電車が定刻より20秒早く出発し、乗り遅れた客がいなかったとしても、鉄道会社は謝るべきか。東京・秋葉原と茨城県つくば市を結ぶ「つくばエクスプレス」の南流山駅で14日に起きた出来事だ
▼会社がホームページに出した謝罪文は「定刻9時44分40秒のところ、時刻を十分に確認しないまま、9時44分20秒に発車してしまった」とし、「お客さまには大変ご迷惑をおかけし、深くおわび申し上げます」
▼クレームがなくとも事実を公表してわびる「誠実さ」と取るか、運休や遅延でもないのにわざわざ謝る「過剰さ」と取るか。時刻表は「9時44分」としか書かれておらず、たとえ乗り遅れても4分後に後続の電車が来た
▼対応ぶりは海外メディアでも反響を呼んだ。律義な日本人が称賛される一方、時間厳守が2005年の尼崎JR脱線事故のような悲劇を生みかねないとする指摘もあった。あの事故は、運転士が1分半の遅れを取り戻そうとしたことが一因だった
▼会社側によると、謝罪は「20秒」という時間ではなく、乗務員による確認作業の怠慢に対して、という。悪質クレームが社会問題化する昨今、消費者が事業者に求める謝罪の水準は高くなりつつあるとされる
▼「顧客至上主義」の行き着く先が、わずかな落ち度も許さない不寛容さなら、息苦しい社会でしかない。(西江昭吾)