ほとんどのダムについている洪水吐
多くのダムには洪水吐(こうずいばき)というものがついている。
ダムから水を放流するための設備だけど、実はダムだけではなく、洪水吐は世の中のいろいろなものについていることに気がついた。 そこで、洪水吐について掘り下げてみたい。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
個人サイト:ダムサイト
前の記事:「車両基地めぐり(デジタルリマスター版)」 人気記事:「秘密のトンネルで黒部ダムの中に潜入!」 ダムの洪水吐とは洪水吐とは、ダムに貯めた水を下流に放流するための設備のなかで、特に大雨や雪解けなどで上流から流れてくる水量がふだんより多くなったとき(の状態を河川用語で「洪水」という。あふれなくても洪水「状態」になるのだ)、水量調整の目的で放流するためのものを言う。文字通り、(河川用語の)洪水を吐くものだ。
その中で、そのダムの守備範囲内の水量で使うものを常用洪水吐(じょうようこうずいばき)、設計したときに設定した流量を超え、水がダムの上を乗り越えてあふれるのを防ぐために放流するものを非常用洪水吐(ひじょうようこうずいばき)と言う。古いダムだと常用と非常用を兼ねているところもあり、また、そもそも洪水を防ぐ役割がない発電用などのダムは常用の装備がなく非常用だけ、というところもある。 10月下旬に台風が来た翌日、ダムに行ったら放流していた。これは岐阜県の丸山ダム
こちらは大雨で洪水調節真っ最中の神奈川県の宮ヶ瀬ダム
上の写真で、丸山ダムはダムのいちばん上に常用と非常用を兼ねた水門が5門並んでいる。ダムは通常下流に流して良い放流量が決まっていて、その数字以下であれば常用、それ以上放流するときは非常用となるのだ。
宮ヶ瀬ダムは常用と非常用が分かれていて、放流している鼻の穴のようなところが常用、いちばん上の3つ開いた大きな口が非常用だ。通常は鼻の穴しか使わないけれど、万がいち設計時の予測を大きく超える大雨が降って上流から大量の水が流れてきて、常用洪水吐で放流しても追いつかず貯水池の水位がどんどん上がってしまった場合は上の3つの口から放流される。ダム好きとしてはそれも見てみたいけれど、そんな事態は起きてほしくないという微妙な心境だ。 やはり台風のあとで放流していた岐阜県の大井ダム
この大井ダムは目的が発電専用で洪水を調節する役割がない。そのため台風などで大雨が降ると、上流から流れてきた水量のうち発電に使う量以上の分はダムの上にズラリとならんだ非常用洪水吐から放流する、迫力のある光景が比較的よく観られるのだ。
発電用といえば、高さ日本一で有名な黒部ダムにも非常用洪水吐がある。 ダムに興味なくてもホントすごいのでぜひいちど行ってください
黒部ダムの真ん中へんから水が噴き出しているのは、下流の川が枯れないように流しているもので洪水吐とは役割が違う。黒部ダムの洪水吐は、本体のいちばん上にたくさん並んだ穴である。貯水池の水位がこの穴の下端より高くなったら自動的にあふれ出す、超巨大ダムに似合わずシンプルな仕組みだ。
下の水が噴き出しているところではなく上の穴が洪水吐
遊覧船に乗って貯水池側から眺めるとよく分かる
ふだんは下流の川が枯れないように放流しているほか、貯水池から発電所を経由して下流に流しているので洪水吐が使われることはほとんどないけれど、過去に何度か貯水池の水位が上がって非常用洪水吐から流れ出たことがあるという。高さ186m、日本でもちょっとほかにない大瀑布である。これはいつかこの目で見てみたいものだ。
というわけで、ネットメディアでこれまでにないほど詳しくダムの洪水吐について解説した。けれど果たしてどのくらい理解してもらえただろうか。ダムは巨大すぎるし、洪水と言われてもピンと来ないかも知れない。もっと身近なもので説明できないだろうか。 と思っていたところ、規模や形はどうあれ、洪水吐はダム以外でも見かけるのではないか、と気づいたのだ。 というわけで本題はここからである。
|
|
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |