入園式が始まった。
直後、たけるが後ろを振り向いた。
その顔はもう、いっぱいいっぱい。
たけるは無我夢中でみんなに合わせて入場したけど、本当はもう限界を超えていました。
このままだと泣き始める。
どうする?
「絶対守る!」と言った前日の決意が試された瞬間でした。
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前回の記事(「入園式当日のこと」前編は→こちら)
初めてお読みになる方はこちらからどうぞ→『第一話 来年から幼稚園』
この物語のここまでのあらすじ
息子“たける”は、超がつく繊細で感受性の鋭い気質の持ち主。
入園の半年ほど前から「ママが一緒でなくては幼稚園に行かない」と言う、たけるの気質に合った集団生活への移行方法を考えてきた。
そこで「慣れるまではママが園に付き添う」という方法を取らせてもらうことに。
入園が迫る3月、パパの生い立ちの中の心の傷がうずいたことがきっかけとなり、ママは、同じように傷つきやすくトラウマを負いやすい気質のたけると子どもの頃のパパを守る!と決意し、入園式へ。
頑張って入場を終え、園児席に着席したたけるだったが・・・。
“たける”のように、繊細さや感受性の豊かさ鋭さ、敏感さを生まれ持つ気質の子のことを、HSC(Highly Sensitive Child)=人一倍敏感な子と言います。
HSCは一般に、集団に合わせることよりも、自分のペースで思案・行動することを好みます。これはその子の独自性が阻まれることを嫌がるほどの「強い個性」とも捉えられるのです。
また、HSCは些細な刺激を察知し、過剰に刺激を受けやすいせいもあって、家や慣れている人や場所では絶好調でも、新しい人や場所、人混みや騒がしい場所が極端に苦手なのです。
さらに他の子は問題なくできることを怖がったり、小さいことを気にしたりしがちですので、「内気」とか「引っ込み思案」とか「臆病」とか「神経質」などとネガティブな性格として捉えられ、「育てにくい子」として扱われてしまう傾向にあります。
これらはHSCの、微妙な刺激や変化を敏感に感知する繊細さ(先天的な気質)にあるのです。
5人に1人は、HSCに該当すると言われています。(*HSCはアメリカのエイレン・アーロン博士が提唱した概念です)
HSC・HSP(Highly Sensitive Person)の特徴
①刺激に対して敏感である。ちょっとした刺激でも感知してしまう。すぐにびっくりする。
②過剰に刺激を受けやすく、それに圧倒され、人より早く疲労を感じてしまう。新しいことや初対面の人、人の集まる場所や騒がしいところが苦手。誰かが怒鳴る声を耳にしたり、誰かが叱られているシーンを目にしたりするだけでつらい。慣れた環境や状況が変わるのを嫌がる。不快な状況や圧倒された状況にいると、冷静さを失いやすい。
③場の空気や人の気持ちを読み取る力『共感する能力』に秀でている。細かな配慮ができる。
④自分と他人との間を隔てる「境界」がとても薄く、他人の影響を受けやすい。他人のネガティブな気持ちや感情を受けやすい。
⑤直感力に優れている。漂っている空気や気配・雰囲気などで、素早くその意味や苦手な空間・人などを感じ取る。先のことまでわかってしまうことがある。物事の本質を見抜く力がある。物事を深く考える傾向にある。思慮深い。
⑥モラルや秩序を重視する。正義感が強い。不公平なことや、押しつけられることを嫌う。
⑦自分のペースで思案・行動することを好む。自分のペースでできた方がうまくいく。
⑧静かに遊ぶことを好む。集団より一人や少人数を好む。1対1や少人数で話をするほうがラク。大人数の前や中では、力が発揮されにくい。
⑨自己肯定感が育ちにくい。外向性を重要視する学校や社会の中で、敏感な気質ゆえに求められることを苦手に感じることが多く、人と比較したり、うまく行かなかったりした場合に自信を失いやすい。
⑩自分の気質に合わないことに対して、ストレス反応(様々な形での行動や症状としての反応)が出やすい。感受性が強すぎ、繊細すぎるために、学校や職場での環境や人間関係から強いストレスを感じてしまい、不適応を起こしやすい。人の些細な言葉や態度に傷つきやすく、小さな出来事でもトラウマとなりやすい。
その顔はもう、いっぱいいっぱい。
たけるは無我夢中でみんなに合わせて入場したけど、本当はもう限界を超えていました。
このままだと泣き始める。
私は反射的に(大丈夫!)って大きくうなづいた。
いっぱいいっぱいで泣き出しそうな顔を見て、私、逆にホッとしてる。
こういう場では、絶対に自分より周りに軸を置いてきた私の軸は、今、紛れもなく“たける”にしかない。
たけるは入場の時は固まった表情で指示通り歩くのに必死だった。
精一杯頑張って、その分精一杯無理してた。
もうそれだけで十分だよ。初めてなのに、苦手なのに立派だよ。
今はたける、我慢せずに救いを求めてる。母親に。
それでいい。
それが自然なんだ。
我慢しなくていい。
だってこれは、たけるが自分で望んで選んだことじゃないんだから!
