プラスチック科学館

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女児時代プリパラで育って良かった2 プリパラの「女児解放」の記録

 

nlab.itmedia.co.jp

先日こちらの記事を拝読し、女児アニメに広がる多様性に感銘を受けた。そこで今回は、上記プリキュアの記事でも取り上げられたプリパラの「多様性」に祝福されたアイドル達を再び紹介していきたい。

 

鍋島ちゃん子「Just my chance call」

 

ちゃん子ちゃんは、アイドルアニメ初のぽっちゃりCGライブを敢行した先導者だ。TVシリーズでは天才アイドル北条そふぃの親衛隊というサブキャラの立場だった彼女は、劇場版では地下ファイトクラブに囚われた仲間たちを助けるため、自分の倍以上の身の丈の屈強な女レスラーと闘い、CGソロライブで高らかに勝利宣言を謳った。訳が分からないと思うが、女児アニメの劇場版を見に行ったら突然地下闘技場が映し出された私達も全く訳が分からなかった。だがそれ以上に圧倒されたのだ、劇場の空気を一瞬で支配した彼女の「強さ」「美しさ」に。 

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実際、MMDや3DCGを触ったことのある人なら察しやすいだろうが、ぽっちゃりキャラというのは本当に作り難いのだ。
身体のどこを動かしても何かしらに衝突し、お揃いのダンスをさせようとモーションを流し込んだら手足がめり込む。調整に膨大な時間がかかる。しかもセルルックアニメなのだから、お腹や腕のラインが自然な稜線になるようトポロジーに人1倍気をつけなくてはならないし、作ったモデルやモーションは使い回しが効かないからコストが高い。はっきり言ってぽっちゃりモデルは、凡人なら制作に踏み切れないような茨の道だ。

だがそれで諦めたら「ぽっちゃりはアイドルになれない」という呪いを受けた女児達は、一生その烙印を胸に抱いて大人になっていく。だからこそプリパラはアイドルアニメ初のぽっちゃりCGライブを敢行したのだ。彼女たちに「沈黙の時代は終わった」と宣言するために。

自由なspace 手に入れたい
I will beat up! 譲れないのは
glamorousなChance call!
Fight back 弱気 教えてあげる誰が最強か

ちゃん子ソロ曲「Just my chance call」より

f:id:ukeseka:20171124220002j:plain自らグラビアを企画し撮影するちゃん子ちゃん。

ちゃん子ちゃんは全シリーズを通して「太ってるからステージには立てない」「痩せなきゃ」などの卑屈な発言は一切言わされない。むしろグラビア路線でトップアイドルの座を狙う野心溢れるアイドルだ。何故なら「太ってるからアイドルになれない」なんて汚い野次を吐く輩は「プリパラ」には存在せず、ぽっちゃり女子達が夢に見続けた「自由なspace」を体現する楽園が「プリパラ」だからだ。

 

 

 やりたい放題な成人アイドル達

 

それから前回の記事を投稿した際、知らんおっさんから「中高生は女児ではないだろwwww」というコメントが延々届いて若干のノイローゼになったのではっきり言っておくが、お前らそんな事ばっか言ってるからまだプリチケが届かないんだぞというのが正直な気持ちである。

 

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コスモさんやちりちゃんのお祖母様を見れば分かる通り、ライブ中にいきなり酒を飲む成人女性でも90超えの老婆でも等しく「プリパラアイドル」であり、中高生が女児と名乗って揶揄されるような世界ではないのだプリパラは。(ちなみにプリパラの世界ではプリパラ史は有史以前から存在しており、卑弥呼ジャンヌダルククレオパトラもかつてプリパラアイドルだったという記録が遺されている)プリパラを見れば、そしてアイドルデビューすればそんなこと簡単に分かるので、ネットに書かれた年齢などと言うこの世で最も信用できない情報から筆者の生まれ年を探るなんて無駄な時間を浪費する前に、とりあえず1話から見てきて欲しいというのが切実な願いだ。何故なら彼等おっさん達も私と同じく、アイドルになる資格があるのだから。

