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中日春秋(朝刊コラム)

中日春秋

 ビール瓶で殴る場合、空と中身の入った状態では、どちらが強力かを実験で調べたところ、ビール瓶は空の方が頑丈だと分かった。そんな物騒な法医学の研究が、「まず笑わせ、そして考えさせる」業績に贈られるイグ・ノーベル賞の「平和賞」に輝いたのは、二〇〇九年のことだ

▼身近な品がいかに危険な武器となるかを実証したことへの皮肉たっぷりの「平和賞」だが、この年の「数学賞」は、さらに皮肉が効いていた

▼贈られたのは、ジンバブエ中央銀行のゴノ総裁。授賞理由は「簡便かつ日常的な方法で人々に、ごく小さな数から巨大な数まで幅広い桁の数と慣れ親しませたため」

▼当時のジンバブエのインフレは猛烈で、紙幣はまたたく間に紙くず同然になった。中央銀行は高額紙幣を次々に発行し、ついには百兆ジンバブエ・ドル札まで登場したのだから、国民は翻弄(ほんろう)されるばかりだったろう

▼経済は混乱、生活は疲弊し切っているのに政治は変わらぬ。そういう状態への不満が噴出し、三十七年間ジンバブエを率いてきたムガベ大統領が辞任に追い込まれた。人々は通りに繰り出し、歓喜の声を上げているというが、今回政権を倒す大きな力となったのは、軍だ

▼クーデターの「味」を知ってしまった軍隊が、いかに危険か。ジンバブエの人々は、ムガベ退陣に「まず笑い、それから考え込む」ことになるのだろうか。

 

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