沖縄県立看護大学主催の講演会「マルトリートメント(不適切な養育)やDVにより傷つく脳と回復へのアプローチ」が17日、那覇市の県立博物館・美術館で開かれた。小児科医で福井大学子どものこころの発達研究センター発達支援研究部門教授の友田明美さんが講師を務め、親の暴力や暴言が子どもの脳の発達に悪影響を及ぼす最新の研究データについて解説した。「子育てで困難を抱えている人をしっかり支援し、寄り添う手だてを考える必要がある」と訴えた。(学芸部・座安あきの)
「マルトリートメント」とは世界保健機関(WHO)の定義で(1)肉体的・精神的不適切な扱い(2)性的虐待(3)ネグレクト(4)放置-などでの搾取をいい、健康や命に関わるだけでなく、心の発達や人格形成に悪影響を及ぼす。
子どもが直接暴力を受けるだけでなく、「両親の激しいけんかや、どちらかがDVを受ける様子を目の当たりにする『面前DV』も不適切な養育に当たり、その相談件数の割合が増えている」と友田さん。
米国では、思春期を迎えた子の前で親が裸で歩き回ったり、一緒に入浴したりすることは性的マルトリートメントとされ法律で禁じられている。
友田さんは「同じ風景でも3歳と10歳とでは見え方、感じ方がまるっきり違う。子どもの意思を尊重して家族のルールを持つ必要がある」と話した。
叱り付けや非難、侮辱、過小評価など言葉の暴力を受け続けた脳は「聴覚野が変形し、神経のシナプスが正常な状態にならず、対人関係がうまくいかなくなりやすい」。
体罰など身体的な暴力を受けると「前頭前野の一部が正常な脳より小さくなり、素行障害や薬物依存になりやすい」と解説。
DVを目撃してきた脳では、視覚野が小さくなる影響があるとし、「暴言DVを目撃した方が、身体的DVの目撃より6倍も悪影響の度合いが大きい」と話した。
養育者との愛着形成ができていない乳幼児の事例として、自閉症を疑われた9カ月の男児が、地域の専門家の連携で生活環境を調べるうち、祖母から暴言による虐待を受けていたことが分かった。祖母から引き離して入院させると、3週間で相手の目を見つめ、笑顔を見せるようになり、回復したケースを紹介した。
「愛着を形成し、安定した環境に置かれると、成長の遅れが回復することを証明した」と友田さん。
目と目で見つめ合う、手と手で触れ合う、語りかける、笑いかける-の三つの愛着の要素が満たされていれば、成長して何か問題に直面しても、「子どもは落ち着いて対処できるようになる」と語った。
会場には県内の相談機関や医療関係者ら約220人が参加した。性的虐待被害者の脳への影響や、愛着形成障害に対する支援の在り方などについて、具体的なアドバイスを求める質問があり、関心の高さがうかがえた。