「財団株主」は安定株主作りの抜け穴か-内外投資家から厳しい目

  • 財団は経営陣の保身の道具との印象、反対推奨-ISSの石田氏
  • コーポレートガバナンスへの直接的反旗だ-米ヘッジファンド

日本企業の内部留保が過去最高水準に達する中で、資本の使い方に対する懸念が浮上している。金庫株を自ら設立した財団に割り当てるなど「安定株主作り」と取られかねない動きもあり、投資家らは「ガバナンス改革に逆行しかねない行為だ」と警戒を強めている。

  今年3月、工作機械メーカーDMG森精機の定時株主総会が注目を集めた。会社側は森雅彦社長が代表を務める財団を支援するため、3%弱の株式を1株当たり1円で信託銀行に割り当てると提案。これに対し、米議決権行使助言会社のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)が「財団が経営陣の保身の道具になっているとの印象が払拭できない」などとして反対を推奨したのだ。結果は賛成比率が67%と可決に必要な3分の2を辛うじて超え、会社側にとっては薄氷の勝利だった。

  投資家が安定株主を目の敵にするのは、会社側が多数派工作をしやすくなることで少数株主の軽視につながると考えるからだ。日興アセットマネジメントの中野次郎株式運用部長は「安定株主が多いと、いくらわれわれが反対票を投じても議案が通ってしまう。企業は株主価値の向上策へ動く必要がなくなり、せっかくの対話も全く意味がなくなる」と指摘する。金融庁の資料によると、2016年時点で自社の安定株主が50%以上と答えた国内上場企業は40%以上に上った。

  ISSの石田猛行代表執行役は「こうした提案は全くよくない」と懸念する。「日本企業の株式持ち合いは減っても、別の形で安定株主が生まれれば効果は同じだ。この枠組みは抜け穴ではないかと思う」。その後、小林製薬や大研医器、ゴールドウインも財団支援のため株式第三者割り当てを提案。ISSは反対を推奨した。石田氏は「財団への投資によってどんなリターンがあるのかの説明が非常にあいまいだ」とし、安定株主作りという真の目的を覆い隠しているとみる。

  DMG森精機は総会前に、財団は安定株主ではなく自己株は議決権を分離しており当社や財団は議決権行使の指図ができない契約になっている、などと反論した。また、自己株式の使途については財団のCSR活動を支援するために活用するのが最も有効との結論に至ったなどと説明していた。小林製薬、大研医器、ゴールドウインの担当者も、株式割り当ては安定株主作りを目的としたものではないと述べた。

「出光」再現を懸念

  昨年発表された出光興産と昭和シェル石油の経営統合をめぐっては、出光創業家が反対に回るとともに、財団と美術館を合わせて33.92%の議決権を握った。野村証券の西山賢吾シニアストラテジストは、各社が設立している財団が有事に議決権を振りかざす「出光のような使われ方をするのではないかという懸念は当然出てくる」と指摘した。

  日本の企業業績は好調で、SMBC日興証券の11月の集計では、東証一部上場企業の今年度の純利益合計は前期比8.4%増の33兆1610億円と過去最高を更新する見通しだ。投資家からは利益を内部留保に回すのではなく、効率的な活用を求める声が上がる。「日本企業の資本効率は欧米に比べまだ低い」と、グローバルな投資家団体「国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(ICGN)」は10月19日、金融庁の会合で改善を促した。

  株主対策の一つが自社株買いだ。ゴールドマンサックス証券は、18年度は6.8兆円とリーマン危機以降で最高額に達すると見込む。ただ、日興アセットの中野氏は、自社株買いは株価にはポジティブとしながらも「金庫株で置いておくなら消却してほしい」と注文する。財団への割り当てについてはケースバイケースとしながら「単に配当を財団に回すだけなら眠っているのと同じ。われわれは投資したお金をもっと効果的に使ってほしい」とした。

  約20兆円の資産を運用する日興アセットは大研医器とゴールドウインの提案に反対を表明した。議決権行使結果を個別開示した。DMG森精機と小林製薬の提案への賛否は、開示決定前だったために明らかにしていない。野村アセットマネジメントは4社すべての提案に反対した。
    
  野村証の西山氏は、財団を使った枠組みが「アベノミクスに逆行しているかどうかは別として、そう思う投資家はいるだろう」とみる。31億ドルの運用資産の6割を日本株が占める米ヘッジファンド、ダルトンインベストメンツのジェイミー・ローゼンワルド氏は「財団方式はコーポレートガバナンスコードへの直接的な反旗だ。株主の資産を財団へ引き渡すことで安定株主を作ろうとする狙いは明らかだ」と話した。

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債券市場、米金融当局者のインフレ見通しに注目か-FRB議長証言へ

  • 今週はイエレン議長やパウエル次期議長ら当局者の発言機会が多数
  • 当局はこれまで以上にデータ次第の姿勢に-クリス・ラプキー氏

トレーダーは今週、米連邦準備制度の当局者らがインフレ見通しをどれほど懸念しているかを知ることになりそうだ。こうした懸念の深さは米債券市場の支配的なトレンドであるイールドカーブ(利回り曲線)のフラット化に影響を与えている。

  今週は連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長や次期議長に指名されたパウエル理事ら当局者の発言機会が多数ある。先週公表された直近の連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録で、幾人かの当局者が低い消費者物価見通しに懸念していることが示され、追加利上げは経済指標次第であることが鮮明になっており、今週の講演でもインフレに関する見解が示される可能性がある。FOMCが重視するインフレ指標である10月の個人消費支出(PCE)価格指数も30日に公表される予定で、エコノミスト調査では前年同月比1.5%への伸び鈍化が見込まれている。

  債券市場にとっては、インフレ率が当局の目標を下回る中での追加利上げ見通しには大きな意味合いがあり、米国の利回り曲線が過去1カ月に約3年ぶりの急速なペースでフラット化した主な理由は恐らくその点にあるだろう。フラット化には既に一部当局者から反応が示されており、パウエル次期議長やイエレン議長の考えにもどう影響を及ぼすか、市場は耳を傾けるだろう。議事録公表を受け、トレーダーらは当局の決意を問い直し、米2年債利回りを2008年以来の高水準に押し上げたのは誤りだったのか思案しそうだ。

  MUFGユニオンバンクのチーフ金融エコノミスト、クリス・ラプキー氏は11月22日付のリポートで、「PCEコア指数に何らかの上昇の兆しが表れ始めなければ、来年はインフレに慎重な見方のFRB当局者が数人からもっと多数に増えるとわれわれは心配し始めている」と指摘。「1つだけ確かなのは、当局はこれまで以上にデータ次第の姿勢を取っていることであり、重要データはインフレだ」と述べた。

  パウエル理事の次期議長指名に関する上院公聴会が28日に行われ、イエレン議長は29日に上下両院合同経済委員会で証言する。ニューヨーク連銀のダドリー総裁は27、28、29の3日連続で講演。今週はこのほか、フィラデルフィア連銀のハーカー総裁、サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁やダラス連銀のカプラン総裁らも講演する。

原題:Bond Traders Start to See Crack in Fed’s Resolve About Inflation(抜粋)

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