「世帯分離」という時代に合わない仕組みが、生活保護家庭で育つ子の大学進学を阻んでいる。

 国の調査によると昨年4月時点で、生活保護世帯の子どもの大学や専門学校への進学率は33・1%にとどまっている。全世帯の73・2%と比べると半分に満たない厳しさだ。

 親の年収と子どもの学力に相関関係があることは各種データが示すが、それだけでは説明できない大きな開きである。

 働ける状況にある人には働くことを求める生活保護制度は、保護を受けながらの大学や専門学校進学を認めていない。

 そのため保護世帯の高校生が進学するには、制度上、親と生計を切り離す世帯分離の手続きが必要となる。同居は続けられても世帯分離すれば、1人分の保護費が減らされる。

 例えば母子2人世帯の場合、世帯分離によって衣食などに使う「生活扶助」や母子加算など月5万~6万円が減額される。家族の生活が苦しくなることを考えて、能力も意欲もあるのに、進学をためらったり、諦めたりする子が大勢いる。

 一方、進学の道を選択した場合も、奨学金を授業料に充てながら、減額分をアルバイトで稼ぐなど、苦しい生活が待ち受ける。卒業後の奨学金返済に不安を抱える人も多い。

 大学などへの進学率が7割を超える時代にあって、保護世帯の子だけに高校卒業後は働いて自立することを求める仕組み自体が不条理だ。

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 生活保護世帯の子どもが大学などに進学しやすくするため、厚生労働省で制度見直しに向けた議論が続けられている。

 来年度から入学時に一時金を支給し大学進学を後押しするほか、世帯分離による保護費の減額幅を抑えようとの検討だ。

 ただ懸念されるのは減額抑制とは言いつつ、「住宅扶助」に限って減額しないなど、その額は月数千円程度と小さい。

 生活扶助を打ち切ったまま、世帯分離の仕組みに手を付けない対応では、名ばかりの進学支援である。

 かつて、高校進学に際しても、世帯分離の仕組みがあった。

 高校進学が当たり前となり1970年に廃止されたが、大学進学が将来の収入に影響し、貧困解消につながることを考えれば、同様に廃止すべきである。

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 貧困の連鎖を断つには、生まれ育った環境に関係なく、教育機会を確保しなければならない。時代遅れの制度により進学率に大きな開きが生じるようなこともあってはならない。

 安倍晋三首相は17日の所信表明演説で、「どんなに貧しい家庭に育っても、意欲さえあれば、専修学校、大学にも行くことができる。そういう日本にしていこう」と力説した。

 より厳しい環境にある子どもたちへのサポートを最優先すべきだ。