|
小川剛生『兼好法師 徒然草に記されなかった真実』(中公新書、2017年11月)
が出た。
去年の今頃、「ぜひ新書で書いてください」と申し上げていたところであった。
そのときすでにこの企画は進行していたのかもしれないが、ともかくこんなに
早く本書を手に取ることができたのは、喜び以外の何ものでもない。
全七章構成。第一章で、はやくも心を撃ち抜かれることは必至である。
文学研究者がこれまで「前提」として考えてきた兼好像が崩壊していく。
たとえば、「蔵人・左兵衛佐を経て、従五位下に叙された」という通説も、
勅撰集の詠者名表記の原則から、あり得ないこととする。五位以上ならば
実名で入集するはずで、また六位以下が自分の名前を残すためには、
法名にする必要があったからである。
兼好は「兼好法師」として入集しており、身分的には六位以下の侍品で
あったろうと推定されている。
あるいは、兼好が出た卜部氏の一族を、伊勢神宮祭主大中臣家と関係
が深い平野流に近い一派であり、「神宮領を与えられて在京の資と
しながら仕えていた」人たちではなかったかと推定。身分が侍品だとすれば、
いわゆる「伊勢武者」のような存在であったろうと。
第一章でこれである。
世の中にたえて小川剛生なかりせば…
徒然草の筆者にかんする研究は、今後何十年、何百年、放置されていたか
分からない。
『応仁の乱』ほどの分かりやすい文体ではないので、あれほどのベストセラーに
なるかはわからないが、歴史に残る本であることは間違いない。
|
この記事に