半年くらい前、ある作家さんの手作りのネックレスに一目惚れした。
何の気無しにネットサーフィンをしていて、たまたまその作家さんのホームページに載っていたそのネックレスに釘付けになった。
普段は装飾品なんて滅多に着けない自分だが、なんとなくこれを着けている姿が想像できた。
すぐに手に入れたかったけど実店舗は持っていないようで、ある程度作り置きができたらいくつかの雑貨屋に置いてもらったり、たまに開く展示会で販売したりといった形でしか流通していないようだった。
作家さんのホームページやTwitterを覗いて販売情報を確認すること1ヶ月、2ヶ月。中々更新されない。
3ヶ月近く経ったある日、彼女に「最近◯◯って人の〜〜ってネックレスが欲しいんだけど全然売ってないんだよね」と話した。
普段あまり物欲がない自分がそんな事を言ったもんだから彼女も気にかけてくれたようで、それ以来たまに更新情報を見つけると教えてくれるようになった。
今月の始め、彼女がその作家さんの展示会の案内を見つけ、月末に都内でやるみたいだから一緒に行こうよと誘ってくれた。
ようやくあのネックレスが買えるかもしれないという期待が膨らみ、展示会を教えてくれた彼女をなんて良い子なんだと抱きしめた。
こじんまりとした会場には、その作家さんの定番の作品や新作が少しずつ何種類か展示してあって、その中には自分が待ち望んでいたあのネックレスもあった。
見た瞬間、嬉しさのあまり心臓が不整脈気味になるのが分かって、でも静かで落ち着いた展示会の雰囲気を壊してはいけないと思って飛び出しそうになったリアクションをなんとか抑えた。
そのネックレスは一部に本物の植物を使っていて、並べてあった物は同じように見えるけどどれもちょっとずつ違ってじっくり時間をかけてひとつ選んだ。
彼女はその間他の作品を見ていて、自分が選び終わってレジに向かうのに気づくと近づいてきて「私もひとつ買うよ、お揃いにしよ?」と言った。
「え?」
その言葉を聞いた瞬間、ネックレスや彼女に対する気持ちがすーっと冷めてしまった。
多分彼女は単純にそのネックレスを気に入ったんだと思うし、お揃いで一緒に着けて出かけたら楽しそうだなって思ってくれたんだと思う。
でも約半年も前からずっとずっとそれが欲しくて探し続けていた自分にとっては、横からきた人に楽しみにしていたものを取られたような気持ちになってしまった。
これは自分の想像というか、今までの経験からの推測になってしまうが、多分彼女はこのネックレスではなくても、例えば隣の雑貨屋で売ってるネックレスでもお揃いなら同じように喜んでいたと思う。
彼女にとっては「その作家さんが作ったこのネックレス」よりも、「お揃いのものを買う」ということの価値の方が高いように感じた。
結局会場ではその事を伝えられず、今自分と彼女はお揃いのネックレスをひとつずつ持っている。
多分この先自分がこのネックレスを心から喜んで首に通す事はないと思う。
あんなに欲しくて欲しくて仕方がなかったはずなのに、買ったまま箱を開けてもいない。
彼女からは「今日はありがとう!**がずっと欲しがってたネックレス一緒に買えてよかった!!」とLINEがきた。
違うよ、それは違う。全く違う。
あなたにとってはお揃いの物が買えた楽しい日だったかもしれないが、僕にとっては最低な日だった。
でもそれを直接彼女に伝える勇気も意欲も無くて、こんなところで愚痴ってる。