という訳でそんな成人済みアイドルの中でも特に遅咲きの、成人し美術の教員免許を取得してからアイドルデビューしたプリパラ界きっての問題児「黄木あじみ」を紹介する。

 

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「こんこん金剛力士像」や「麗子像」などのスクショは既に出回っていると思うのであじみ先生のクレイジー伝説は割愛する。放送基準の限界を攻めるような極彩色と耳に残る歌声、そして振り付けのほとんどがガニ股というインパクトにスルーしそうになるが、パニックラビリンスにはまともに人語を喋らないあじみ先生の思想が垣間見えるとんでもないフレーズがある。

 

にわとりたまごの順番は謎よ 人に聞くのやめて君が描いてみて

アソボイボイボーイ&ガール ボイコット覚えよい 楽しくサボったら変わる世界の常識ですから


子供向けアニメの教師キャラが「ボイコットを覚えてサボれ」「人に聞くのをやめてお前が描け」と高らかに謳っているのである。その後あじみ先生は主人公達の学校に赴任するも、学習指導要領を一切無視しひたすら壁という壁に絵を描き殴り窓から飛び降りるというDead poets societyも真っ青な授業を展開する。
教師という立場のキャラクターに反体制、反権力、根っからの自由主義者というキャラ付けを施すプリパラはまさしく世界の常識を変えようとしているのだろう。

 

 

ここまでで紹介してきたちゃん子、コスモ、あじみの三人がアイドル界のニューウェーブどころか誰にも制御できない爆弾アイドルなことが伝わっただろうか。彼女達をメンバーに加え入れ、バランス良くチームを組まなくてはならないアイドルはさぞかし大変にちがいない……と思ったら爆弾三人でチームを組んでしまった。それが伝説のユニット「うっちゃりビッグバンズ」である。

アウトローアイドル」の集大成「うっちゃりビッグバンズ」

 

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開始早々鳴り響くエレキギターヘドバン張り手。個性のぶつかり合いどころか個性の連鎖爆発である。あじみ先生に至っては、地に足をつけて踊る時間よりも好き勝手空中を飛行している時間の方が長い。ライブCGはモーキャプデータに従って踊るもの、という固定観念にすらプロテストする生粋の叛逆者魂が垣間見える。

このライブ映像を見てもらえば分かる通り、プリパラにおいて「足並み揃えてお行儀よく」なダンスは一切重要視されていない。彼女たちのライブは互いの個性を丸ごと足し算したエネルギーの塊だ。

 

「アイドルの自由」の楽園

 

好き放題暴虐の限りを尽くすプリパラのアイドルは皆「ファンのために振る舞う」ような職業アイドルとしては失格な暴走機関車ばかりだ。それは、プリパラの定義する「アイドル」が現実や他のアニメの「アイドル」とは違う意味を持つことも関係している。

通常、アイドルは芸能事務所にスカウトされ、ダンスやライブ、ラジオや握手会などでファンに「サービス」することによって「アイドル」になる。
だがプリパラでは「年頃の女の子に届く楽園への招待状『プリチケ』。それを持ってプリパラに行けば『アイドル』になれる」とされている。


「プリパラアイドル」はスカウトによって選別される客体ではなく、「自らアイドルになる主体」なのだ。

 

身も蓋もない例え方をするなら、普通のアイドル物が商業出版で、プリパラはコミケ。サークルも買い子も同じ『参加者』で、そこに垣根は存在しない。初めて一般参加し戦利品を読み、「あーすごかった、私も本出してみたいなー」と思ったら、新人賞に応募や持ち込みなんてせずとも、すぐに来期のサークル申し込みをして本を出せる。
プリパラも同じで、初めてライブを見て「あーすごかった、私もライブしたいなー」と思ったらすぐにライブのエントリーが出来る。売上やファンなんて気にせずどんな尖った本やライブを出してもいい何才だってデビューできる。そして商業では決して生まれなかったであろう傑作が毎年何本も生まれる。何故なら表現の自由」の楽園が即売会なら、「アイドルの自由」の楽園がプリパラだからだ。

