いまから数年前・・・・・
私が住むマンションの一室には、
小さな女の子がいました。
名前は『ちーちゃん』5歳くらい?
実は元同僚の女性『サチさん』に
「どうしても預かって欲しい!」
そう懇願されたのです。
ビックリしました。
(こんな一人暮らしの男の家に、
幼い娘をひとり預けるのか?)
そう思いました。
それに・・・
もし預かるなら私にも責任がある。
もし幼いちーちゃんが、
『怪我』や『事故』にあったら?
いや・・もしかすると・・・
犯罪者と間違われる可能性もあるかも・・
おおっ・・・怖い怖い・・・・
力にはなりたいが・・
さすがに困惑する私・・・・
サチさんはさらに懇願をしてきます。
「今日だけ!お願い!!
20時には迎えにくるからさ!」
とにかく事情を聞いてみると・・・
今日は社会人サークルがあるらしい。
みんなでダンスや音楽を楽しむのだとか?
(・・こういう息抜きも必要だろう)
私は子守を引き受ける事にしました。
それに・・・私は知っていたのです。
サチさんには子供を預かってくれる
知人や友人が居ないのです。
なにせサチさんは離婚したばかりの
『シングルマザー』
地元からは遠くはなれており、
『親戚も居ない』
友人は居たようなのですが・・・
なにせ離婚の原因が
『ドロドロの社内不倫』でして・・
まぁ不倫は社内で横行していたので、
それ程の事は無かったんですが・・
その・・・・さらに離婚後・・・
会社の飲み会などで、
「子供なんて産まなきゃ良かった」
「子供がカワイイと思えない」
なんていう発言が痛手でした。
そのせいで・・・・サチさんの
周りにいた人が離れてしまったんです。
特にお子さんのいる奥様方からの
反感はとにかく強かった。
「サチは母親失格!」
みんな陰でそう言っていました。
嫌われちゃったんですね。
まぁ・・・そうなると・・・
もう会社には居られません。
こうしてサチさんと私は偶然にも、
同時期に会社を去る事になったのです。
私達二人は入社時期も近い、
付き合いも3年ほどになります。
割りと仲は良かったと・・思う。
だから・・・・何となく、
私に頼みやすかったんだと思います。
(いいさ・・半日くらい子供を預かろう)
そう・・・・正直・・・・
頼られる事が嬉しかったんです。
お恥ずかしい話ですが・・・
私は1年程前に婚約破棄をされたばかりで、
相手方の両親や元婚約者から
「学歴が低い」
「家柄が悪い」
「サギみたいな仕事」
なんて・・・散々言われて・・・
(自分の人生は何だったんだろう?)
とか・・・何だかこう・・自分が・・・
全く価値の無い人間に思えしまって・・
ボロッボロだったんです。
だから・・・頼られる事が嬉しかった。
なんか・・・自分にも価値がある・・
そんな風に思えるじゃないですか?
さてさて・・・・・
ここで私はバトンタッチです。
根暗な日雇い作業員に子守は難しい。
スイミングインストラクター時代に作った、
『明るく気さくな自分』を呼び出します。
きっと彼なら上手くやってくれるだろう。
私はちーちゃんと仲良く遊びました。
久々に子供と遊べて楽しかった。
ちーちゃんはお母さんに似て、
とっても明るくて元気な子でした。
時間はあっと言う間に過ぎていき・・
18時になり、19時になり、
サチさんが迎えに来る、
『約束の20時』になりました。
でもサチさんは
迎えに来なかった。
電話にも出てくれません。
21時・・・・
22時になっても。
サチさんは迎えに来なかった。
おかしい!!!
まさか・・・・!?
何かトラブルがあったのか?
なんてね・・・
ふふふっ・・・いや・・・
違うでしょうね・・・
連絡をして来ない理由は?
社会人サークルの集まりで、
よほど楽しい事があったからでしょう。
子供が心配じゃないのか・・・・?
私も焦りましたが・・・・
驚きはしませんでした。
(あっ・・やっぱりなぁ)
そんな感じです。
お腹を痛めて産ん子だから~
血の繋がりがあるから~
『だから親子になれる』
なーんて理屈・・
最初から信じていませんからね。
親に捨てられたり、
物のように扱われてきた人間を、
この最下層で何人見てきた事か・・
そう言う私も・・・・
今では両親と絶縁しております。
何が親だ・・・子だ・・・・
もう時刻は23時。
サチさんからは1通のメールも、
1本の電話もありません。
ああ・・・幼いちーちゃん。
もう気付いているかなぁ?
どうやらお母さんは・・・・
君の事を愛していないようだ。
かわいそうに・・・
私達と同じだね?
つづく