世界では、未成年に対する性的虐待や暴力があとを絶たない。
今年、日本でもベトナム国籍女児に対する殺人事件が報道されたが、殺人に至らなくとも、性的虐待や暴力が被害者に与える傷跡は大きく、レイプは特に「魂の殺人」と呼ばれることもある。
被害者は、世間体や将来を考えて黙って泣き寝入りすることが多く、特に、未成年は言いたくても他人に伝えることがなかなかできない。加害者が家族や親戚、知人であればなおさら表沙汰にされず、なかなかその実態を掴むのは困難と言われる。
22か国調査から浮かび上がる実態
性的虐待・暴行に関する日本初の実態調査として1998年に行われた『子どもと家族の心と健康』調査があるが、その結果を知って心が痛んだ。回答を得られた18歳以上39歳以下の女性1282名、男性299名のうち、なんと39%の女性、10%の男性が18歳までに性的虐待・暴行を受けていたという。しかも、13歳未満(小学校卒業以前)までに被害を受けた割合は、女性16%、男性6%もいるのだ。
世界でも様々な調査が行われてきたが、中でも2009年に22か国での65調査をメタ分析した論文は国際比較としても有意義である。それによると、18歳未満に性的虐待を受けた人の割合は22か国平均で女性20%、男性8%。なんと女性の5人に1人が若くして性的被害を受けていた。男性も12人に1人の割合で被害を受けている。
中でも18歳未満に性的虐待・暴行を受けた女性の割合が高い国は、オーストラリア(38%)、イスラエル(31%)、スウェーデン(25%)、アメリカ(25%)、スイス(24%)。これらと比較しても、上述の日本の調査結果は高い値を示している(調査方法が異なるので単純比較はできないが)。
さらに、この22か国の調査を地域別にみると、18歳未満に性的虐待・暴行を受けた男女の平均値はアフリカが最も高い。中でも南アフリカの女性に対する性的虐待は44%。半数近い女性が被害を受けている。
もちろん、この値が高くとも低くとも、性的虐待・暴行を受けた被害者の心の傷は深く、なかなか癒されることはない。中にはこの心的外傷で、社会での人間関係も築けず、一生を台無しにされた人もいる。
さらに、この性的虐待・暴行は、心的外傷のみならず、実際に身体を蝕み、死に至らせる病を導くこともある。その病とは、かつて「殺人ウィルス」とも呼ばれたHIVである。
以前に比べて報道されなくなったので、HIVはもはや脅威ではないと考えている人が多いと思うが、今でも世界には推計3600万人以上の感染者がおり、毎日平均3000人を死に追いやる病である。最近騒がれていたエボラ出血熱の流行による死亡数(3年間で約1万1000人)と比較すると、HIVの威力は明らかである。
予防できる病気でありながら、新たに毎日5000人が感染している。うち1000人以上が、本来なら夢や希望で溢れる世代、15-24歳の思春期女子と若い女性である。
アフリカには、この思春期女性の新規HIV感染率が同世代の男性よりも10倍以上高く、また、国全体の新規HIV感染者のうち80%が若い女性という国もある。HIVに感染していながら、自分が感染していることを知らない女子が8割という国もある。
その結果、HIVは今でもアフリカ女性の多くを死に追いやり、特に15-44歳の女性の死因のトップであり続けているのである。
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