JASRACはなぜ洋画の音楽使用料を値上げしたいのか 映画音楽に何が起きた?

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 外国映画(洋画)を日本で上映する際、劇中音楽の著作権者らに支払われる使用料が「海外に比べて著しく低い」として、日本音楽著作権協会(JASRAC)が事実上の値上げを求めた。

 映画界には動揺が広がっているが、映画音楽をめぐって何が起きているのか。

2%と0・0007%

 JASRACが11月8日に東京都内で記者会見し、洋画で使われる音楽の使用料の変更を求めた。

 JASRACは、自分たちに作品を委託している作曲家、作詞家らに代わって音楽の使用料を徴収する組織で、洋画についても、全国の映画館で構成する「全国興行生活衛生同業組合連合会」(全興連)を直接の相手として徴収している。

 JASRACは今回、その額が洋画の興行収入(劇場での飲食物販も含んだ売り上げ)に見合っていない、と指摘している。

 いくらか。1本18万円だ。「1本」といっているのは、映画館の数や動員観客数を計算には入れない、という意味。つまり興行収入と無関係に18万円の定額制だ。1985年から30年以上18万円のままできた。

 JASRACは、日本と欧州とで2014年に支払われた映画音楽の使用料の総額を比較して、日本がいかに安いかを説明する。

 日本(邦画含む)=約1億6657万円

 仏=約22億7307万円(興行収入の2%)

 伊=約17億848万円(同2・1%) 

 独=約12億7332万円(同1・25%)

 日本はドイツの12分の1、フランスの22分の1だ。なお、これら欧州3カ国の音楽使用料の算出方法は、国内と外国映画の違いはない。このため、日本も邦画を含んだ金額になっている。

 この18万円が興収の何%に当たるかを、記憶に新しい大ヒット米アニメ映画「アナと雪の女王」(2014年)で計算すると、「アナ雪」の日本での興収の総額は約255億円で音楽使用料は日本中で合わせて定額18万円だから、興収の0・0007%。2%前後の欧州の水準とは大きく異なる、というわけだ。

 「音楽は俳優に劣らないぐらい重要な役割を担っている。努力に見合う対価や適正な報酬が(作曲家、作詞家に)支払われなければならない」と話すJASRACは、1作品18万円の「定額制」を欧州同様、興収の1~2%程度の「従量制」に改める目標に掲げ、「関係団体と交渉する」としている。

 年度内に関係者団体から合意をとりつけ、文化庁への使用料規定の届け出を済ませ、来年度からは実施したい考えだ。

東京宣言

 JASRACは、なぜ、このタイミングで洋画の音楽使用料値上げの口火を切ったのか。

 JASRACの会見と同日、東京では「国際音楽創作者評議会」(CIAM)の総会が開かれた。

 世界中の著作権者で作るCIAMの総会がアジア・太平洋地域で開かれたのは、これが初めだったが、この総会後、CIAMとアジア・太平洋地域の著作権者で作る「アジア・太平洋地域音楽創作者連盟」(APMA)が共同で記者会見、APMAが「東京宣言」を発表した。

 この宣言は「アジア・太平洋の多くの国、地域においては、映画音楽の創作者に適正な対価還元がなされていない」と現状を憂えて、「映画の成功を音楽創作者も共に喜ぶにふさわしい上映使用料の還元がなされるべきである」と訴えるもので、実際、中国、タイ、インドなどでは映画の上映から音楽使用料を、まったく徴収できていないのだという。

 JASRACは、この東京宣言を受けて会見をした。だから、会見にはAPMA会長で、昭和歌謡のヒットメーカー、作曲家の都倉俊一さん(69)らも出席したし、音楽家らが寄せたコメントの内容も東京宣言に重なっている。

 たとえば、映画「ラストエンペラー」などの音楽を手がけたミュージシャンの坂本龍一さん(65)は「日本が、先進国ならびにアジアの中でリーダーシップを発揮し、クリエーターの経済的基盤を守るために尽くしてくださることを願って止みません」。

 映画「レッドクリフ」の音楽を担当した作曲家の岩代(いわしろ)太郎さん(52)も「日本が著作権管理業界における世界の先駆者として、これからの映画業界や音楽業界で、その存在感を広げ、知らしめてほしいと願うばかりです」。

とうてい受け入れられない

 「確かに現状の18万円は、欧州と比べてかなり安い…」

 JASRACの会見を受けて、こう話すのは「外国映画輸入配給協会」(外配協)のある幹部だ。

 ここで、洋画配給会社の集まりである外配協が出てくるのは、実際に使用料を支払っているのが外配協だからだ。

 JASRACに支払っているのは全興連だ、と前述したが、厳密には「JASRACと洋画の音楽使用料について契約を結んでいる」のが全興連で、外配協が費用を捻出して全興連を通じてJASRACに支払っている。

 その外配協は、JASRACの指摘通り、日本の音楽使用料が欧州と比べて安いことは認める。が、「とはいえ…」と、その幹部は続ける。

 「JASRAC側の『興収の1~2%』という基準では、経営が成り立たない配給会社も出る。とうてい受け入れられない」

 外配協はJASRACの会見を受け11月17日に理事会を開き、次のような方針を確認した。

 (1)使用料の値上げはやむを得ない

 (2)しかし、入場料に転嫁せざるを得ない値上げは受け入れられない

 (3)JASRACとの交渉は全興連を通して行う

 「興収の1~2%」は「交渉のための“ふっかけ”」だろう、と見て出てきた方針だという。

 いずれにしろ、外配協はJASRACと全興連の交渉の行方を見守る構えだ。

 一方、JASRACは、上映スクリーン数などから算出している「邦画の音楽使用料」も、「このままで良いとは思っていない」と言及している。

(文化部 竹中文、高橋天地)

一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)

1939年設立。作詞者、作曲者、音楽出版者などから権利を委託された楽曲(管理楽曲)の著作権管理業務を行っている。管理楽曲を演奏、放送、録音、ネット配信などで利用する際、利用者はJASRACに使用料を支払う。JASRACは、これを定期的に権利者らに分配する。ことし2月には音楽教室から使用料を徴収する方針を表明。6月には教室を運営する音楽事業者が、JASRACに徴収する権限がないことの確認を求めて訴えを起こした。なお、洋画上映における音楽使用料徴収は1964年に一律5万円で始まった。