見してわかるでしょう。たくさん書いてますよね。視点が。
「キレイな文字が書ける」それは商品をえらぶ上で大事な視点ですよね
「もう、折れない」これもシャーペンを選ぶなら大事な視点でしょう。ここにも、あそこにも、視点…視点…
売り場は視点競争ともいえます
シャーペンなら「きれいな文字が書ける」とか「折れません」と書いてます。「こういう視点で商品を選べばいいですよ」が書いてあるんです。
一方、こちらのボールペンには「手が汚れません」と書いてました。
ボールペンで手が汚れる? おっと、その視点はなかった。
と、お地蔵さまはお思いでしょう。私もです。そうなんです。たくさんの商品があるとき、そこは視点アピール合戦になります。そこで手っ取り早く頭一つ抜け出るには「その視点はなかった」を提供することが大切なんです。
たとえばハサミを例にしてみてみましょう。そこには「よく切れる」以外にどんな視点があるんでしょうか。
切れ味の耐久性、のりがつきにくい、などなど視点がたくさんあります
はさみって何基準で選べばいいんだ?
まず目についたのは「100万回刃の切れ味つづく」とあります。切れ味の耐久性です。たしかにそれは大事ですね。ですがそのとなりには「のりがつきにくい」とあります。驚きますよね、お地蔵さま。
ハサミのパッケージなのに「ハサミ」より「のり」の字の方が大きいんですよ。今はハサミの話をしているのに…!!
地蔵菩薩といえどその視点はなかったでしょう。今度からハサミはのりがつきにくいかどうかで選んでください。そして選ばれたあと、私はお地蔵さまの肩に手を置いてまた言うでしょう。そんなことしてる場合じゃない、と。
ほら見てください。「のりがつきにくい」には「4倍の切れ味」とも書いてますよね。そうです。一つじゃないんです、視点であふれてるんです。
私はハサミ売り場にあったハサミのパッケージを見て、そこにあった視点を書き出しました。あれも考えて…これも考えて…そうするとほら、売り場はこんなにも視点で溢れてるんです。
その視点たちをグラフにするとこうです。いかに多くの視点を含んでいるか! ※グラフは売り場でメモをとっていったものなので間違いもありそうです
視点の洪水に溺れます…
ああ、一体…私たちはどういう視点で選べばいいというのでしょうか。
お地蔵さまがこれから川でおぼれた子供を助けようというときにこっちの子供に「のりがつきにくくて4倍切れる」と書いてあって、あっちの子供に「持ち手が痛くならないし牛乳パックも切れる」と書いてあったらどうするというのでしょう。
それと同じ気持ちなんです。「そうか、その視点があったのか」の連続です。
たとえばちょっと想像してみてください。ハサミを選んでるとき、最初は「とにかくよく切れるハサミくれ!」と思いますよね。
「よく切れること」とても重要です。でもここに書いてあるように「切れ味つづくこと」も大事ですね。このシリーズはカーブが特徴のようです。
対してこちらは「引き切り」だそうです。どちらも「切れ味」の話です。カーブと引き切り? 切れ味という視点だとどちらがよく切れるのでしょうか??
新たな視点が流行を見せる…!?
売り場で目立っていたのがカーブに特徴を持ったはさみです。これは「切れ味」がよさそうです。対して同じように「引き切り」という特徴で「切れ味」をウリにするものもあります。
カーブと引き切りではどちらがよく切れるのでしょう? 悩んでいるとなんと他のメーカーのハサミでも「引き切り」が見つかりました。
となると「引き切り」が今ハサミ界の中で流行ってる! という印象です。今やハサミは「引き切れるかどうか」で選ぶ時代? それなら使ってみたい! そんな風に私は新しい視点にもう夢中です。
「牛乳パックが切れること」そんな視点があったのか! 子供の工作においてハサミの何的は牛乳パックのようです。他の商品でも牛乳パック切れますよ推しがありました。
私たちは商品を選ぶときにこのような視点を参考にしています。「そんな視点はなかった!」と検討する項目に取り入れていきます。
しかしいったんその視点が気になってしまうと、あっちも視点、こっちも視点…視点! 視点! とテンションが溢れ出してヨドバシカメラさんのフロアはもう興奮でびしゃびしゃです。
あっちもいらすと屋! こっちもいらすと屋! といらすと屋の絵を認識した人が、街の案内などで発見してしまうのと同じような状態です。
いったん気になってしまった私達はもう戻れません。「覚醒した日本人」という言い方をネットで見ました。真実に気づいてしまったということなんでしょう。
マスコミが書かなかった真実……いや、これはマスコミが書く必要のなかった真実なんです。
そうなんです。当たり前なんです。ここまではすべて当たり前の話なんです。
……よかった! ああ、よかった! 当たり前の話でよかったでしょう、お地蔵さま。私は怖かった、自分で仕掛けたマッチポンプながら一人で怖くなっていましたので本当によかった!
