前回記事にいくつか気になるコメントを頂いているので、回答を兼ねて補足を書いておくことにする。
画像出典:https://twitter.com/guillotine_the/status/831748289712226304
まず、当時の呉は日本最大の軍港であり、海軍の勢力が強かったため、陸軍と海軍の対立関係から、(陸軍の)憲兵は海軍軍属の妻であるすずに対する扱いを甘くしたのではないか、というご指摘。
これについては、そうかもしれないし、そうではないかもしれない、としか言いようがない。
海軍との軋轢を避けるために大目に見る可能性もあれば、むしろこれを海軍側の失点として利用し、あえて大事にする可能性だってある。どういう結果になるかは憲兵隊の思惑次第、ということになるだろう。(陸軍側が「やんわりと」通告した結果、海軍内部で大事になる可能性も。)
また、もし本当に海軍軍属の妻だから大目に見た、というのが「裏のストーリー」であったのなら、すずは末端とはいえ海軍という強大な権力機構に連なる存在であり、一般庶民などではなかった、ということになる。実際、仮にすずが『はだしのゲン』の母親のような、下駄の絵付け職人の妻などであれば、到底あんな扱いでは済まなかったはずだ。
さらに、この話のリアリティ、という観点から言えば、海軍軍属の家に嫁いできた娘の趣味が「絵を描くこと」だという時点で、婚家の家族が最初にすずに叩き込む教訓は「絶対に港や軍艦を描くな!」だろう。すずが平然と軍艦をスケッチしている時点で既に話がおかしいのである。
次に、そもそもこの話はフィクションなのだから細かいことにいちいち目くじら立てても、というご指摘。
確かに、『この世界の片隅に』はフィクションである。むしろ、全体としてのストーリーがフィクションであるにもかかわらず、精緻なデティール描写のせいで、ここで描かれているような状況が戦時下の日本のリアルであったかのように見えてしまうことが問題なのだ。
日本の近現代史をよく知っていて、このようなフィクションをフィクションとして楽しめる人はいいだろうが、もはや大半の日本人はそうではない。
下のツイートが危惧するとおり、作品自体というよりその消費のされ方がヤバイのである。
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