そしてここで重要なのは女の子達に「アイドルになる自由」がプリパラによって初めてもたらされたことだ。それまでアイドルはスカウトやファンによって選ばれるものであり、とどのつまり「アイドル」を持っていたのは大人達だった。プリパラは初めてアイドルを「女の子達の物」にしたのだ。

 

故に、プリパラアイドルたちの歌は主体としての歌詞が多い。彼女たちは全身全霊を込めて「私を見ろ!」と叫ぶ。アイドルソングによくある「一般人やファンの気持ちを仮託する曲」はほとんどない。何故なら楽園にただ消費するだけのファンは存在せず、「あなた」も「私」もみんなアイドルなのだから、ステージに立てない者達の想いを代弁する必要が無いのだ。

この楽園では「アイドル」は全ての人のもの。そふぃのようにお手本の『アイドル』として振る舞う者もいれば、ちゃん子やあじみ先生のように独創性でファンを置いていけぼりにするアイドルがいてもいい。シオンやひびきのようにただ己のみを見つめ、技を磨く武者達も「アイドル」だ。

プリパラの謳う「アイドル」はファンに尽くす「偶像」ではない。敢えて言うなら「自己実現した者の総称」であり、女児達が憧れるべき「英雄」である。

 

それもそのはずで、「普通の真人間」からドロップアウトしたならず者ばかりで個性が溢れて止まらない彼女達は、ファンのための滅私奉公など出来ないのだ。
ファンに尽くすのは現実のアイドルや他のアイドルアニメに出てくる、真面目で聞き分けのいい子達がやってくれる。
だからこそ私たちは己の自己実現のために、楽園に集う全てのプリパラアイドルのために歌う。ここは私たちの楽園だ、主役は私たちだ、「愛ドルを取り戻せ!」と。

ヘドバンとエレキギターと空中飛行するアイドルが飛び交うカオス極まりないうっちゃりビッグバンズのライブを初めて見た時、「なんてプリパラらしい曲だ!」と笑いが止まらなかった。なぜなら、プリパラ自体が「普通のアイドル像」からドロップアウトした者達の復活戦だったからだ。

 

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I FRIEND YOU! いつだって(We Are!)
誓い合ったプロミス!(We Are!)
あなたがいるからこんなにも自由なんだ

 

「プリパラ」から「アイドルタイムプリパラ」へ

そして今年4月、プリパラシリーズは4年目に突入すると共にシステムの大幅なアップデート、そしてメインキャラクターの交代というリニューアルを遂げた。 今回は中でも革新的だったキャラクター「ヒーローアイドル『虹色にの』」と「男プリ『WITH』」を紹介する。

 

「女の子が『ヒーロー』に憧れて良い」というアンサー

 

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アイドルタイムプリパラからの新キャラクター「虹色にの」ちゃんは運動神経抜群、スポーツ万能、運動部助っ人の引っ張りだこ。そしてプリパラではスポーティな衣装に身を包んだポップアイドルとして華麗にアイドルデビューするが、「幼い頃の夢が思い出せない」という悩みを抱えていた。そして先週の33話「ガァララ塔のひみつっす」では、彼女の夢が「みんなを助けるヒーロー」そして「みんなを笑顔にするアイドル」だったことが判明する。ここで思い出して欲しいのが、以前フジテレビで「子どもの屁理屈」として紹介された「変身ベルトを買ってもらえない女の子」の動画だ。

 

togetter.com


「男の子になるから!ちんちんつけるから!」と泣き叫ぶ彼女の慟哭は魂からの絶望であり、そこに笑い話になる要素は存在しない。この動画が話題になった時「昔の自分を見ているようだ」と泣く大人達が続出した悪夢のような光景が忘れられなかった。ネット上では女の子を支持する声が多数挙がったが、それでも依然として「女の子(男の子)だからライダー(プリキュア)ダメ」と言う動画を面白がって紹介するのがテレビの意見だった。だがそれももう終わりなのだ。

