「凛として時雨」のドラマー、ピエール中野が、熱めのアイドルヲタクなことをご存知だろうか。アイドルを愛し尊敬する彼が、テレビを中心に活躍する現代アイドルの素晴らしさを、独自の目線で熱弁する。
- Author:
- 今尾直樹
ハマったきっかけはやっぱり女性アイドルからですか?
「最初はSMAPです。小学校5年のときにCDを初めて買ったのがSMAPの「心の鏡」というシングルで、子どもながらにすごくいい曲だなと思っていて、それからずっと好きです。みんな好きでしたけど、当時はやっぱ木村拓哉ってすごかったですよね。アイコンだったし、存在感が異常で、ずば抜けてかっこいいと思ってました」
木村さんから影響を受けた部分はありますか?
「影響の受けようがない(笑)。すごい人、殿上人、スーパースター。まだ、バンドマンのほうがマネしたいと思えました。バンドマンはなんとなく夢が近いじゃないですか、努力しておけば……みたいなのがあるけれど。中居(正広)さんの司会進行の素晴らしさとか、テレビに出るときのスタンスとか、やっぱトッププロはすごいな、という刺激はいまでもものすごく受けますけど。特にジャニーズ系はプロ意識が高い。努力するのが当たり前、普通そうじゃないの、というレベルの、すごい世界にずーっと身を置いている」
SMAP以降、好きになったアイドルは?
「僕の場合はPerfume(パフューム)かな。パフュームはやっぱりギャップが面白かったですね。歌は特殊な加工がされてて、振りもダンスの切れ味もよくて、見た目も、実物を見たら滅茶苦茶かわいくて、曲もいい。挨拶も丁寧ですごくよかったんですけど、ことMCになったら一気にユルくなる。タオルが新品だったらしくて、『ぜんぜん汗吸わん』とか広島弁で話していて、だけどそういうMCの不完全なところが魅力になっている。そういう不完全さは外国のアイドルの方は許されなさそうだけど、日本はそういうところを楽しめる国民性もある」
ピエールさんは大人になってからパフュームを知ったから、大人として分析できる。
「そうですね。それと、パフュームの入り口が、彼女たちの作曲とアレンジをしている中田ヤスタカという人がやっているCAPSULE(カプセル)というクラブカルチャー寄りのグループがあるんですけど。そちらの音楽が元々好きで、その中田さんがアイドルグループの楽曲もやっているらしいと知って、聴いてみたら、こんな音を出すアイドルグループが出てきているんだとビックリして。ライブを見にいったら握手会システムを体験して、こういうシステムがあるんだ、と衝撃を受けて、アイドルカルチャーを知りたいと思ってハマっていったんです。ちなみに、パフュームは所属事務所がアミューズで、アミューズはキャンディーズのマネージャーだった大里(洋吉)会長が立ち上げたんです。大里会長がパフュームを平成のキャンディーズにしたかった、という有名な話があって、会長の思い入れも強いんで、アミューズからもものすごく推されている」
SMAP
1988年結成。自我を抑えて”役割”を演じるアイドルが台頭した80年代にアイドルのバラエティ出演という独自路線を確立。2016年に解散するも個々の活動はいまだ多くの注目を集めている。
アイドルにはスキがあるほうがいいということでしょうか。
「完成されていないほうがストーリーがどんどん積み重なっていくし、応援する側も思い入れが募っていくので、目が離せなくなるんですよ、単純に。パフュームも苦労人なんですよ、10年近く売れていなくて、ライブにも3、4人しか来ないということがざらにあった。動画にも残っているんですけど、ほかのアイドルに衣装すごいね、みたいな感じでいじられたりしてて……。あれは悔しかったろうと思う。でも、自分たちの信念、かっこいいことをやりたいという思いが彼女たちにはずっとあって、それを運営側にも伝えていたし、自分たちでも練習する時間をつくっていた。それが結果として、いまにつながっていくんです。信念をもっているから、人として魅力がある。やらされてやっているグループって、見ていてわかっちゃいますよね。ももいろクローバーZ(ももクロ)だってすごい。すごいのがいっぱい出てきている」
アイドルはやっぱり体育会系?
「そのほうが、見る側は思い入れが生まれますよね。売れているアイドルはみんな体育会系かヤンキーだと思います。精神的に壊れそうになっているアイドルとか、テレビを見ていると普通にいるじゃないですか。目が虚ろだけど、大丈夫なの、という人とか。最近有名なのは欅坂46の長濱ねるが、『欅坂46』と『けやき坂46』(註)と両方兼任している唯一のメンバーですけど、両方めちゃくちゃ忙しいから絶対ぶっ壊れるよな、と思っていたら、欅坂に専念しますという発表が急遽あって、そのあとに更新された彼女の公式ブログで、『再起不能になるところでした』という意味のことを普通に書いていて、ファンの人たちも事情がわかっているから、よかった、みたいになった。急に売れていったグループで、後ろについているのもソニーで、秋元(康)先生のところだから大きいし、ライブの規模も有明コロシアムから幕張メッセと、責任もどんどん重くなっていく。十代や二十代前半みたいな人たちが精神的にこないわけない。で、第一線のアイドルがそういうところでがんばっているんで、追いかけるアイドルグループはそれ以上のことを基本的にはやらないといけない。がんばっていない人って、応援しにくくなるんですよね。もっとがんばってほしい、となる。地下アイドルといわれている人たちにも、欅はマジすごい、となっている。あれを超えるために、あれと違う魅力をどうやって出したらいいんだとか、すごく考えて活動している」
最新最強のアイドルは欅坂46ですか。
「僕は欅坂だと思いますね。危うさも含めて」
AKB48と比べてどこが違うんですか。
「コンセプトがぜんぜん違う。欅坂は軍服をモチーフにした衣装を着ているし、振り付け師も同じ人で、1チームで、笑顔がない。普通、アイドルって笑顔じゃないですか。欅坂は笑顔なし、シリアスでメッセージ性を強くする。AKBは投票で順位が決まったりするけど、欅坂は基本、固定メンバーの21人、チームの結束を強くしてがんばっていこうと方向が違う。あと、AKBって、AKB自体も苦労人だったりするんですよ。3年ぐらいは泥水を飲んでいる。批判もされていたし、バカにされてもいた。それが軌道にのって、評価をされる。そしたら、それのカウンターのアイドルが必要だろうということで乃木坂46が立ち上がって、乃木坂もうまくいって、それに対するカウンターを、ということで欅坂は生まれている。どんどんカウンターカルチャーをつくって、全体が盛り上がっている」
(註)「欅坂46」とは異なるメンバーで構成された妹分的存在のグループ。欅坂が大人や社会に反抗する内容の楽曲が多いのに対し、思春期の女の子の世界観を主張した楽曲が多い。通称「ひらがなけやき」。ちなみに欅坂は「かんじけやき」と呼ばれる。
"信念をもっているから人として魅力がある。やらされてやっているグループって見ていてわかっちゃいますよね"
ベビメタはなぜ成功したかアイドル細分化、棲み分けが始まっている。
「ジャンルの縦割りが始まりました。パフュームの存在がそこでもでかい。圧倒的な楽曲のクオリティの高さを見せつけてきて、パフォーマンスもそうですけど、かっこいいテクノ系のアイドルが成立する。次にももクロが出てきて、とにかく体育会系でライブで全力を尽くす。ヒャダインさんという作家がものすごい。世代が一緒なんですよ、中田ヤスタカと。で、かなり特徴的な楽曲をつくる。そこからBABYMETAL、ベビメタにいくのかな。さくら学院という大きな母体があるんです。アミューズ所属の女子小中学生で結成されたアイドルグループですけど、中学卒業と同時にさくら学院も卒業というルールがあって、ファンのことは父兄と呼んでいるんですけど、子供を見守るみたいな感じです。卒業式がちゃんとあって、ひとりひとりにストーリーがあるから、泣ける。ベビメタってそのなかから生まれているんですよ、じつは」
へーえ。
「さくら学院のなかの部活動として、たとえばテクノ寄りの科学部があったり、そのなかのひとつでメタルの部活、重音部ができて、そこからベビーメタルが生まれた。メタルとかテクノって、もともとのファンが多かったりするので、そこで認められると爆発的に広がる。パフュームは中田さんがいるからカルチャー的に広まりやすかったというのがある。ベビメタはマネージメントのKOBAMETAL(コバメタル)という人が本当にメタル好きで、ボーカルの中元すず香の声は絶対にメタルに合っていると見抜いて、メタラーの要素を注ぎ込んでやったら、それはメタルファンには受けます。わかってるね、という認め方をされた。コバメタルがドラゴンフォースのメンバーにギターを依頼したんですけど、それも、いまのドラゴンフォースじゃなくて、初期の頃のギターソロが聴きたいんです、みたいな感じで弾いてもらっている。うまくいっているグループはアイドル自体もすごいけど、運営も思い入れとか愛情がある。支えている側のチームワーク、そのアイドルを一丸となって盛り上げていこうという空気がちゃんと出来上がっている」
