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ドラマ「陸王」の"マラソン足袋"を制作したミズノに聞く、もう一つの開発ストーリー

ミズノが製作したマラソン足袋の完成バージョン Photo by: FASHIONSNAP

 現在TBS系列で放送中のドラマ「陸王」で登場する"マラソン足袋"に関心が集まっている。経営不振に陥った老舗足袋業者「こはぜ屋」を舞台にマラソン足袋の完成に至るまでの紆余曲折を描き、役所広司が扮する社長の宮沢紘一をはじめ従業員一同が会社の存続を賭けて奮闘する姿が共感を呼び、人気を博している作品。この「こはぜ屋」の救世主となるマラソン足袋を製作したのがスポーツメーカーの「ミズノ」だ。物語の鍵を握る「マラソン足袋」の開発にまつわる裏話をミズノの広報担当に聞いた。

ーミズノはドラマ「陸王」にどのような経緯で携わっているのですか?

 

 陸上競技における弊社の技術力の訴求を目的としたブランディングの一環で、特別協力という形で参加しています。今年始めにドラマの制作サイドから「足袋型シューズの製作は物理的に可能か」というご相談を受け、実際に試作品を製作し、納品したのが始まりです。ドラマではマラソン足袋の製作や陸上競技に関するアドバイスのほか、選手が着用するシューズ、ユニフォームなどウエアの衣装提供を行っています。

 

 例えば、劇中に登場するシューフィッターの役がいるのですが、彼がシューズを見る時の所作であったり、フィッターが実際に使用するノートなど、実際の仕事内容に関する情報提供をしています。そのほかにも、全体的に競技やシューズに関する知識を共有し、実際の現場での仕事を忠実に再現するお手伝いをしています。

ーマラソン足袋はどこで誰が作っているのですか?

 

 兵庫県にあるミズノテクニクス株式会社 山崎ランバード工場で、クラフトマン兼シューフィッターの亀井晶という職人が手作業で製作しています。彼は箱根駅伝のランナーやリオ五輪のメダリスト飯塚翔太など、ミズノの契約選手の中でもトップアスリートのシューズを実際に作っている人物です。



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中央の人物が実際にマラソン足袋を制作しているクラフトマン兼シューフィッターの亀井晶氏



ーマラソン足袋の製作過程は?



 既存の陸上シューズをベースにしながら、演じる方の足を計測したデータに基づき、指の股が分かれる足袋の形状に足型を削り、表現上のイメージに合うよう製作しています。アッパーに使用されている素材は実際にトップ選手が使用しているものと同様のもので、メッシュや「ダイニーマ」という軽量かつ強度の高い素材を使用しています。内側の足の指の割れ目部分は、肌当たりが良い柔らかい素材を使いました。

rikuou_mizuno_004.jpg ソールは、劇中で登場し開発の鍵となった新素材「シルクレイ」をイメージしています。通常のラインナップでも展開しているタイプで、非常にクッション性があり、雨天時でもグリップが強いものです。普通のランニングシューズよりも軽量で、一足ずつ職人の手によって製作されています。撮影でも使われた未完成のタイプも含め、6〜7足を納めました。

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ー劇中でも完成までの苦悩が描かれていますが、実際の製作で最も苦労した点は?

 

 通常のシューズと異なる足袋型の形状ということで、ラスト(=足型)の作製が最も難しかった点だと聞いています。





ーマラソン足袋の利点はどういったところなのでしょうか?足に負担がかかりにくく足裏全体を使って着地する「ミッドフット走法」に良いというのは本当ですか?

 マラソン足袋は指が動かせることで、足指で掴む感覚や力を鍛えるというメリットが挙げられています。
ミッドフット走法に関しては基本的に薄型でフラットなソールが適していると言われているので、マラソン足袋でも可能な走り方です。ミッドフット走法はあくまでも走り方なので、マラソン足袋でなくては習得できないというものではありません。

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ーフィクションのドラマとはいえ、製品は本格的なんですね。

 もちろんシューズとしての完成度は高いのですが、表現上の関係でソールを薄くするためにミッドソール部分を取り払っているので、正直なところトップレベルの競技となると改良の余地があります。その中でもリアルを追求し、原作や監督のイメージに合ったシューズを納めています。

ードラマで描かれている架空のライバル企業「アトランティス」のアイテムもミズノの制作ですか?



 はい。ミズノが展開しているカラーなどをカスタムできるオーダーシステムを利用して制作したのが、ピンクのカラーが特徴のアトランティス社のマラソンシューズ「R Ⅱ」です。ロゴ部分はミズノのランバードマークを取り除いています。

ー放送後の反響は?そしてマラソン足袋の商品化の予定はありますか?

 

 実は、1996年に鼻緒付きの指の股が分かれたシューズを発売した経緯があるのですが、人それぞれ指の長さが異なるということから指の股が擦れたり、履き心地などの点でラインナップから外れてしまいました。

 今回、マラソン足袋に関しても商品化できないかと検討したのですが、市販となるとラストをそれぞれの足の形に作らなくてはいけないという点や、手作業では追いつけない生産面の問題などクリアしなければいけない点が多く、現状では未定です。反響に関してはありがたいことに、SNSやツイッターなどで商品化を望む声をたくさんいただいています。このような話題作に携わることができ、嬉しい限りですね。


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劇中に登場する老舗足袋業者「こはぜ屋」のシンボルであるトンボマーク「勝ち虫」


■ ドラマ「陸王」公式サイト