供給不足の米セキュリティー人材、離職率も高かった

コラム(テクノロジー)
2017/11/23 6:30
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VentureBeat

 サイバーセキュリティー分野の人材の需要は非常に高く、業界は2022年までに200万人弱の人材不足に見舞われる可能性がある。サイバー攻撃が増えていることを考えれば、これは懸念すべき事態だ。だが、さらに心配なことがある。サイバーセキュリティー分野で働く人材を、維持すること自体が難しいということが、筆者が最近実施した調査で明らかになったのだ。方向性の欠如、燃え尽き症候群、差別やハラスメントといった好ましくない文化により、大量の人材が業界を去っている。

優秀なサイバーセキュリティー担当者が、突然離職してしまうかもしれない(写真:dotshock/Shutterstock)

優秀なサイバーセキュリティー担当者が、突然離職してしまうかもしれない(写真:dotshock/Shutterstock)

 講習や教育で供給ルートを築くのも大事だが、この分野に足を踏み入れた専門人材を慰留しておかなければ、こうした努力は水の泡になる。

 調査は8~9月に約300人のセキュリティー専門人材を対象に実施した。この分野の経験が5年を超える人が4分の3を占め、11年超の人も35%に上った。対象者の回答から、明確なキャリアパスの欠如、ストレスと燃え尽き症候群、業界全体の文化を変える必要性という、人材維持に大きな影響を与える3つの重要な要素が浮き彫りになった。こうした問題に手を打たなければ、どれほど人材を供給し続けても、人材不足は深刻化するばかりだ。

■将来性のないキャリア

 前職を辞めた理由として進歩や成長がないと答えた人は半数以上に達し、業界自体を去った理由としてこの点を挙げた人は20%近くに上った。企業はセキュリティー専門人材に対し、もっと明確なキャリアパスや進歩の機会を与えなくてはならない。同じような傾向は、米情報システムセキュリティ協会(ISSA)による16年の研究結果でも明らかになった。この調査では、明確なキャリアパスがないとの回答は65%に上った。

■燃え尽きやすさ

 燃え尽き症候群(32%)やストレス(28%)も離職の主な理由に挙がった。業界を移ろうと考えている人の間ではこの比率はさらに高く、それぞれ40%、30%だった。ワークライフバランスが悪いとの回答が28%に上ることが、こうした数値が高い一因といえる。

■好ましくない文化

 サイバーセキュリティーはイメージの問題も抱えている。回答者の多くはテレビや映画からイメージするパーカーを着た10代の子どもではなく、31~40歳の大人だった。

 さらに、一部の有害な文化が極めて深刻な事態をもたらす恐れがある。女性回答者のうち、専門家カンファレンスで何らかのレベルの差別を受けたことがあると答えた人は85%、何らかのレベルのハラスメントを受けた人は半数以上に上った。男性ではカンファレンスで差別を感じたことがある人は36%、ハラスメントを受けた人は31%だった。この点に注意し、ハラスメント対策を講じたカンファレンスは増えているが、IT(情報技術)やセキュリティー業界をあらゆる人にとって安全で開かれた環境にするには、さらなる対策が必要だ。

■解決策

 セキュリティーという任務の重要性と人材が不足している点を考えると、業界は人材維持を最優先課題にすべきだ。社会の仕組みを変えるのは簡単ではない。だが、構造的要因に対処し、熱心な策を講じれば、高スキルの専門人材が長期にわたり有意義なキャリアを築きたいと思える分野にできる。

 さらに、企業は燃え尽き症候群に対処し、キャリアの長期的な進展や成長に対応する方針を打ち出さなくてはならない。リーダーは明確な昇進制度を提供し、セキュリティー専門職の仕事を尊重し、一般職と結びついた包括的な文化を育むべきだ。これには社員の休憩時間の確保や、リフレッシュのためにキーボードの前から離れる時間を促すなど、燃え尽きを防ぐ健康的な環境の整備も含まれる。

 さらに、企業にとって大事な点をもっと正確に表現するといったささいなことが、変化を促す可能性がある。調査では、大事な点がしっかり表現されていると感じている人はわずか6%だった。同様に、企業の「ロゴ入りグッズ」にも一定の文化が表れることが多い。社員全員に適したサイズやタイプの服を用意すべきだ。さらに、「行楽」は酒席だけではなく、活動や機能を軸に展開すべきだ。

 結局のところ、会社の方針を決め、職場環境をつくり、企業文化を形成する社会的活動や価値観をサポートする責任はリーダーにある。

 彼らは模範を示し、率先して行動しなくてはならない。IT企業の最高経営責任者(CEO)が状況判断を誤り、不祥事を起こす例が相次いでいるが、これは往々にして自らが育んだ企業文化のなれの果てだ。これに対し、包括的で革新的な文化を掲げる強いリーダーシップは宣伝効果があるだけでなく、対照的な結果を生む。サイバーセキュリティー業界は企業文化、特に差別撤廃やダイバーシティについてはIT業界ほど声を上げてこなかった。こうした状況は変わり始めているが、まだ道のりは長い。

 こうした変化だけでは、サイバーセキュリティー業界の人材慰留の問題は解決しないだろう。リーダーは公私を問わず様々な場で、差別撤廃の重要性や燃え尽き症候群への対応について発言し、変化を促すべきだ。変化に拍車をかけるため、ベテランの専門人材が社内やソーシャルメディア、カンファレンスなどに積極的に関与し、熱意を示すことも必要だ。既に取り組んでいる人も多いが、この機運をさらに高めなくてはならない。

 サイバーセキュリティーという仕事は経済や国の安全保障、企業にとって極めて重要なため、回避できる問題のせいで優秀な人材を失うわけにはいかない。幸い、これはセキュリティー専門職にうってつけで、業界の強みでもある任務だ。業界一丸となって専門職の待遇改善に取り組めば、今の時代で最も重要で、ダイナミックで、影響力も大きい問題に対処できる上に、長期的でやりがいがあり、満足感も高いキャリアに優秀な人材を送り込めるようになる。

By Andrea Little Limbago(米セキュリティー会社エンドゲームの主任社会科学者)

(最新テクノロジーを扱う米国のオンラインメディア「ベンチャービート」から転載)

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