その劣悪さで世界最悪と言われる日本のラッシュアワー。ただでさえ高い通勤者のストレスを一段と高めるのが列車の遅延だ。信号の故障など鉄道会社に非があるケースもある一方で、喧嘩や飛び込み自殺など利用者が原因となって起きる遅延も少なくない。
人それぞれ事情があるのは事実。だが鉄道会社に対してはもちろん、何の落ち度もない多くの人々に迷惑をかける遅延行為が、決して褒められる行為ではないのもまた明らかだ。大事な商談や受験など重要な局面が台無しになり、人生を狂わされる人も出かねない。
そんな事態を防ぐ抑止効果になってきたと思われるのが、昔からネット上などで囁かれて来た「列車を大きく遅延させると、鉄道会社から億単位の莫大な賠償金が本人や遺族に請求される」という噂だ。あれは都市伝説なのか、それとも真実なのか。専門家に聞いた。
聞き手は鈴木信行
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結論からお聞きします。ラッシュの時にトラブルを起こして電車を大きく遅延させると、本人あるいは親族が鉄道会社から巨額の賠償金を請求される、というのは本当なんでしょうか。
佐藤:私も弁護士になって随分たちますが、10年ほど前までその答えを知りませんでした。都市伝説なのか真実なのか、皆さんと同じように疑問に思っていたんです。実情を知ったのは、1991年に発生した信楽高原鉄道列車衝突事故の遺族側の代理人となったことを機に、鉄道事故裁判という分野に本格的に関わるようになってからです。
連日起きる顧客トラブル。弊社女性社員もあわや流血
2005年のJR西日本福知山脱線事故の遺族側の代理人も務められています。
佐藤:鉄道事故を扱うには、まずは鉄道事故訴訟の実情を知ることが必要だという話になって、ある時、大阪の裁判所に調査に行ったんです。裁判所に行けば、どんな訴状を受理したのかや、原告や被告、事件番号などが載った一覧表が見られるんですよ。それを見ていくと、少なくとも私が確認した一定期間、地元のJR西日本が原告になった裁判は一件もありませんでした。
一件も?
佐藤:そう、これはとても不思議なことです。というのもJR西日本管内では少なくとも1週間に1度くらいは大きな遅延が起きているはずだからです。首都圏だったらほぼ毎日のように、遅延を伴う電車トラブルがありませんか。
あると思います。先日も、弊社女性社員が千代田線の女性専用車両で、雨の日にOLと女子高生が傘のしずくが当たった当たらないで口論になり互いに傘を振り回し、その巻き添えで傘が無関係の彼女の頭部に振り下ろされる、という事案に遭遇しました。遅延までは至らなかったとのことですが、「女性専用車両は男性の目がない分、女性同士の小競り合いが想像以上に多く、なるべく乗りたくない」と申しています。
佐藤:それだけ様々な顧客トラブルが起きているにもかかわらず、関西圏で長期間、鉄道会社が原告になった裁判がないということは、鉄道会社は電車を遅延させた本人あるいは親族に対して裁判をほぼ起こしていない、ということだと私は解釈しています。私の知る限り、鉄道会社による裁判は、2016年に鉄道会社側の敗訴が確定した「JR東海認知症事故訴訟」のみです。
愛知県で認知症男性が徘徊中に電車にはねられ死亡し、鉄道会社が家族に賠償請求した事件ですよね。
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