米は、私たち日本人の心とからだの拠り所。国内で充分まかなえる貴重な食べ物であると同時に、地域社会や文化、自然環境をも守り育んでいます。しかし近代の稲作では、生産効率をあげるために、機械化とともに殺虫剤や除草剤、化学肥料などの資材を利用し、多くの手間を省いてきました。農薬や化学肥料を多用することで、水田の生物多様性は失われつつあります。
「作り手と手を携え、農薬や化学肥料に頼らず、いのち育む米作りを未来につなげたい」―――パルシステムでは、そうした思いから、手間ひまをかけ、環境に負担をかけない米作りを、生産者とともに進めてきました。こうした環境保全型農業に取り組むパルシステムの米産地の数は、16道県、32を数えるまでになりました。独自の基準である「コア・フード」は取扱量の2.3%、「エコ・チャレンジ」は57.5%にも上っています。
農薬削減の取り組みは、生産者の側からも、新たな動きを見せています。JAささかみ(新潟県)は、30年以上前からパルシステムと産直交流を深めてきた、産直産地の草分け。
同産地で作る米の多くは、「コア・フード」や「エコ・チャレンジ」をクリアしています。しかし、これ以外の「表示なし(慣行栽培)」の米についても、化学合成農薬・化学肥料の使用を、新潟県の慣行栽培基準の半分以下に減らそうというのです。
収穫量が減り、草取りや病虫害の苦労も多くなる恐れがあるため、「当初は賛同の声ばかりではなかった」と打ち明けるのは、生産者の稲毛秀利さん。栽培している農家は500軒もあるため、どうしても温度差はあります。生産者の不安を解消すべく、集落ごとに協力を呼びかけたり、地区ごとに座談会を開き、話し合いを重ねてきました。
「それでもやってみよう。ささかみでは、その水準の米作りがこれからの"当たり前"だ! そんな意味をこめて、『あたり米』と呼ぶことにしたんです」
JAささかみ(新潟県)の生産者・稲毛秀利さん
農薬削減とともに、大切なのが、いかにおいしい米を作るか。JAつくば市谷田部(茨城県)(以下、谷田部)の生産者、小堀淑守(よしもり)さんが育てたお米で作ったおにぎりは、ひと味違います。ひとくち食べると、ほんのり広がる甘み。おかずがなくてもすすんでしまうおいしさに、食べるみんなが思わず笑顔になります。
おいしさの秘訣のひとつが、「追肥(ついひ)をやらない」ことだそう。「たくさんとろうと思ったら、普通は、稲が育ってる途中にも肥料を入れるんだ。それが"追肥"。でもそうすると、米の表面がでこぼこになって、味が落ちるんだよ。だからうちらは追肥はしない。量だけとってもしょうがないだろ? 俺はうまい米を作ることに徹している」と小堀さん。
谷田部で使うのは、田植え前に入れる「元肥(もとごえ)」のみ。それも、堆肥や有機質肥料を中心としたこだわりの土づくりによって、おいしいお米を育んでいるのです。こうした取り組みの結果、谷田部では、慣行栽培に対する化学肥料の削減率が87%と、非常に高い栽培レベルを誇っています。
量をとって稼ぐより、質をとって支持を得る――うまい米作りへのポリシーが、そこには貫かれています。
農作業の合間にいただくおにぎりは格別。
もちろん、自分で作った米がいちばんうまい!
JAつくば市谷田部(茨城県)の生産者・小堀淑守さん。左には、受賞した賞状の数々
こうした、「安全・安心」や「おいしさ」への取り組みは、消費者の理解がなければ、続けることはなかなかできません。一般市場では、作り手のこだわりや思いはなかなか伝わらず、逆に食べる人の声が届くこともほとんどなく、価格は一方的に決まってしまうからです。
パルシステムでは、「産地交流会」や、産地の取り組みを確認する「公開確認会」などで、組合員が実際に生産者と話しながら米作りの現場を知る機会を設ける一方、「新米シール」などで産直米を食べた組合員の声を集め、産地に届ける活動も続けています。
「私たちの田んぼは、生産者の行動だけでなく、お米を買ってくれるパルシステムの組合員によっても守られていると思うんです。産地と組合員のみなさんがいっしょになって、安心でおいしい米作りを進めていきたいです」と、JAささかみの稲毛さんは話しています。
JA庄内たがわ・庄内協同ファーム(山形県)で行われた公開確認会の調査の様子(2009年6月)
- パルシステムの産直米
- 「いのちを育む」を広げる運動