出版を経験した個人ディベロッパー「ひさしApp」に聞く、稼げるアプリの作り方|あやんせが行く! vol.14

株式会社Zucksにて広告営業ガールをしている“あやんせ”が、アプリ関連業界人を訪ねるコーナー「あやんせが行く!」。第14回目となる今回は、個人ディベロッパーであり、「バカ売れアプリ生活 自作ゲーの集客とマネタイズぜんぶ教えます!」の著者でもある、ひさしAppさんにお話を伺いました。

今回お話を伺った人

ひさしApp
仙台出身。スマートフォン向け自作ゲーム開発者。専門はマネタイズとフロントエンド開発。某Webゲーム会社、某コンソールゲーム会社、某スマートフォンソーシャルゲーム会社などで、幅広い見識を得た後、独立。独立後は無料アプリの収益性、有料課金の収益性、評価、継続率を、個人アプリとしてはほぼ限界値まで伸ばす手法を分析し、実践している

独立した理由は、「アプリも作りたいし、取材もしたいし、本も作りたかった」から

− 今日はよろしくお願いします!ひさしAppさんは個人ディベロッパーとして活動されていますが、どのような経緯で独立されたんですか?

ひさしApp(以下、ひさし):僕は、某Webゲーム会社(サイコロで給料を決めていた)、某RPGのゲーム会社、六本木にあるスマホソシャゲ会社(なぜか「任天堂の倒し方」の記事で有名になっていた)を一通り遍歴しました。

最初に入ったWebゲーム会社で担当していたのは、Flashを使ってコンテンツを制作するフラッシャーだったんですね。その後カジュアルゲームの製作チームに入り、転職する中でブログパーツのゲーム、ソーシャルゲームやスマホゲームの開発を手がけるようになりました。

RPGのゲーム会社時代は開発も続けていたんですが、CEDECというイベントで登壇したり、マーケティングの部署にいたり、R&D(研究開発)したりと、通常開発以外の仕事もしていたんです。その経験が本を出すことにつながっていると思います。

− 大きな企業を遍歴されてきたんですね!独立するきっかけは何だったのでしょうか?

ひさし:色々とやりたがりの性格で、アプリも作りたいし、取材もしたいし、本も作りたかったんです。でも大きな会社だと作業が細分化されているので無理がありました。これは半分うぬぼれですけど、「こうすればもっとうまくいくのに」と感じることが多かった。うぬぼれてるなら会社から出て生活できるか試してみようと思って独立したんです。

− 思い切った決断ですね!独立後はアプリ開発でマネタイズしていたんですか?

ひさし:独立当初は本腰を入れてやっていなくて、最初は知り合いに仕事をいただいて、受託仕事を収入の柱にしていたんです。ゲームアプリの企画書を持ち込んで開発したり、ゲーム開発が円滑に進むようなツール開発をしたりしていました。

− 最初は受注がほとんどだったんですね。ひさしさんはその後アプリの開発を始めるわけですが、最初はどのようなゲームを作っていたんですか?

ひさし:アプリを開発し始めたのは独立後1〜2年くらいで、ちょうどアングリーバードやフラッピーバードが流行っていた時期です。流行っていたゲームをアレンジしたり、放置系ゲームや放置系RPGを作ったりしていましたね。現在は19のアプリをApp storeで公開しています。

1ユーザーあたり100円以上の高収益、その秘訣は「継続率」と「アレンジ」にあった

− そうして開発したアプリの収益はどれくらいになりましたか?

ひさし:アプリの収益は1ユーザーあたり100円を超えています。自分で言うのもあれですけど、1人で作っている個人ゲームとしては、2015~16年の日本で上位の方だったと思います。広告のみで120円を超えたものもありますよ。

− それはすごいですよ。当時だと1ユーザー10円いっていないアプリもありましたし。ひさしさんのように収益性を高める秘訣はありますか?

ひさし:私、プロモーションはほとんどしていないですし、マネタイズも広告+課金要素で、あまり変わったことはしていないんです。

あえて言うならゲームシステムを工夫すること、特に継続率を高めることでしょうか。継続率を高めるには、経験上「青天井モデル」が有効です。クリアして終わりだとアンインストールされてしまうので、クリア後も継続して遊べるように設計するんです。

− 継続性ですか。私もパズルゲームのスバラシティがすごく好きで、3〜4年間ずっと遊んでいます。

ひさし:あれも個人ディベロッパーのアプリですね。パズルとか育成ゲームとか、中毒性のあるカジュアルゲームに、昔ながらのソーシャルゲームのマネタイズ(カードなどの収集要素)が合わさればマネタイズはうまくいきやすいと思います。

− ほかに収益化の秘訣はありますか?

ひさし:そうですね。誰でもできる方法でいうと、北米のアプリストアで流行っているものを和風にローカライズすることでしょうか。アメリカは日本から見たら近未来のことをやってるので、現地で流行っているものをよく観察してアレンジすればヒットしやすいと思います。

僕の体験談としては、海外ゲームに結構ハマってプレイしてたんですけど、数週間でクリアしちゃったんです。やることがなくなったので、ネタ的に2週間で移植して、自分の好きなキャラにしてみたら、「これはいけるんじゃないか」っていう雰囲気になってきたんですね。それで、長く遊べるように様々なアレンジを加えて公開して、アップデートを続けていたら、もとのゲームのランキングを越えることができました。

− アレンジすれば本家を超えることもできるんですね!