なんでいまの子はアイドルになりたいんですか。
「やっぱり憧れじゃないですか。人前で歌いたいとか踊りたいとか。いまだったら欅坂の平手友梨奈がかっこいいとか、そういう人っていませんでしたか? 僕はX JAPANのYOSHIKIさんみたいになりたいと思って、でもあの人にはなれないからあの人がやってないことをいろいろとやっていこうと思って、結果、いまこんな感じになってアイドルについて語っているんですけど(笑)、やっぱり生きていたら憧れる人って現れるじゃないですか、ひとりぐらいは。作家さんでも野球選手でも、その人になりたいという思いからあとに続く人たちが現れる。あと、音楽、芸術って評価が曖昧な世界なんで、スポーツは勝ち負けで決まるけど、音楽って好き嫌いで評価していくんで、自分でもできるかも……と思いやすい。僕はアイドルが日本の音楽環境を確実に豊かにしていると思います」
テレビ朝日系の『関ジャム 完全燃SHOW』という日曜夜の音楽トーク番組にピエールさんも出演されています。
「あれ、アカデミックな音楽の授業で、関ジャニ∞が出ていなかったら、NHKでもむずかしいと言われるようなことをやっている。あれは関ジャニ∞のメンバーにとって一番メリットになっているというか、アイドルって、いまでこそなくなってきましたけど、やっぱり音楽的にはどこかしらなめられる。でも、実際はレベル高いし、すごく努力しているし、表に見せていない苦悩もある。それを番組を通して、ちゃんと勉強もしているし、日々成長している、ということを見せている。すごくいい番組をもったと思いましたし、それをつくった局側もすごい。ミュージックステーションと関ジャムとタモリ倶楽部は同じ山本たかおさんがプロデューサーをやっていて、あの人自身も音楽への愛がすごく深い」
アイドルとミュージシャンの違いはどこにあるんですか? アイドルというのは見られる訓練をしている人たち、ということでしょうか。
「いやもうつねに意識していますね。カメラが回っていないときでも、つねに。そのへん、TOKIOが本当にすごいですよ。本当に楽しませます。カメラが回っていないとき、ドッと笑いをつくって、カメラ回ります、となったらシリアスになって演奏をはじめる。その前まではブラックジョークでみんなをいじったりして」
彼らは訓練、努力してそういう技術を身につけた、ということですか。
「訓練というか、好きで。素質もありますし、先輩とかも見て、自分もこうありたいという指針になる人が必ずいるんですよ。ジャニーズだと、上の先輩がいっぱいいて面倒見がよかったりする。上下がつながっているんで、ああいうときはああいう振る舞いをしたほうがかっこよくない? とアドバイスしてくれる。かっこいいっすね、となって、どの世界でもそうじゃないですか、基本、ロックもファッションでも継承の文化なんで。そこから新しいものを生み出していく。それに対する意識が人一倍高いのがアイドルで、特にジャニーズはそれがしっかり出来上がっているということじゃないかと」
誌面が尽きてしまいました。つづきはまた別の機会にお願いします。
Perfume
アクターズスクール広島出身。ドキュメンタリー映画が製作されるほど、その背景に共感を抱くファンも多い。「恋ダンス」を振り付けたMIKIKOが振り付けを担当している。
モーニング娘。
シャ乱Q・つんく♂がプロデュース。当時ではめずらしい歌い分けを盛り込むなど本格的な楽曲によって、アイドル好きを公言することにためらいのあった90年代の人々を引き込んだ。
安室奈美恵
小室ファミリーの一員となる前からアーティストとしての地位を作り上げ、”かっこいいアイドル”の先駆けとして90年代を牽引。服装やメイクを真似する女子高生が続出し、社会現象ともなった。
ピエール中野
ドラマー
ロックファンから圧倒的な人気を集める、「凛として時雨」のドラマーとして活動するほか、(嵐を歌う)DJ、舞台音楽監修、コラム執筆にいたるまで、多彩な才能を発揮。最近では、アイドルヲタとしてテレビ出演することも増えている。