夫は無類の音楽好きです。私は、人並みには音楽が好きです。
人並みに音楽が好きって、わかりにくい表現ですね。
夫のように四六時中音楽を聴いているわけでもないし、新しく自分の好きな曲を開拓するパワーもありません。日中、昔から聴いている好きな曲を流して気持ちがよくなるくらいの音楽好きです。
世界を売った男
昨日、夫と音楽の話をしました。
「ねぇ。ギターソロでかっこいい曲、ある?」
「ニルヴァーナの世界を売った男はいいよね。」
「デヴィットボウイの曲?」
「そうそう。カバー。最高だよ。聞く?」
音楽を聴きながら、夫が少し興奮したように話し出します。
「ほら、ここ!わかる?ずれちゃってんのがいいんだよ。ワンフレット飛ばしちゃってんの、くぅ〜!」
?
フレットというのは、ギターの指板上に打ち込まれた棒状の金属のことです。
ナットに近いほうから1フレット、2フレット〜と呼びます。
どうやら、ニルヴァーナのカートコバーンはこの曲で、ひとつ隣のフレットをおさえるというミスをおかしているのだそうです。
夫は、カートコバーンのミスを最高だ!と言って聴いています。
「ううん。確かにノッている感はあるけど……ミスが、いいの?」
「そうそう。先にいっちゃってるんだよ。この後、カートコバーンは自殺しちゃうでしょ? もうこの時には世界を売ってしまってたんだよなぁ、ってさ。」
音楽に興奮しているときの夫は、一体何を言っているのかわかりません。
しつこい性格の私は
「え?これ、単なるミスじゃないの?世界を売っているってどういう意味?」
と、野暮なことを聞きたてます。
私にはなんだかよくわからないのだけれども、夫は音そのものだけでなくカートコバーンの背景も一緒に音楽として聴いているんだなというのはわかりました。
Nirvana - The Man Who Sold The World (MTV Unplugged)
カートコバーンがミスっている、素敵なところ(?)は2分48秒のところですよ。
奇しくも、カートコバーンは27クラブ(※)に入ってしましました。私の大好きなジム・モリソンと同じように。
※著名なミュージシャンの中には薬物やアルコールなどにより27歳で他界した人が多く、そのミュージシャンたちを27クラブと呼ぶことがあります。
ピンクムーン
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「なんだかよくわからない。」と夫に言い放った私ですが、考えてみるとその人の背景と一緒に音楽を楽しむということはよくあることのように思います。
例えば私の好きな曲、ニックドレイクの「ピンク・ムーン」。彼の遺作となったこの曲は、最高です。私は、この曲に彼が宿っていると思うのです。
初めて聴いた時は「陰鬱な曲だなぁ。あまり好きじゃないなぁ。」という感想を持ちました。若い頃はそれほどいいと思わなかった曲です。私自身が歳を重ねて、心地よく聞けるようになった曲ですが、この曲を好きになった理由は私の年齢のせいだけではありません。
彼が、生前は全く評価されなかったこと。この名曲を作る時には、ひどい鬱病を患っていたこと。彼の硬い意思で、一切のアレンジを加えられなかったこと。この曲が入った3rdアルバムが発表されてすぐ、彼が命を絶ったということ。
これらの背景を知ったからこそ、この曲にどっぷりハマったのだと思います。
私は、ニックドレイクの魂を想像し、その閉じられた世界を聴く感じが好きなんだと思います。
ミュージシャンの背景と共に楽しむ曲、というのは他にもたくさんありそうですね。
今、私の頭にも何曲か浮かんでいます。
今度、それらの曲を特集してこのブログに書いてみようかな。
おまけ
さっき、夫が「ピンクムーンはさ。ギターのチューニングが独特なんだよね。オープンチューニングなの。ちょっと待って、チューニングしてくる。」と行って、部屋にこもりました。ギターを弾きながら出てきた夫には、ニックドレイクが宿っていました!
ごめんなさい、嘘です。
でも、チューニングひとつでこんなにニックドレイクっぽくなるんだなぁと、感心しています。ギター弾ける人、ちょっと羨ましいな。