オランダの子供向けニュース番組「NOS Jeugdjournaal」を夫と娘の3人で朝食を頬張りながら、眺めていたある朝。小学校で高学年とおぼしき子どもたちが、第二次性徴などに関する自由研究を発表しているニュースが流れ始めた。と、ここまでは何の感慨もなく見ていたのだが、なんとコーナーの後半に子供たちが模造ペニスにコンドームを付ける映像が流れたのだ!
その実際の映像がこれである。
途端に筆者と夫はフリーズしてしまった。この時、娘は7歳。いや、「絶対に娘に見せたくない!!」とかそういったことではないのだが、今まで性教育らしきものをほとんどせずにきてしまっていたので、いきなり「ペニスにコンドーム」というラスボス的強者が表れてしまい、二の句が継げなくなってしまったのだ。
幸い(?)我々の毛穴から噴き出す異様な空気を察知したのか、当の娘もそのコーナー映像には特に言及せずに、その場はやり過ごせた。
我々はスコットランドからオランダに移り住んで2年になる。思い返してみると、オランダに来てからこういったことは以前にも経験していた。
例えばアムステルダムにある、子供が大好きな科学博物館「NEMO」にも、ティーン向けの性教育コーナーがある。外部から中が見えないブース状になっているのだが、外からでもセクシャルな雰囲気は感じ取れる。いつも、娘が「入りたい」と言い出さないようにその前をそそくさと通り過ぎていた。
娘も先日9歳の誕生日を迎えた。あのコンドームの動画の女の子は、初等教育の8年生(日本でいう小学6年生)だというので11歳くらいか。どうやら筆者も、母として性教育に向き合う時が来ているようだ――。
こうして改めてオランダの性教育事情を調べてみると、そこには日本の「保健体育」とはかけ離れたものがあった。
オランダは「子供への性教育スタートが早い国」としても知られている。早い学校では、初等教育の始まる4歳から初期の性教育を開始するところもあるのだ。
ただし、「性教育」といってもいきなり避妊や性行為のような踏み込んだ内容を教えるのではなく、その前提となる「愛情の大切さ」「自分の意思の伝え方」「他人の気持ちの尊重」といった「他者とのかかわり」から学び始めることが多いようだ。
では幼児たちにはどんな「性教育」を施しているのだろう。筆者が感心した4歳、5歳児にむけた性教育の様子がある。リンクを貼っている動画の4分20秒あたりから始まる一連のくだりは、以下のような流れだ。
「良く知らないおばさんが訪ねてきて、あなたに(あいさつの)キスをしたいと言っています。そんな時どうしますか?」という状況設定で、教師が小さな男児とロールプレイを試みる。そして男児はしっかりと「キスはいやだ」「でも握手ならいいよ」と自分の望まない形での肉体的接触を拒否する。
そういったやり取りを通じ、子供たちは肉体的接触について「自分の意思を述べて良い」「自分の意思を通す権利がある」ということを学ぶのだ。見ている我々も、こういう小さな意思決定・意思表示の積み重ねが、将来の不本意な性体験を回避する訓練になっているのだなと感じ取れる。つまりオランダの初期性教育は、同時に人権教育でもあると言える。