9月24日のドイツ総選挙の後、続けられていた連立交渉が、11月19日、破綻した。そのことについては日本でも報道されているが、真実が伝わっているように思えない。
まず、復習だが、メルケル首相が自党CDU(キリスト教民主同盟)の政権継続は自明の理と見込んで臨んだ総選挙だったが、ふたを開けてみたら、そのCDUとCSU(キリスト教社会同盟・CDUの姉妹党)の連合が第1位とはいえ、得票率は8.6ポイント下げて史上最低となった。
そのうえ、再び大連立を組むはずだった第2位のSPD(社民党)もひどい落ち込みよう。つまり、かつて国民政党と言われ、戦後のドイツを背負って立ってきた両党が、揃って苦境に陥ったのである。そこで、深く反省したSPDは、選挙の終わったその夜、大連立には参加しないと宣言した。
さて、第3位に躍り出たのがAfD(ドイツのための選択肢)という新しい右派政党。AfDが、他のすべての政党とメディアからの総攻撃を受け、極右、ポピュリスト、差別主義、反民主主義、はてはナチとまで罵られていたことはこのコラムでも何度か触れた。それでも結果として、この「ナチ」に国民の8人に一人が票を投じた。
しかし、付け加えるが、私はドイツ国民がナチに回帰しかけているなどとは思わない。それより本当に危険なのは、AfDを潰すために結束している諸政党とメディアの動きのほうではないかと疑っている。
それはさておき、第4位。ここにFDP(自民党)が入った。リベラルな、現実的政治を目指す党だ。党首はクリスチャン・リントナーといって、若くて意欲的な人物。
そして第5位は左派党。これは左過ぎるとして、やはり他の党から無視されているが、AfDほどの総攻撃は受けていない。ドイツメディアは左に甘い。
第6位が緑の党。現在、議会に出揃った政党は7つだが、CDU/CSUが一つの党派として組んでいるので実質的には6つとなる。いずれにしても、緑の党はその中で一番支持者の少ない政党だ。
さて、連立の可能性であるが、2位のSPDが大連立を離脱し、3位のAfDと5位の左派党が、最初から連立相手に数えられていないとなると、残るはCDU、CSU、FDP、そして緑の党の4党しかない。しかも、4党まとまらなければ、議会の過半数が取れないというギリギリの状態だ。
この4党の連立は、「ジャマイカ」と名付けられた。CDU/CSUの党の色が黒、FDPが黄色、それに緑の党で、ジャマイカの国旗の色になるからだ(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53325)。
さて、交渉が始まってから6週間近く、4党の幹部がジャマイカ政権樹立のため、夜を日に継いで政策の調整をしてきた。とはいえ、普通の人の頭の中に浮かぶのは、ごく単純な疑問だ。
「そもそもこの4党が共に国政を司るなどということが、はたして可能なのだろうか?」
彼らの主張には、そんじょそこらの「妥協」では埋めきれない溝があるのではないか。