Access Accepted第556回:大きな議論になった「ルートボックス」
Electronic Artsがリリースした「STAR WARS バトルフロント II」の「ルートボックス」が,もはやゲーマーコミュニティの枠を超えた問題になりつつあるようだ。ハワイ州政府やベルギー政府が,「ルートボックス」のようなランダム性の高いシステムを“ギャンブルに準ずる”ものとして,規制しようという動きが出ているのだ。
ファン待望の新作「STAR WARS バトルフロント II」
Electronic Artsが,2017年11月17日に世界同時リリースした「STAR WARS バトルフロント II」。2015年に発売された前作「Star Wars バトルフロント」に対するファンの強い要望に応えて搭載されたシングルプレイキャンペーンは,パルパティーン皇帝とダース・ベイダーを失った銀河帝国を再興しようとする特殊部隊員としてプレイするという,スター・ウォーズのファンにとって,たまらない内容になっている。
マルチプレイモードには,これまで公開された映画に登場したキャラクターが多数用意され,前作の6体から14体に増強された。搭乗可能なビークルは11種類から39種類に,マップも4種類から11種類に増やされており,パブリッシャのElectronic Artsと開発したDICE,そしてIPを所有するLucasfilm(Walt Disney Studios)にとって,2017年の年末商戦における最強のブロックバスタータイトルとして売り出された。
そんな「STAR WARS バトルフロント II」では,ゲーム内にある有償の「クレート」を開くことで,さまざまなアイテムが手に入る。クレートは,欧米では「ルートボックス」と呼ばれるシステムで,日本で言うところのガチャに相当するものだ。中にある「スターカード」を手に入れることで,自分のキャラクターにアビリティや装備が付与できるのだが,それが,資金を多く投じたプレイヤーが有利になる「Pay-to-Win」につながると批判されたのだ。
2017年11月20日に掲載した本連載の第555回「欧米ゲーム業界の新たなキーワード『Games as a Service』」では,「Games as a Service」というキーワードを説明するために,「STAR WARS バトルフロント II」のマイクロトランザクションを紹介したが,原稿を執筆したのは発売前のことで,問題がどこまで発展していくのかは分からなかった。その後,ファンの批判を受けたElectronic Artsはさまざまな対応を発表したものの事態は収束せず,同作のマイクロトランザクション(ゲーム内課金)は現在,一時的に中止されている。
この出来事は,本稿の執筆時点でも現在進行形で続いており,もはや欧米ゲーム市場の外に飛び出すまでの大事になっているのだ。ここでもう少し詳しく,現状をお伝えしよう。
「ルートボックス」はギャンブルか
ファンの批判に敏感に反応したのが株式市場だった。5年前の2012年7月には1株12ドルを割っていたElectronic Artsの株価だが(関連記事),最近の好調な業績により順調に値を戻し,2017年8月31日には1株あたり122.79ドルを記録した。しかし,「STAR WARS バトルフロント II」のオープンβテストが開催された10月過ぎから次第に下がり始め,発売日である11月17日には2.4%も株価が下落し,現在は1株107ドルほどだ。
Electronic Artsは,ゲーム内課金を停止したタイミングでアメリカ証券取引委員会に緊急レポートを提出しており,年度末までの経常利益への影響はないと訴えた。
とはいえ,Electronic ArtsのCFOであるブレイク・ヨルゲンセン(Blake Jorgensen)氏が今年初めの業績報告で発表した「発売後の6週間で,前作の販売本数である1400万本を売る」という楽観的な予測は,12月に公開される映画最新作「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」の効果を含めても,達成は厳しいのではないかと思える。
なぜなら,発売直後の11月21日,ハワイ州議会議員であるクリス・リー(Chris Lee)氏が,「このゲームが行っていることは,オンラインゲーム市場における略奪的行為であり,未成年者やその家族に資金的な問題が発生することが考えられます。子供達にお金を使わせようとデザインされた,スター・ウォーズをテーマにしたオンラインカジノなのです」という声明を発表したからだ(関連映像)。リー氏は今後,法的規制を行うために議会への働きかけ,具体的な法案の作成に乗り出すのこと。
