映画の「ゲット・アウト」を見てめちゃくちゃ思い出して、定期的に思い出す出来事なので文章にしておこうと思い立ちました。
私は今は地下鉄もある都市で生活しているのですが、5年前までは地下鉄がない県庁所在地に住んでいて、なぜなら実家から近いからで、当時は都市の職場まで毎日片道ほぼ2時間かけて通っていました。
今となっては母親は私に「結婚したら?」とは面と向かって言ってこないのですが、以前は娘の将来を心配して私が結婚しないことを気に病んでいたようでした。
そんなある日、実家に帰ると母に「親戚に近所の結婚相談所を紹介してもらった、そこは全国じゃなくてこの地域の人たちが登録しててお母さんも娘が地元の人とお見合いしてくれたら安心だし、一度様子を見に行って話を聞いてもらったら『本人にも来てもらいたい』とのことなので行ってきてほしい」と言われ、抵抗したものの涙ぐんで訴えられるし正直めんどくさくなって、その結婚相談所(も営んでいる喫茶店)に行ったのです。
平日だったのですが、喫茶店に入り、事情を説明すると別室に案内され、なんかシャネルっぽいスーツのおばさまが出てきて、ひととおり自分がどれだけ会員の成婚に向けて努力しているか、また成婚された会員さんの話などを聞きました。その後、記入しろと渡された用紙に年収とか得意な料理とか書きました。
書き終わった用紙を、上がクリップになってるバインダーに挟んでそれをじっくり読むおばさま。「ちょっとこちらに立ってみてくださる?」って言われ立たされた私、を頭からつま先までほんとうに映画のシーンみたいにじろじろと見るおばさま。
「なんだろうこれ…?」と???を飛ばしている私に「はい、座っていただいて結構ですよ」って着席して言われたのが、
「あなたなら、今の年収のままで、お相手のご実家に入られて、ご両親のお世話をされるのなら、ご結婚できると思います」
です。
ちょっと意味が分からなかったので、「ええと、それは? 今の職場(長距離通勤)で働き続けるまま、相手のご実家に私が嫁に入り、かつ相手の親の介護をする、ということですか?」って聞きましたよね。
それに対する答えは
「若くておキレイな方なら引く手数多なんですが…。ただあなたの場合はある程度の収入がおありになるから」
「それにホラ、あなた(身体が大きく太っているというジェスチャーをして、)健康そうだし、ね?」
ってにっこりされましたので、その瞬間私は「あ、自分は家畜なのかな?」と思いました。
おばさまがたとえばの具体例としてあげてる男性のプロフィール、農家の長男で住所は私の実家よりさらに山の中、介護が必要なご家族の話、などなど話しているのを夢の中の出来事のように聞きながら、
「私がその家に嫁に行ったら、毎月○円運んできて、家事をして介護もして、すごいおとぎ話みたいだな… 私はそんなにも恩返しするほどの何のご恩を受けたんだろう…? あっ私みたいな女と結婚して頂くお返しとしてそーゆー恩返しをしなければならないのかー、そうかー。私ってそんなにハンデがあるんだ〜」と考えていました。
ただ今でも納得できないのはその農家の長男、当時の私より15歳位年上だったので、お若い方を求めるっていうけどそっちから見れば私も十分お若いですよね… という事実。
このゾッとする体験を経て、私は「あ… もうだめだ。もっと都会へ引っ越そう!」と決意しましたし、母も帰宅した私から「このように言われて呆然としたので、会員にはならずに帰ってきた」と聞いて怒っていたので、その結婚相談所の話はそれで無かったことになりました。
この後も、母は私に地元の人と結婚してほしかったようなのですが、ある日母が特急電車に乗っていたら後ろの席のおばさま3人が、お互いの家の嫁がどれだけ使えないか、ろくでもないか、というディスりあいを90分くらいずーっと盛り上がって話してて、母は大変不快で一体どこの田舎者だろうって思ってたら自分と同じ駅で降りて、私が地元に嫁ぐということはあのような姑を持つということだ、と悟ったらしく、その後はあんまり「地元の人と結婚してほしい」と言わなくなりました。
地元は嫁不足らしいけど、そりゃそうだよね。
まず嫁不足っていう言葉のなんかこう… 野蛮さがすごい。
田舎の嫁は家畜のような扱いで、労働の人手として使える健康な身体をもってないと! というような思想を感じたのですがこの場合の嫁に人権ってあるんですかね…?
私の父方の祖母はそれはそれは働き者のよいお嫁さんだったそうで、母は寒い冬の夜に暗い土間の外流しみたいな場所で冷たい水で古い洗濯機に入れる前に洗濯板で予洗いしてた義母の小さい背中が忘れられないそうなのですが、60歳で亡くなってて、うん… 推して知るべしという気持ち。
そのような体験があるので、私には「ゲット・アウト」めちゃくちゃ恐怖が深かったです。