毎日が読書日和ー思ったままの感想文

40歳で気付いた読書の魅力。小説から映画まで、感想を綴ります。

「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」 七月隆文

ぼくは明日、昨日のきみとデートする」の内容 

京都の美大に通うぼくが一目惚れした女の子。高嶺の花に見えた彼女に意を決して声をかけ、交際にこぎつけた。気配り上手でさびしがりやな彼女には、ぼくが想像もできなかった大きな秘密が隠されていて―。「あなたの未来がわかるって言ったら、どうする?」奇跡の運命で結ばれた二人を描く、甘くせつない恋愛小説。彼女の秘密を知ったとき、きっと最初から読み返したくなる。 【「BOOK」データベースより】

 

 「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」の感想 

 映画化された恋愛小説という知識だけで、詳しい内容は知らずに読み始めました。

 

 前半部分は、大学生の主人公「南山高寿」と、同い年の「福寿愛美」の甘くてベタベタな恋愛模様が描かれており、いかにも恋愛小説といった趣でした。

 しかし、中盤に彼女の秘密が明らかになると、この恋愛小説は一気に別の側面を見せます。最後まで読み終えると、涙を堪えるのが難しいほどの感動を覚えました。

  

 設定としては、現実的でなくファンタジー的な要素を土台としています。しかし、その非現実的な設定を気にさせないほど、登場人物の心の機微が繊細に描かれています。中高生向けのラノベの雰囲気を漂わせていますが、年齢問わず、心に訴えてくるものがあります。 

 中盤、彼女の秘密が分かると、タイトル「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」の意味が分かります。

 明日と昨日の意味。

 切なく悲しい物語が始まりを告げます。しかし、本当は、秘密が明かされる前から始まっていたのです。

 

登場人物 

 南山高寿・・・京都の美大に通う大学生。愛美に一目ぼれする。

 福寿愛美・・・美容の専門学校に通っている。

 

 登場人物は少ないです。少ない登場人物の上、高寿・愛美以外の登場人物は、あまり物語に登場してきません。二人を中心に描いているというよりは、二人だけの物語として描いている印象を受けます。

 二人の心の微妙な動きまで表現することが出来るのは、二人の世界だけを描こうとしているためでしょう。

 

彼女が秘密を明かす前  

 彼女に一目惚れした高寿が、彼女を追いかけ告白するところから始まります。いかにも、中高生向け恋愛小説の始まり方です。そして、彼女が、その告白を受けることも、出来すぎな恋愛小説の印象を際立たせます。

 そこからは、甘い恋人関係が続きます。デートしたり、手を繋いだり、キスをしたり。高寿が、女の子とまともに付き合ったことがないので、その初々しさが伝わってきます。彼女も、彼に合わせるように初々しさを感じさせます。

 

 現実に、異性と付き合ったことにない人たちには、理想的な恋人関係に映るでしょうし、異性と付き合い始めた人たちには、共感を覚えるような恋人関係でしょう。

 そして、そのような時期を過ぎた恋人たちや結婚した人たちには、そういう時代があったことを思い出させるかもしれません。

 高寿にとって夢のような日々が描かれています。その幸せは、読んでいて恥ずかしくなるところもあります。

 出来過ぎな出会いと、出来すぎな恋愛の進展。普通に読んでいると、単なる青春恋愛小説にしか感じないと思います。

 

 しかし、幸せな恋愛関係の中で、彼女の発言・行動に違和感を感じる場面が登場してきます。そのことが、彼女に大きな秘密があることを示唆します。それは、決して、喜ばしい秘密ではなく、不穏な秘密であることは容易に想像できます。容易に想像できるからこそ、彼は深く追求しないのでしょう。

 しかし、読者にとっても、高寿にとっても、その秘密は避けて通れないものだと理解できます。そして、彼女もそれを理解しているからこそ、打ち明けることになるのです。

 言い方を変えれば、打ち明けることが決まっていたのです。決まっていたという表現が、最も適切で、彼女の秘密に直結する表現でもあります。

 

彼女が秘密を明かした後  

 彼女が、彼に明かした秘密。それは、この小説の最も重要な部分です。

 先ほども書きましたが、その秘密が明かされることにより、単なる恋愛小説でなくなり、タイトル「ぼくは明日、昨日のきみのデートする」の意味も分かります。

 これは、読んでみてください。ある程度、想像できる人もいると思います。しかし、その秘密が明かされる瞬間は、何とも言えない気持ちになります。

 彼女の秘密が明かされたことにより、これまでの彼女の言動・態度にも納得できます。彼が感じていた彼女に対する違和感の全てについて、辻褄が合うようになります。

 

 そして、これからの二人が、どのような関係になっていくのか。

 秘密を抱えてきた彼女。

 秘密にされていた彼。

 

 彼女に対する不信感を、どうするのか。

 彼女が秘密にしていた理由を感じ取ることが出来るのか。

 物語が進むにつれ、恋愛以上にお互いを思いやる気持ちが溢れてきます。その思いやる気持ちが、切なくて悲しい。読んでいて、心が震えてきます。

 

最後に  

 彼女の秘密が、この物語を切なく悲しくやるせない思いにさせます。彼と彼女にとって、共有できるものは非常に限られた瞬間のみです。しかし、その限られた瞬間のために、二人は一緒にいます。そのことが、幸せなことなのか辛いことなのか。

 最後には、避けられない運命のとおりの結末になります。ただ、切なくて悲しい結末であるのは間違いないですが、そこには幸せも含まれていたと感じます。決して、救いのない出会いではないのです。

 

映画化について

 映画は観ていません。公開は終わっていますが、機会があれば、観てみようと思ってます。心の動きが重要な要素ですので、映像でどのように表現されているのか興味深いです。

 

 
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