また,以前からオンラインギャンブルの規制を進めていたベルギーの法務大臣も,Blizzard Entertainmentの「Overwatch」と共に,「STAR WARS バトルフロント II」のルートボックスがギャンブルにあたるかどうかを調査するよう動き出したことが報道された。法による規制が行われた場合,ベルギーだけではなくEU全域で有効な法令になる可能性が高いという。
未成年への課金に対する消費者の拒否感
日本の「ガチャ問題」と同様,モバイルゲームの急速な発達に伴って,英語圏では「ルートボックス問題」として議論が続く。ゲーム内課金は,基本料金無料のアジアのMMOROGを嚆矢として,Free-to-Playの対戦FPSやモバイルゲームに広がっていったビジネスモデルだが,それなりの対価を払って購入するパッケージタイトルで同じことをしていいのかということが最近,とくに問題視されている。
「STAR WARS バトルフロント II」では,シーズンパスへの批判対策として,シーズンパスを全廃する代わりにルートボックスが採用されたという経緯があった。今後リリースされるDLCなどの追加コンテンツがすべて無料であることは以前からアナウンスされており,Electronic Artsとしては,「GaaS」(売り切りではなく,継続したサービスとしてのゲーム)を成立させるための新たな取り組みの一貫だった。
ルートボックス問題には,2つのポイントがある。1つは,購入したものに当たりはずれのあるランダム性が,ギャンブルとして見なされるかどうかだ。成人であればギャンブルを楽しむのは個人の判断に委ねられるが,未成年の顧客層が多いスター・ウォーズのフランチャイズ作品では敏感にならざるを得ない。
すでに「Counter-Strike: Global Offensive」のような人気タイトルで,未成年でも参加できるオンライン・ギャンブルが問題になったことは,本連載の第504回「『CS: GO』のギャンブルサイトと人気YouTuberをめぐるスキャンダル」にも書いたとおりだ。スター・ウォーズのIPを保有するディズニーは「子供に夢を与える」が社是であり,こうした問題を座視するわけにはいかないだろう。今回,ゲーム内課金がただちに停止されたのも,ディズニーがElectronic Artsに強く要請したためという話も聞こえる。
オンライン対戦ゲームはフェアであるべきか
2つめのポイントは,「STAR WARS バトルフロント II」のような対人戦をメインにしたゲームの場合,ルートボックスを多く購入することで,良いアビリティやアイテムが入手できる可能性が高まり,これが上にも書いたPay-to-Winにつながるということだ。
オンラインFPSは当初,「キャラクターのルックス以外,性能は同じ」というフェアな条件下で,プレイヤーのスキルのみを競うことが不文律になっていた。やがて,キャラクターの「クラス」というシステムが導入され,さらに異なる武器やアイテムが使用できる「ロードアウト」が加わることで,シンプルだった対戦FPSは複雑化し,それと同時に,購入することで持っていないプレイヤーを無双できるデジタルアイテムに対する批判も起きてきた。
もっとも,最近のデジタルカードゲームでは,「パック」を購入してレアカードを入手することも「ゲームの要素」としてとらえられているようで,これは,現実のカードゲームがそうだからだろう。
興味深いことに「FIFA ULTIMATE TEAM」がPay-to-Winだと言われることの多い「FIFA」シリーズでは,選手がデジタルカードのような形で入手でき,また「STAR WARS バトルフロント II」の「スターカード」もデジタルカードゲームをアレンジした雰囲気になっている。これは,「ランダムだが,カードゲームだから仕方がない」と消費者の納得を狙った手法のようにも思える。
ともあれ,欧米の多くの大手パブリッシャが自社タイトルをGaaSであるとしてゲーム内課金を採用しつつあるのは,前回の連載記事にも書いたとおりだ。大金を投じて作った作品をより長く,より深くサービスし続けていくために,コアプレイヤーから追加のお金をもらうという考え方もあるし,プレイヤーの中には,好きなゲームのコンテンツをさらに増やしてもらうために喜んで課金するという人もいるだろう。
注目度の高い「STAR WARS バトルフロント II」で起きた今回の騒動は,GaaSを推し進める欧米ゲーム業界に一石を投じるはずで,もしかすると「ガチャ」にも影響を与えるかもしれない。ルートボックスは果たしてギャンブルなのか。ハワイ州やベルギーに続いて規制を強める自治体や政府はあるのか。今後の動きにも注目していくべきだろう。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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