あなたの「円の描き方」は世界では圧倒的少数派かもしれない!|「時計回り」「反時計回り」の分布を公開
From Quartz (USA) クオーツ(米国)
Text by Thu-Huong Ha & Nikhil Sonnad
Photo: Martin Barraud / Getty Images
紙に「円」を描いてみよう。深く考え込まず、直感で。
さて、あなたは、円を上から描きはじめましたか? それとも下? 時計回りでしたか、それとも反時計回り?
米オンラインメディア「クオーツ」によると、円の描き方を見れば、その人の出身地に関するヒントが得られるという。
クオーツの記者たちがおこなった調査は、グーグルが2016年秋にリリースした「Quick, Draw!」というオンラインゲームの公開データを元にしている。Quick, Draw!は、ラクダや洗濯機など、さまざまな絵を20秒で描き、AIにその絵が何かを当てさせる楽しいゲームだ。だがその真の目的は、人間の絵の描き方をアルゴリズム化することだという。
リリースから半年で、グーグルは5000万点あまりの絵のデータを収集。そのなかには148ヵ国で描かれた11万9000点の円のデータも含まれる。クオーツの記者たちは、このデータを利用して、世界の人々の円の描き方を比較、分析。
その結果、円の描き方は、地理や文字文化、教育といった要素の影響を受けているらしいことが見えてきた。
まず円を「時計回り」、「反時計回り」のどちらかで描く傾向が、比較的はっきりしている主な国を見てみよう。
円を「時計回り」で描く傾向にある国とその割合
日本:約80%
台湾:60%弱
円を「反時計回り」で描く傾向にある国とその割合
ベトナム:約95%
フランス、ドイツ、フィリピン:約90%
米国、英国、チェコ、オーストラリア、フィンランド:約86%
韓国:約72%
(各国出身者に円を描いてもらいました。動画にてご覧ください)
つまり世界の主流は「反時計回り」で、「時計回り」が約80%に及ぶ日本はきわめて例外的な存在なのだ。(ちなみに中国はグーグルの参入を許していないので、同国のデータはない)
では、いったい何がこの違いを生むのだろうか。国によって違うものといえば、言葉であり、文字だ。その文字が、「横書きか、縦書きか」、「左から右へ書くか、右から左へ書くか」といった違いが、円の描き方の違いを生むのだろうか。
欧州や南北アメリカ大陸の国々は、話す言語こそ違うが文字はアルファベットである。またベトナムも、文字はアルファベットだ。一方、アジアや中東の多くの国はそれとはまったく異なる文字体系を持つ。
たとえば日本語は平仮名、片仮名、漢字の3種類の文字を使う。なかでも平仮名は円形ストロークが多い文字で、そのカーブの大半が時計回りで書かれる。「あ」がそのいい例だ。
「ありがとう」には圧倒的に時計回りの文字が多い
Illustration: Carre Moji / Getty Images
また漢字は、左上から右下に向けて書くのが基本だ。従って、漢字を書く手は自然と時計回りの動きをすることが多い。「了」がいい例だ。
また漢字文化圏では、文字の書き順は、学校教育のなかで大変重視される。子供は鉛筆を握った瞬間から、書き順を叩きこまれ、書き順がでたらめだと教養のない人だと見られる。
このような理由から、日本や台湾では「時計回り」で円が描かれることが多いものと考えられる。
この説を裏づけるかのように、漢字文化圏では、三角の描き方にも共通点が見られる。三角を一筆で描いた場合、台湾では97%が、日本では90%が「時計回り」だ。一方、米国では、50%強が「反時計回り」だ。
韓国は、台湾や日本に地理的には近いが、意外なことに米国と同じ「反時計回り」の円は72%にのぼる。ハングル文字には円がとりわけ多く、その円は「反時計回り」に書くよう教育されていることがその理由と考えられる。
では、なぜアルファベットを使う国では「反時計回り」に円を描く人が多いのかというと、理由はやはり、教育にあると思われる。漢字文化圏ほど書き順にうるさくはないが、たとえば米国では、最近はよく「マジックc」という概念を子供たちに教える。これは反時計回りの「c」の書き順を基本に「g」「q」「o」などの文字を書くというものだ。
「Thank you」にはa,o,uなどの反時計回りの文字が多く含まれる
Illustration: Carre Moji / Getty Images
円や三角の描き方のように、無意識のうちに自分が属する文化の影響を受けている日常の仕草や反応というものがある。指で数を数える方法や、擬声語や擬態語などもそうだ。そしてその多様性こそが楽しいものである。
クオーツの記者たちは、自分たちの説を試すため、世界各国の友人や知人に円を描いてもらったが、まだわからないことは多いという。たとえばタイ語の文字には小さなループが多い。反時計回りの文字よりも、時計回りのそれのほうが2倍多い。にもかかわらずタイでは、円を反時計回りに描いた人が64%だった。
また、右から左に書くアラビア語では、手が進む方向に合わせてカーブは時計回りであることが多い。だが円の描き方は、エジプトでもイラクでも反時計回りのほうがやや多かった。
記者たちは、絵や形の描き方に関する心理学の論文にもあたった。だがどうやら、この分野の研究は、近年ではあまり人気がないらしい。記者たちが見つけた「文化と形の描き方」に関する論文は、1つを例外にしてすべて1997年以前に書かれたものだった。
それもそのはずだろう。世界の人々はいまやペンを握ることよりキーボードを叩いたり、スクリーンをタップしたりすることのほうが増えているからだ。ということは、もしかしたら、文化圏による「キーボードの打ち方の違い」なども、すでに形成されつつあるのかもしれない。