筆者は、2006年3月以降の量的緩和・ゼロ金利政策解除については、そのタイミングはいささか早く、その時点で実施を急ぐ必要はなかったのではないかと考えている(当時もそのように主張していた)。ただし、当時の量的緩和・ゼロ金利政策の解除自体が、直接的に日本のデフレを深化させたとも考えていない。
ただ、性急に量的緩和・ゼロ金利政策解除に動いたことが、後のリーマンショック時の再緩和(もしくは再リフレ)の遅れに影響を及ぼしたのではないかとも思っており、その点は金融政策の致命的な失敗であったと考えている。
筆者の記憶では、政府・日銀はリーマンショック時の対応について、「失敗であった」という認識を持っていないと思われるので、もし、次に同様のショックが発生した場合、また同様の失敗をしてしまう懸念がある。逆に日本経済の現状を考えた場合、出口政策を急がねばならないリスク要因は存在しないので、しつこいようだが、拙速な出口政策は禁物である。
ところで、現在、日経平均株価は、2万2500円を上回る水準で推移している。2006年から2007年にかけての日経平均株価の水準は、1万8000円前後であったので、株価は当時の水準を抜いている。だが、実体経済の状況を総合的に判断すると、残念ながら、まだ2006年から2007年にかけての状況を超えてはいないのではないかと考える。
いいところまでキャッチアップしてきているのは事実であるが、やや物足りない感じである。株価と実体経済を直接比較するのはナンセンスとはいえ、経済状況から考えると、現在の日本の株価は「バブル」というほどではないにせよ、やや割高であるようにも思える。
以上のように、日本経済の実態がいまひとつである最大の理由は家計消費の低迷である。以前の当コラムでも指摘したが、日本の家計消費は、2014年4月の消費税率引き上げ以降、「2つの意味」で低迷している。
図表1は、1994年以降のGDP統計の実質消費支出の「水準」の推移を示したものである(ただし、対数表示にしている)。
「2つの意味で停滞」しているという意味は、1) 消費「水準」が、消費税率引き上げ前のトレンド(図表中の③)の延長線上に戻っていないこと、2) 消費の拡大パターン(図表中の④の角度)が、それ以前の消費の拡大パターンを下回っていること、の2つを意味している。
これは、消費税率引き上げ前に圧倒的大多数のエコノミストが主張していた、「消費税率引き上げ後の消費水準の落ち込みは、その前の『駆け込み需要』の反動によるものであり、それはある期間が経過するとリバウンドするはずだ」という見方と、「恒久的な増税となる消費税率引き上げによって消費の水準が下方修正されたとしても消費の拡大ペースは変わらない」という見方が、いずれも外れたことを意味する。
この家計消費の低迷を業者側(供給側)の統計でみたのが図表2である。
この表では、家計消費を非選択型個人サービス(電力・ガス、保健・医療、教育などの義務的支出)と嗜好型個人サービス(外食、娯楽などの余暇関連の支出)に分類している。図から明らかなように、2014年4月の消費税率引き上げによって、嗜好型個人サービスの支出が大きく落ち込み、その後の回復も鈍いことがわかる。
しかも、嗜好型個人サービスは、2016年終盤から2017年前半にかけて比較的大きく上昇したものの、2017年半ば以降、再び低迷している。
このような家計消費の低迷の原因を考えるときに、多くの人が真っ先に思いつくのが、賃金上昇が十分ではないということだろう。だが、GDPベースでみた国民全体の給与総額である「雇用者報酬」の推移をみると(図表3)、実質(インフレ率で割り引いた)、名目とも、2015年半ば以降、上昇ピッチを高めている。
名目でみた雇用者報酬は、2006年から2007年の水準を超え、2000年の水準に近づきつつある。従って、賃金上昇が不十分、もしくは消費税率引き上げによる実質所得の低下が消費低迷をもたらしているわけではないと考える。これは、総務省の「家計調査」の消費と可処分所得のデータを用いて両者の関係をみた場合にも当てはまる。
2014年4月の消費税率引き上げ前までは、可処分所得と消費支出の間には正の相関関係がみられた(すなわち、可処分所得の減少は消費支出の減少をもたらす)。だが、消費税率引き上げ後は無相関になっている。