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【社説】

チーム解決力 素直に喜んで良いのか

 日本の高校生は、チームで協力して問題を解決する能力が高いらしい。経済協力開発機構(OECD)の調査で分かった。ただ、人間の能力の源泉は、多様多彩でもある。素直に喜ぶべきだろうか。

 OECDが開発し、世界の十五歳を対象に初めて実施した協同問題解決能力調査の結果だ。五十二カ国・地域が参加し、日本の平均点はシンガポールに次いで二位。OECD加盟の三十二カ国ではトップだった。

 授業や給食、清掃、部活動、体育祭や文化祭…。日本の学校教育は集団行動をふんだんに採り入れている。役割を分担し、協力して物事を成し遂げる能力がうまく培われている証左かもしれない。

 公開された問題例は、生徒がコンピューター上の仮想人物二人とチームを組み、目標の達成を目指すという設定だった。そのやりとりの過程を調べた。

 仮想人物たちに対し、提案したり、手助けしたりすべき場面が表れる。チームとして最も効率良く目的を果たすために、生徒は自らの立場を考え、適切と思う応答を選択肢から選ぶ仕組みだった。

 とはいえ、世界上位の成績をどう評価するかは難しい。というのも、生身の人間同士なら当然に想定され得るやりとりでも、目標までに遠回りとなるような応答をすると不正解とされたからだ。

 例えば、相手に「そうだね」と理解を示すのも、あるいは「よくやったね」と褒めたり、「大丈夫だよ」と励ましたりするのも誤りだった。仲間を気遣い、和を尊ぶ傾向のある日本の生徒は、特にこうした問いにつまずいた。

 素早く目標を達成するという道筋から外れた“無駄口”というわけだ。しかし、実社会では、多様な文化的背景や価値観、道徳感情、性格特性を持った人々の協力が欠かせない。理屈以前に、互いの違いを尊重することは大切だ。

 仮に設計上の制約があったとしても、現実を度外視したような調査は、教育現場に誤ったメッセージを送ることにならないか懸念が拭えない。

 もっとも、調査と同時に行われた生徒アンケートの結果は興味深い。

 相対的な指標では、日本の生徒は共同作業より独りで生み出す成果を重んじ、チームでは利己的な行動に価値を置くが、シンガポールの生徒はほぼ逆だ。同じ好成績でも、協力の仕方が違うのか。

 人間の能力の源泉は、地域によって多彩なのだろう。画一的な尺度でみた優劣に一喜一憂すまい。

 

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