政治外交まで絡めた電池業界の混乱と思惑

日韓中の陣取り合戦に突入

2017年11月24日(金)

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 11月9日の当コラム「環境改善か下剋上か、EVシフトの先の業界勢力」に対して、「参考になった」という賛同を9割近く得た。各種の新聞でも、毎日と言ってよいほど電動化政策やそれにまつわるビジネスモデル、電池関連などの記事が掲載されている。それだけ話題性があることと、社会の大きな関心事項であることを物語っているのだろう。

 今回は、最近の車載電池に関する話題を、国別にまとめてみる。

投資戦略が大きく異なる日本勢の動向

 本年、日本の電池事業会社2社の経営権が中国の投資ファンドであるGSRに移った。一つは、2007年に日産自動車とNECが合弁で立ち上げたオートモーティブエナジーサプライ(AESC)である。日産が競争力に疑問をもち、外部調達を基本とする戦略に方針転換したことで、AESCの身売りが決まった。

 AESCは、身売り先に関して日本、韓国、台湾、中国などの各企業と、時間をかけて交渉してきたようだが、食指を伸ばしたところがあまりなく、すぐには決まらなかった。約1年の歳月をかけてようやく、GSRにたどり着いた格好だ。1100億円での売却と報じられた。

 AESCにリチウムイオン電池(LIB)の電極を供給していたNECエナジーデバイスも、引きずられる格好で親会社がGSRに切り替わった。この売却は150億円以上と報じられたが、実際の売却額は定かではない。

 もっとも、両社とも開発~生産拠点は従来通り、神奈川県内にてそのまま維持されている。しかし、親会社がファンドであることで、さらに他へ売却される可能性も否定できず、企業経営としての安定性には不安感が付きまとう。

 そしてさらなる懸念事項は、AESC製LIBの顧客開拓という視点である。これまでのように、日産の製品に連動して供給し続けるビジネスモデルはなくなった。10月に発売された日産の新型電気自動車(EV)である「リーフ」にはAESCのLIBが採用されたが、今後の供給関係が維持保証されているわけではない。2016年12月に発売した日産「ノート e-POWER」は、シリーズハイブリッドシステムで、LIBとしても出力重視型のLIBが必要であったこともあり、そのLIBはパナソニックからの調達とした。パナソニックにしてみれば、事実上のセカンドサプライヤーの地位を確保したという見方もある。

 日産と協業関係にある仏ルノーは、LG化学のLIBを重点的に採用している。LG化学は、AESCと類似するラミネート型LIBの事業を行っている。今後、LIB調達で日産がルノーとの共同調達を図る可能性もあり、これはLG化学にとっては追い風となる一方、AESCにとっては逆風になりかねない。他方、出力特性を重視する日産の電動車に関してのLIB調達は、「Note e-POWER」で調達したパナソニックとの連携を予感させる。

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「政治外交まで絡めた電池業界の混乱と思惑」の著者

佐藤 登

佐藤 登(さとう・のぼる)

名古屋大学客員教授

1978年、本田技研工業に入社、車体の腐食防食技術の開発に従事。90年に本田技術研究所の基礎研究部門へ異動、電気自動車用の電池開発部門を築く。2004年、サムスンSDI常務に就任。2013年から現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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