フランス人が驚く日本人の英語への「恐怖感」
社会的なプレッシャーがすごすぎないか
日本に暮らしはじめて3年目、日本の観光地を巡ろうと旅に出た。現地に着き、観光案内所で話を聞こうと係員に近づいた。ところが、私の顔を見た瞬間、係員は困った表情で「どうしよう、英語話せない」と隣のスタッフにささやいた。そして、私がまだ一言も話していないのに、「ソーリー・ノー・イングリッシュ」と伝えてきた。
初めて日本を旅したのは20歳の頃。そのときの私は日本語力も高くなかったから、英語で一生懸命に返事をしてくれる日本人の気遣いがうれしかった。しかし、日本での生活も3年を過ぎると、顔だけで「英語」で返される状況に、ストレスを感じるようになっていた。同時に、いつになっても「外の人」なのかと思い知らされた。
フランス人は「日本人は英語ペラペラ」だと思っている
ストレスがピークに達したとき、こらえきれず「英語はしゃべれないよ! 私はフランス語しかしゃべらないフランス人なんだから」と言い放ったことがある。日本人からすると「フランス人はやっぱり英語嫌いなのか」と思ったに違いない。そのような体験を重ねていくうちに、次第に「顔差別は仕方ない」と思うようになった。最後は戦うのをあきらめ、笑ってさっと受け流せるようになった。
しかし、どうしても心にひっかかることが1つあった。それは、日本人はなぜあんなにも、「英語をしゃべらなければならない」と自らにプレッシャーをかけるのか、ということだ。日本では英語以外の外国語はまるで存在しないかのような風潮があり、フランス人の私を悲しくさせた。「フランス語はしゃべれない」と恥ずかしがる日本人は誰もいなかったが、英語だけは、まるで国民レベルの強大なコンプレックスが存在し、それは日本でしか感じたことがない体験だった。
実際に、日本の書店に行くと、「日本人が英語を話せない理由」「英語を必ず話せるようになるマジックルール」「英語がへたくそな日本人」というようなタイトルの本をしょっちゅう見かけた。また、友達から高校の先生まで、出会う人みんなから「英語さえ話せたらな」とか「フランス語も勉強してみたいが、まずは英語をどうにかしないと」といった相談を飽きるほど、何度も受けた。
実は、多くのフランス人は、「日本人はみんな英語がペラペラだ」と思い込んでいる。理由ははっきりしないが、1つの推測として、日本の商品やアニメやゲームに英語がよく出てくることが挙げられる。たとえば「SONY」の商品はフランスでもよく知られているが、ブランドの名前も英語風だ。また、海外版の商品のパッケージや説明書も英語で書かれている。
日本のアニメやゲームなどを見ていると 、ローマ字や英語で書かれた店の看板の絵がよく登場するし、野球や、学校の制服なども、どことなくアメリカ文化の影響を受けているような気がする。いろいろな要因が重なって、日本人は英語が話せると思ってしまうのかもしれない。