次の瞬間、私の体が動き出した。
そしてスッとたけるの後ろにつき、背中をさすり続けた。
入園式に親が子どもに寄り添い背中をさする・・・なんてあり得ないよね。
そう思ったけど、私は私で無我夢中。
時々ふと気を緩めると、周りの目が気になる。
実際は誰も見ていないし、誰も何も思っていないかもしれない。
でも「甘やかしてる」「過保護」「あ~、それじゃいつまでも自立できないはず」といった声が頭に浮かんでくる。
その声は、私に植え付けられた世間体からくるものだろう。
世間体を振り切って軸をたけると自分に戻して思った。
なんでそんなこと気にするの!?
この状況で子どもの背中をさすって安心させるのは変?
いや、変じゃない。
そんな親がひとりくらい、いたっていいさ!
私は守るって決めたんだ。
今のたけるにはこれが必要なの!!!
どう思われようと、それはたけるを感じてきた私にしかわからないんだから!!!!
式の間中、私は背中をさすり続けた。
背中をさすっていても、たけるは時々辛そうな表情で振り向いた。
「次はチューリップを歌います。園児のみなさんは立ってください」
練習したチューリップ、たけるは誰よりも大きな声で一生懸命歌う。
ここがたけるの不思議なところ。
どうしてもダメなこと・苦手なこと・大丈夫なこと・自信を持ってやり遂げたいこと・・・それがはっきりしていてわかりやすい。
入園式は何とか終わった。
式の後、園生活に備えて、トイレの説明や着替えた服を畳む練習、お便り帳のやり方の練習もありました。
「たけるくん頑張ったね」
「先生、明日から私も付き添いさせてもらうこと、改めてよろしくお願いします」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
「ただいま~」
「お帰り!お疲れ様でした」
「私、守ったよ。ちゃんと守れたと思う」
「たけるを見たらわかる。ありがとう」
「うん、入場の時、たけるはママから離れて頑張ったんだよ。だけどその後すぐ限界きて心が折れかけそうなのがわかったし、たけるも振り返ってママに助けを求めたの。頑張って耐えてほしいって気持ちもやっぱりあったけど、ここで無理させたらきっとトラウマになるだろうし、幼稚園嫌いになるでしょ。私、やっぱり周りが気になったけど、背中をさすり続けられて、本当に良かった。
私ね、たけるとパパが正直すぎるおかげで自分の殻をひとつ破れたような気がする!」
「ママ、本当にありがとう(涙)。
たけるも、よくがんばった。ほんとによくがんばったね」
「ねぇ、これ早く食べたい!」
「あはは、紅白まんじゅうね。どうぞどうぞ」
たけるは元気。
たけると、子どもの頃のパパを守るという決意から一心にとった行動は、人からどう思われるかという「恐怖の殻」を破る、私のためのチャレンジでもあったのでした。
明日から園生活が始まります。
次回につづく・・・
(*この物語は、実話をもとにしていますが、個人名や団体名、エピソードの一部に変更を加え、事実と異なるところがあります。)
(*次回第14話は『寝る前に読み聞かせした「からすのぼうや」』の予定です)
ー著書紹介ー
~幼かったあの日の私を抱きしめに行こう。
本当の私(ママ)になるために。~
というキャッチコピーの本、『ママ、怒らないで。』を出版しています。