2017年7-9月期のGDP統計の内容はあまり良くなかった。実質GDP成長率は、季節調整済みの前期比年率換算で+1.4%にとどまった。各メディアは、実質GDP成長率が7四半期連続でプラスであった点を強調していたが、GDP統計をみる限り、日本経済の回復は一進一退である。
実質GDP成長率がプラスに転じた2016年1-3月期以降の平均的成長率は年率で1.7%弱であった。これは、このところ回復ペースを早めてきた米国やユーロ圏の主要国と比較してもいかにもこころもとない数字である(ちなみに名目成長率で計算しても同期間の平均成長率は1.6%程度である)。
また、GDP統計の内訳をみると、純輸出(輸出マイナス輸入)の寄与度が2%となっており、内需はマイナス寄与となっている。内需では、設備投資は増加したものの、その他の項目は前期比で軒並み減少した。確かに公共投資要因の剥落など致し方ない部分もあったが、内需の回復は不十分で、日本経済が世界景気の回復にほぼ完全に依存している姿が浮き彫りとなった。
このような世界景気に完全に依存しながらの回復局面はリーマンショック前の2006年から2007年にかけての回復局面と似ている。当時も内需の回復がいまひとつの状態ながら、中国等の新興国経済の台頭や欧米の不動産ブームを背景に世界景気が好調で、日本経済は外需主導で回復していた。
2008年秋に発生したリーマンショックの際に、政府は、リーマンショックが日本経済に与える影響について、「蚊に刺された程度」と極めて軽微であるとの認識を示していた。だが、結果はむしろ、輸出の急激な減少により、他の先進諸国よりも大きな負の影響を受けた。
現状の日本経済で、世界景気に何らかの外部ショックが加わり、リーマンショックのような事態が発生した場合、日本経済はかなりのダメージを受け、デフレ圧力が再び高まるリスクがある。
そのようなリスクは、一種の「テールリスク」であり、あらかじめヘッジをかけておくことはできないが、当時の教訓の一つとしては、外需が好調であるからといってそれが長期的に続くという前提で経済政策を策定するのではなく、内需の回復を最優先にし、内需と外需のバランスをとるように心がけるべきではないかと考える。
そして、もう一つの教訓としては、このような経済の状況が中途半端な段階で、「デフレ脱却」という拙速な判断の下、安易な「出口政策」を行わないことではないかと考える。これは特に今後の金融政策を考える上で重要なことだと思われる。
リーマンショックが他国よりも深刻な影響を日本経済に及ぼした大きな理由は、その後の急激な円高によるものであった。そして、その円高をもたらしたのは、金融緩和政策への転換の遅れであったと考える。
リーマンショックに際し、中国を含む主要国はほぼ同時期に大幅な金融緩和を実施したが、その当時の日本は、リーマンショックの影響を甘く見ていたため、金融緩和をためらった。そして、それが大幅な円高を招き、外需だけではなく、内需の大幅な減速を誘発し、デフレが深化した。
金融緩和をためらった理由は、もちろん、リーマンショックの影響について、当時の政府・日銀が分析を致命的に誤ったためであったが、そこには、「せっかく量的緩和・ゼロ金利政策を解除し、金融政策を正常化させつつあったのに、ここでその動きを止めてしまってはこれまでの努力が水の泡になる」という「正常化バイアス」が働いたのではないかと考える。