勘違いしている人が多すぎる! 「自動ブレーキ」は「自動的にブレーキを掛けて停止してくれる装置」ではない
クルマに興味のある人ならJAFという組織を知っているだろう。1963年に創立した一般社団法人日本自動車連盟のことで、バッテリー上がりなどでお世話になるロードサービスからモータースポーツのライセンス発給まで、カーライフにまつわるさまざまなバックアップを行なってくれる組織だ。
そのJAF、ドライバーに役立つさまざまな話題をオフィシャルサイトなどで紹介している。その中で注目すべき内容があったので紹介しておこう。
雪道や凍結路でノーマルタイヤやスタッドレスタイヤなどでブレーキを掛けてから車両が停止するまでの制動距離と、衝突被害軽減ブレーキについて検証を行ったものだ。その結果はオフィシャルサイトで公開されている。制動距離の実験では、圧雪路と氷盤路で、ノーマルタイヤ、スタッドレスタイヤ、オールシーズンタイヤ、ノーマルタイヤ+チェーンなど6つのパターンで、40km/hから急ブレーキを掛けて検証している。
その結果、圧雪路では、スタッドレスタイヤがもっとも短い距離で停止でき、ノーマルタイヤは約1.7倍も制動距離が長くなったとのこと。一方氷盤路ではノーマルタイヤにチェーンを装着した状態が最短距離で停止でき、ノーマルタイヤは約1.8倍になったという。
筆者が興味を持ったのはそのあと、衝突被害軽減ブレーキの実験だ。こちらは圧雪路と氷盤路で車速10km/hと30km/hで検証していた。いずれも障害物を検知してシステムは作動したものの、圧雪路の10km/h以外は止まることができず、停止車両に見立てた障害物に衝突してしまった。
自動車メーカーでは衝突被害軽減ブレーキについて、作動には条件があるという表現を使っている。JAFのテストはそれを証明していた。滑りやすい路面では衝突被害軽減ブレーキが十分に効果を発揮できないことがあるので、過信は禁物というメッセージだった。
こうした特性を知っているドライバーも多いだろう。ところが同じJAFが1年前、全国のドライバー約3.5万人を対象に、衝突被害軽減ブレーキ装着車を含めたASV(先進安全自動車)について行ったアンケートでは、そうでない人が相当数存在していることが分かっている。
オフィシャルサイトで「自動車の未来」というタイトルで公開しているので、気になる方は見ていただきたいのだが、CMなどで使っている「自動ブレーキ」や「ぶつからないクルマ」について尋ねたところ、名称を知っている人は81.1%いたものの、機能を正しく答えた人は54.6%しかいなかったそうだ。
間違った答えでいちばん多かったのは、前方にクルマや障害物などがいたとき自動的にブレーキを掛けて停止してくれる装置というもので、39.8%にも上った。発進時や走行中にアクセルとブレーキの踏み間違いを防ぐ装置と答えた人も4.1%、ブレーキ操作を行わなくても良い装置とした人も1.3%いたという。
なぜこのような誤解が生まれたのか。やはり自動ブレーキという呼び方に問題がありそうだ。
自動運転についても似たようなことが言える。国土交通省では国内外で事故が起こるたびに、「現在実用化されている『自動運転』機能は、完全な自動運転ではありません!!」と、!を2つも付けて注意をうながしている。
それでも自動運転や自動ブレーキというフレーズがCMから消えることはない。宣伝になるからだろう。しかし自動とは手動の逆に位置する言葉であり、人間が手足を動かさなくても必要な動作をやってのけることを意味する。現在市販車に搭載している技術は、ドライバーが操るアクセルやブレーキ、ステアリングの動作をアシストするレベルであり、衝突被害軽減ブレーキ、運転支援システムという表現がふさわしい。
ジュースという呼び名は、現在の日本の食品表示基準では100%果汁でないと使えない。それ以外は「果汁入り飲料」という表記になる。自動ブレーキや自動運転についても、このぐらい厳しい条件を付けたほうが安全性向上につながるのではないだろうか。
モビリティジャーナリスト
森口将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材し、雑誌・インターネット・講演などで発表するとともに、モビリティ問題解決のリサーチやコンサルティングも担...
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