 

 

 

アイドルタイムプリパラ33話以降の子ども達はもし「女の子だからダメ」と言われたら、毅然とテレビの中のにのちゃんを指して告げればいいのだ。「にのちゃんだってヒーローアイドルだもん!」と。制作側の意図を断言するのはよろしくないオタク仕草だが、これに関しては断言する。「ヒーローの玩具を買ってもらえなかった過去現在未来全ての女児」を、虹色にのちゃんは救ったのだ。

そして冒頭で紹介したように、昨今の女児向けアニメは男の子がプリキュアに憧れてもいいんだ、という姿を描き始めた。ではプリパラは「男の子」とどう向き合うのか? ここでアイドルタイムプリパラから新登場した「男の子が男の子アイドルに憧れ『いいぜ!』を送る、男子の楽園『男プリ』」そして男子アイドルユニット「WITH」を紹介する。

 

王子様からの解放

ディズニーのシンデレラを見たことはあるだろうか。その中で「王子様の素敵さ」がルックスや歌の上手さ、あと歯がやたら白い以外に何も描かれておらず、性格や人となりの描写が一切されていないことは知っているだろうか。

長い間、女の子向けアニメに出てくるイケメン男子は主人公、並びにメインキャラクターが恋愛を通して成長するための「通過儀礼でしかなく、そこに個としての掘り下げはされなかった。それは「王子様の呪い」だった。

 

以前は女性もそうだった。レンジャーの紅一点はピンクの可愛い系。SFやアクションに出てくる女優は主人公の漢らしい勇姿を見届ける「付き添い」か、ヴィランに攫われヒーローに救われる「トロフィー」でしか無かった。

だが現代ではレンジャーにも水色や黄色のクールな女性メンバーが加わった。映画にも「恋愛要素のための女性キャラ」は余程あんまりな作品以外登場せず、共に闘うチームメイトとして女性キャラクターは「自立」した。女の子はアナ雪やモアナによって「清く正しく美しく淑やかに王子と結婚する」という「お姫様の呪い」から解放されたのだ。

 

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だから、今度は王子様を解放する番だ。主人公の恋愛経験のための偶像ではなく、「アイドル」という同じ道を目指す対等な男の子としてWITHは受肉する。「女の子の楽園」だったプリパラは「男の子の楽園」男プリと国交を持ちながらも、その存在を利用すること無く受容し「みんなの楽園」を認めあっていく。アイドルタイムプリパラはWITHという「男の子」をそう描いていくのではないか。登場から半年以上経った今でも恋愛要員ではなく個々のアイドルとして輝くWITHを見て、私はそういった希望を抱いている。

 

 

 

「プリパラは好きぷり? じゃあ大丈夫! できるぷり!」

 

 

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 前回、割と日記気分で記事を書いてしまったので無料公開中の1話のリンクを貼らなかったのを本気で後悔している。という訳で今からでも、せめて「あたしはプリパラを見てるだけで充分なの!」と恥ずかしがるらぁらに向けてみれぃが告げた女児解放宣言(17:00)のシーンまで見て欲しい。そしてプリパラシリーズ並びに前作プリティーリズムシリーズはdアニメストアなどの動画サービスで全話配信中なので、一話と言わず全話見て欲しい。

 

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「世界中に向かって届くように思いっきり歌うぷり。ここではすべての女の子にそれが許されているぷり!」

 

男の娘も、ぽっちゃりさんも、成人女性も大正生まれも、恥ずかしがり屋な普通の女の子も。そしてアイドルタイムプリパラからは男の子も。生きとし生けるもの全て、誰だってアイドルなのだ。

 

  

anime.dmkt-sp.jp

 

2017/11/25

うけせか