ひさし:そうなんです。うまくいっているゲームは、別のゲームの発展系や、何かと何かの組み合わせだったりするんです。なので「ハマったゲームを自分だったらこうする」、という視点で開発するとうまくいきやすい気がします。

この方法論でうまくいかない場合は、あまりに昔を見すぎているかもしれないですね。例えば、インベーダーゲームは40年前に大ヒットしましたけど、今スマホアプリで出しても、当時のようにはならないと思うんです。自分の原体験にあるゲームより、今売れているゲームをアレンジするとうまくいきやすい。

ジャンルやゲームシステムだけでなく、ビジュアル面をアレンジしてもいいと思います。アレンジの方法はいくつもあるんです。

個人ディベロッパーが本を出したら、コンサルの仕事が舞い込んだ

− ひさしさんは、個人ディベロッパーさんの中では珍しく、出版をされていますよね。書籍はどのような経緯で出版されることになったんですか?

ひさし:出版は2017年6月のことで、もともとは同人誌だったんです。秋葉原のデジゲー博というインディゲームの即売会がありまして。本を書いて出店しました。1ヶ月で200ページ近く書いて、出してみたら反響が良くて。その後Kindle版を出して、書店系の出版社の方から声がかかって出版する流れになりました。

− そういう経緯だったんですね。手に取られるのは、やはりアプリディベロッパーの方が多いんですか?

主にディベロッパーの方ですね。ほかに50代の女性とか、Web寄りの方も反応や感想を書かれていたので、もしかしたら読者層は広いかもしれないです。

− (本を手にとって)これがそうなんですね。ちょっと読んでみていいですか?内容は……すごい!マネタイズやプロモーション、ASOの方法まで書いてある!

ひさし:個人開発者は1人で全部やる必要があるので、必要なアプリマーケの情報はかなり網羅しています。ほかには、作業しやすいカフェの情報や食事の内容も掲載しているんです(笑)

− ほっこりしていいですね(笑)

ひさし:フリーランスになると「日々をいかに楽しむか」とか、健康面も大切なので。食
事の章は予想以上に反響をいただけました。とはいえ、すべてのケースに当てはまるわけではないので、この本もほどほどに読んで、かいつまんで実践してもらえればいいかな、と考えてます。

− ASOとかも確実なものではないですよね。そういえば、本を出されてから活動に変化はありましたか?アプリのダウンロード数が変わったりとか。

ひさし:出版後はお会いする人が増えましたね。法人や個人のコンサルの依頼をいただくなど、開発以外の仕事が増えました。出版する時「これで儲けたい」というよりは「本をきっかけに面白い事ができたらいいな」という考えでしたので、結果的にそうなることができたんです。

ダウンロード数にあまり変化はないですけど、コンサルで関わったディベロッパーの方がアプリの流入口を作ってくれたりしたことはありました。それと、出版したことで「マネタイズの人」みたいに思われることが多くなってキャラが固まったと思います(笑)

− ひさしさんは最近VALUもされていますよね。出版もそうですけど、SNSの活動も盛んですし、セルフブランディングがとても上手だと思います。

ひさしAppさんのVALUページ、「VALU」は、個人が株式会社のように投資を受けられるサービス

ひさしAppの考える、業界で生き残る2つの方法

− 最後にお聞きしたいのは、個人ディベロッパーの生き残り方です。私、アプリ業界で個人ディベロッパーの方が少なくなったと思うんです。ひさしさんは、個人ディベロッパーが業界で生き残っていく方法としてどのようなものがあると思いますか?

ひさし:個人的にはふたつあると思います。
①徹底的にトレンドを追う
②徹底的に好きなものばかり作る

①の「トレンドを追う」ならば、脱出ゲームが流行っていたら脱出ゲームを、放置ゲームが流行っているなら放置ゲームを開発するんです。市場が求めているので、ある程度は見返りがあると思います。

②の「好きなものを作る」だと、見返りは少ないないかもしれないんですが、楽しくやってるなら時間もお金もそんなに気にならないと思うんですね。これは短期的に儲けるにはイバラの道だという前提のうえで話しているんですが、ずっとやってればブランディングが進んで、大ヒットしたりや突き抜けたりする事もある。これは、副業に向いたやり方ですね。

というのも、今まで20人くらいの個人ディベロッパーにコンサルをしてきて、「あなたのスキルセットはこうだから、〇〇がベストです」と最適解をアドバイスしても、多くの人がやらないんですね。個人ディベロッパーの方は、強烈に「これを作りたい」というモチベーションで動いています。変に市場を意識しないで、持ち味を活かしてあげた方がいいと思うんです。

その場合は、お金以外のことに価値を見出す方がいい。副業ならば気持ちに余裕もできるし、数人でも面白いと言ってくれる人がいたら満たされるものはあるんじゃないでしょうか。

− マーケットを徹底的に意識するかしないかの二択になるわけですね。そういえば、ひさしさんは新規アプリの開発はされているんですか?

ひさし:それがVALUとビットコインにどハマりしてしまって(笑)、それを支援するWebアプリを10個くらい作っていました。一回ハマると分析が楽しくてずっとやってしまうんですが、落ち着いたらアプリ開発も再開しようと思います。相談(コンサル)や取材は増えてる気がします。

− 一度ハマるとやりこんでしまうんですね(笑)ひさしさんは、これからも多角的にお仕事をされていくのかなと感じいました。今後のご活躍を楽しみにしています!本日はありがとうございました。

◎ひさしAppさんの著書⇒バカ売れアプリ生活 自作ゲーの集客とマネタイズぜんぶ教えます!」(Kindle版もあります)
◎Twitterアカウント⇒@Hisashi_vc
◎VALUアカウント⇒https://valu.is/hisashiapp

あやんせ
渋谷で働くIT女子。メディアコンサルタントとしてディベロッパーさんのお力になれるよう日々奔走中。海が大好き。今年も行ってきました。
Twitterアカウントはこちら