ファッションeコマース「ZOZOTOWN」を展開するスタートトゥデイが発表した「ZOZOSUIT」が大きな注目を集めている。まさか、着用者の身体のデータを測定するスーツが登場するとは思わなかった。しかも送料は注文者負担とはいえ無料提供だというから、さらに驚いた。
筆者も洋服はオンラインで購入することがだいぶ増えた。住んでいるドイツではファッションeコマースのZalandoがこの業界では最大手で、私もよく利用している。
だが、洋服をオンラインで買うときには「サイズが合うかわからない」「実際の着心地や肌触りがわからない」など、悩ましい点は結構ある。私自身、慎重に選んでいるつもりでも注文した品の半分ぐらいは返送している。
Zalandoは送料・返送料金は無料であるため、気軽に注文して試着し、返送するユーザーも少なくないだろう。その返品率は実に50パーセント程度にもなるといわれている。返送にかかるコストは莫大なはずだ。ユーザーにとっても返送は面倒だし、なにより期待外れのものが届いたときの落胆も大きい。
だからこそ「フィットした服を届ける」ことは、返品率を下げるためにも、ユーザーエクスペリエンスをあげるためにも重要なミッションになる。
この「フィットテクノロジー」に取り組んできた会社は少なくない。各社、どのようなソリューションを提供しているのだろうか? いくつかピックアップしてみたい。
Metail:自分のアバターで試着できる「バーチャル試着室」を提供
2008年に創業したケンブリッジ発のスタートアップ「Metail」は、バーチャルフィッテイングルームを通販サイトなどに提供している。大学とも協力しながら、研究開発を進めてきた。
Metailのサービスを導入したサイトでは、ユーザーはMeModelとうアバターをつくることができる。自分の体型に関するサイズを入力したり、肌の色を変えるなどして、アバターを自分の身体に近くすることができる。そして、アバターにサイト上の洋服を試着させて、サイズ感を確かめることができる。
CEOのBryett氏は、このバーチャル試着室「Try-On」を導入した結果「サイトへの再訪問が50%増え、注文価格も31%増えた」とコメントしている。
これまで2000万ドル強を資金調達している。
楽天が買収したエストニア発の Fits.me
エストニアで創業し、その後ロンドンへと本社を移したFits.meもまた、通販サイト向けに検索拡張機能を提供する。
Fit.meの提供する機能が埋め込まれたサイトでは、ユーザーが身長や体重、ブラジャーのサイズなどを入力し、体型を選択すると、それに合う洋服をリコメンドされる。また、衣類は「衣類テクノロジスト」によって分析され、シルエットやストレッチの度合い、着心地の好みなどを考慮した上で衣類データがつくられる。この衣類データと購入者が入力したデータを合わせて、リコメンデーションがされる。
2009年に創業し1600万ドルほどを調達したのち、2015年に楽天が買収した。
Texel Graphics:高速3Dスキャナで身体のデータを読み取り、AIが洋服を提案
3Dスキャナーを開発するRussian Texelの子会社であるTexel Graphicsは、2016年からIKEAとロシアのBelaya Dacha Group のジョイントベンチャーであるショッピングモールMEGA BELAYA DACHAで、3Dスキャナを試着時に活用するパイロットプログラムをスタートさせた。
「客は30秒でスキャンされ、ニューラルネットワークに基づいたプログラムがそのデータに基づいて、サイズと予算にあった洋服を提案する」とのこと。
Texel Graphicsは、顧客の行動習慣や好みも分析して、リテーラーやブランドにデータ活用を提案することを計画しているそうだ。(参照:Russia Beyond)
Try.fit:足を3Dスキャンし、適切なサイズの靴を提案
モスクワとアイルランドに拠点を置くTry.Fitは、3Dスキャナーと付属のモバイルアプリを通じて、ユーザーが自分に合った靴をオンライン・オフラインで選べる機能を提供する。
この3Dスキャナーを使えば、ユーザーは1分以内に足の「3Dクローン」をつくることができるという。また、同社は靴の内部スペースを測定するデバイスも開発し、そこで得られたデータとユーザーのデータを合わせることで適切なサイズを提案しているようだ。(参照:Russia Beyond)
Acustom Apparel:3D測定技術を使ってオーダーメイドのスーツを提供
2011年に創業し、ニューヨークを拠点とするAcustom Apparelは、3D測定技術を使ってユーザーの身体とスタイルにあったオーダーメイドスーツ・シャツを提供している。
サイトでは「独自のデジタル測定技術をつかって、200万のデータポイントを集めて3Dボディモデルをつくります。そのデータを独自のアルゴリズムに投入すれば、身体にフィットしたシャツやスーツをつくることができます」と謳ってる。
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このように、さまざまな会社がユーザーにフィットした服を届けるための挑戦を続けている。ZOZOSUITはスーツ型という点で新しく、また身体のサイズだけでないユーザーの動作に関わるデータが、どのように今後活用されるかが要注目だ。また、ZOZOSUITを通じて取得できた精密なユーザーの身体に関するデータを、洋服側とどのようにマッチングしていくかも気になるところである。
5年後、この「フィットテクノロジー」の分野を牽引するプレイヤーは誰だろうか?