(英エコノミスト誌 2017年11月18日号)
神奈川県横浜市にある居酒屋で、仕事を終えた後に酒を飲むサラリーマンたち。(c)AFP/Yoshikazu TSUNO 〔AFPBB News〕
経済成長率は上向いたが、インフレ率はそうではない。
東京は皇居の北に位置する飯田橋界隈。会社帰りの若い男女が、お酒と焼き鳥を楽しもうとお手ごろ価格の居酒屋チェーン「鳥貴族」に集まっている。
ここでは、テーブルに据えつけられたタッチパネルを客が操作して注文を出す。賃金を抑えることが難しくなっているため、運営会社が店員の数を減らすために導入したのだ。
それでも先月には、国産鶏肉の焼き鳥2串の価格を6%以上引き上げ、税別298円にせざるを得なかった。同社にとっては28年ぶりの値上げだ。
焼き鳥がマクロ経済指標として取り上げられることは一般的ではない。しかし鳥貴族の決断は、安倍晋三首相の名前にちなんだ日本経済再生策「アベノミクス」が下敷きとするロジックの好例だ。
安倍氏の経済戦略は、強力な金融緩和を通じて消費と投資を刺激することを狙っていた。消費と投資が増えれば雇用が創出されて賃金も上昇し、ひいては物価も上昇するという目論見だ。
過去20年間の大部分で物価を押し下げていたデフレからの脱却と、新たに設定された2%のインフレ目標が達成されれば、成功を収めたことになる。
安倍氏の実験は政権の発足前から始まっていた。今からちょうど5年前の2012年11月16日、前任の首相が衆議院を解散し、安倍氏の勝利が確実だった総選挙に踏み切った。
すると、市場ではすぐに日本円が下がり始めた。株式市場は、安倍氏の勝利がもたらす拡張的な経済政策を見越して上昇し始めた。
2013年4月になると、市場の期待は逆の意味で裏切られた。日銀の黒田東彦新総裁が、資産買い入れの規模を予想以上に拡大し、買い入れる国債の年限も予想以上に長期化したからだ。