【ベルリン=石川潤】3党連立協議が決裂したドイツで、メルケル首相が率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と第2党、ドイツ社会民主党(SPD)が、再選挙を公言して神経戦を繰り広げている。大連立を探る動きもあるが、ともに「再選挙辞さず」の構えを崩さない。シュタインマイヤー大統領は23日にSPDのシュルツ党首と会談。連立協議入りを要請したとみられるが、先行きはなお混沌としている。
シュタインマイヤー氏はシュルツ氏との会談で、再選挙の回避に努めるよう呼びかけたとみられる。同氏は「責任を安易に有権者に投げかえすことはできない」という立場で、各党に連立協議に取り組むように求めてきた。シュルツ氏は大統領との会談後、党幹部と対応を協議する。
9月の連邦議会選挙後、CDU・CSUは自由民主党(FDP)、緑の党との3党連立を目指したが、19日に決裂した。どの党とも連立を組めなければ、メルケル氏にはCDU・CSUを軸にした少数与党政権か再選挙しか選択肢はなくなる。
カギを握るのが第2党SPDだ。これまでCDU・CSUと大連立を組んできたが、9月の選挙での大敗をきっかけに、下野して党勢の復活をはかるとの考えに傾いている。シュルツ党首は20日の記者会見で「大連立はあり得ない」と改めて表明し、再選挙の実施もいとわない姿勢を示した。
だがSPD内の保守派や一部幹部からは、再選挙に否定的な意見も相次いでいる。調査機関のインフラテスト・ディマップによると、3党連立協議決裂後の各党の支持率はCDU・CSUが32%、SPDが22%で、9月の選挙の得票率とほとんど変わらない。再選挙を実施しても情勢が大きく変わる見通しはない。
SPD内にはCDU・CSUによる少数与党政権を容認すべきだとの声もある。メルケル氏が少数与党で政権運営に苦労すれば、4年後の選挙でSPDが有利になるとの思惑があるようだ。
大連立を繰り返し否定してきたシュルツ氏が、大統領の説得に直ちに応じるとみる向きは少ない。ただ、選挙で大敗したシュルツ氏の党内基盤は盤石とはいえない。党内で再選挙回避の声が高まれば、方針が覆る可能性もある。
メルケル首相は公共放送ARDのインタビューで、連立協議が成立しなかった場合、少数与党政権よりも再選挙の実施が望ましいという考えを示した。
だがメルケル氏の本音はSPDとの大連立による政権の安定とみられる。二大政党が歩み寄れなければ再選挙は避けがたく、極右「ドイツのための選択肢(AfD)」が党勢を拡大する可能性がある。そうなればドイツや欧州の政治が停滞するリスクが高まる。