ヨドバシカメラのプライベートブランドはすごいです。「迷ったらこれ」まさにこの視点大洪水に溺れた人たちに浮き輪を投げ入れるかのようです。迷ってないのにこれにしようと思いました
視点を「参考にする」のではなく「味わう」
以上が、現状のご説明で話はここからです。今ここに視点があふれていて売り場は「その視点はなかった」大会とも言えるんです。
そんな視点の新しさにハッとするこの瞬間。ここに買い物の醍醐味があるんじゃないかと私は考えました。これら新しい視点を「参考にする」のではなく「味わう」のはどうでしょうか。
たとえばこういうものです。お地蔵さま。
「リングが手にふれない」「リングが手にふれない」「リングが手にふれない」とリングタイプのファイルから。何を言ってるのでしょう。ノイローゼになりそうです
しかしこちらは「リングが手に当たって書きづらいを解消!」とあります。あー、なるほど。リングノートは手にあたるのがデメリットなんだ、その視点はなかった! この驚きを楽しむんです
「リングが手にふれない」祭り
情報の大洪水のような「リングが手にふれない」のあとに、他のリングノートでも「リングが手にあたって書きづらいを解消!」と発見しました。私はこの文を見てこう思いました。
「リングノートはリングが手にあたって書きづらいんだなあ」と。
ああ、なんと間の抜けた人間でしょうか。私の頭はところてんのような構造をしていますので、新しい視点が支配するのです。今の私は頭がマルで体が線で表されるパラパラ漫画で描かれるタイプの人間のようです。
ですが、ある程度年を経ると新しい視点というのはなんでもおもしろいものです。
もちろんこのおもしろさはリングノートを買い求める時にだけ経験できるものですが、もしかしたらここだけ抽出すれば買い物せずとも楽しいのかもしれない。今日はこの新しい視点を味わいに、ヨドバシカメラの商品を見て回ってみました、お地蔵さま。
「…おまえにできるのか、栄人よ」
できます、やらせてください、お地蔵さま…
たとえばHDMIケーブルに求められることってなんでしょうか?
それはなんと「やわらか」なんですって! この視点はなかったでしょう、お地蔵さま。私はこれを発見して以来、硬いケーブルに触れると「なんだ、かってえなあ!」と唾棄するようになりました。お許し下さい…
血圧計を買ったことがないんですが、もし買うなら「巻きやすさ」は重要そうですよね
でもここで2つのメーカーから提案されてたのは「2人分測れる」ということなんです。ご夫婦で使うからか、それとも自分の中に二つの人格を持っているからか…とにかく血圧計はそういう視点があるんです
その隣にあったのはスタイリッシュさ…血圧計選ぶのにその視点はなかった。人前で出す可能性があるからこそモテ要素がいるのか、それとも恋愛高齢化社会だからか…
体温計で意外と多かったのは「聞き取りやすい」なんです。そっかあ、脇に挟むからなあ、脇に。
歯ブラシは新しい視点が次から次へと生み出されていきますよね
今は「ぎっしり」がきてるようなんです。それを見た瞬間から私はもうぎっしり派でして、自分の歯ブラシをスカスカ歯ブラシと呼んでおります…
ラミネーターというものがどういう用途なのかさえ分からなかったんですが、薄いプラスチックみたいなやつで閉じてくれるあれです。あれに求められてるのは
何秒で立ち上がれるかということなんですって。早朝バズーカみたいな世界なんでしょうか、ラミネーターは
水筒の「水滴が飛び散りにくい」という視点、そう言われるとだんだん気になってきました。そんな目で水筒を見たことがなかった。今日からあいつは「水滴をまきちらしやすいやつ」です。
ドライヤーに「マイナスイオン」という視点が必要なんだなとここで知ったんですが
なんと商品ジャンルにまで視点が食い込んでるんですよ。しかもそれどころではないんです
ドライヤーどころかクシやブラシまでマイナスイオン。髪にはマイナスイオンだそうです。きっと私のように新しい視点好きの方がたくさんいて、こうしたマイナスイオンブームが続いてるのだと思います。みんな酔狂ですね
髭剃り用カミソリにおいて刃の枚数を競う視点はご存知のとおりですよね
そんな髭剃りと同じようなものがありました。炊飯器です
こちらは4通り。炊飯器の炊き分けが今カミソリと同じように数の勝負になってるのです
そしてついに49という死ぬまで苦しむ数にまで到達してるようです。炊き分けたい…炊き分けたい…新たな炊飯器が欲しくなりました
キッチンタイマーには動物モチーフがたくさんありました。ペットのようにタイマーをかわいがるということでしょうか
そんな猫型キッチンタイマーに「しっぽに輪ゴムがかけられるかどうか」という新たな視点が導入されます。かけ算がいきすぎてもう計算できません!
爪切りや毛抜きコーナーで思ったんですが「関の刃物」かどうかという視点があります
こちらの「関孫六」は包丁のブランドで美濃の刀工の名に由来してるようです。刀工に由来するかどうかという視点。金メッキかどうかという視点。もうどんどん毒されていきます
視点だけを味わうたのしみ
いかがでしたでしょうか、お地蔵さま。
そもそも私が言いたいことは「視点が書いてあるなあ」ということだけだったんですが、それだけを拾っていくとショッピングの楽しさの一部分だけを濃縮したような体験でした。
でも考えてみればそれって当たり前のことなんです。やってることは「買い物に付き合っていて興味ないけど売り場をなんとなく見て歩く」状態と同じことなんです。
よかった。当たり前のことで。私はまた怖くなっていましたから。一日に二回も怖くなるなんて今夜の夢が恐ろしいです。サルバを履いて寝ようと思います。
でも、あれだけの商品を見て歩くのは疲れます。もちろん売り場は視点であふれてるんですがそれがおもしろいかどうかというと話は別ですし。みなさんまっとうに「テレビはきれい」だとか「チルド室のおかげで新鮮」だとかを訴えていました。
全員がおもしろく全員が新しい視点を提供してくれていると、私たちは疲れて仕方ないのだと思います。なのでWebの記事においても全部新しい視点を報告する必要はなくて、1/3くらいはお地蔵さまへの報告でいいのではないでしょうか。
「それでいいのじゃ、栄人よ」お地蔵さまが光りましたので今後はライターをやめて地蔵報告者を始めようと思います