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現在、全国の劇場で『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』(以下、『クボ』)が公開中です。本作は批評サイトRotten Tomatoesで97%の満足度を獲得、アカデミー賞では長編アニメ映画賞と視覚効果賞にノミネートされ、世界中から絶賛で迎えられていました。
結論から申し上げれば、本作は日本人こそが大感動できる大傑作であり、2017年の映画の中でもNo.1の必見作であると断言します! ネタバレのない範囲で、その魅力を以下に紹介します!
1:ストップモーションアニメの最高峰! そこには尋常ではない努力があった!
本作『クボ』は『コララインとボタンの魔女』や『パラノーマン ブライス・ホローの謎』などで知られるスタジオライカが制作しています。
その作品の最大の特徴は“ストップモーションアニメ”であるということ。ストップモーションアニメとは、簡単に言えば「人形や小物をカメラで撮って、ちょっとだけ動かして、また撮影して、また動かして……」という、気が遠くなる作業を繰り返すことで作られるもの。完成のためには、想像を絶するほどの根気が必要なのです
本作『クボ』では、その凄まじさが“数字”として明確に表れています。もっともわかりやすいのは、「1週間で製作されるのは、実際の映画では平均でたったの3.31秒」ということでしょうか。
※メイキング映像
その他にも、総製作期間は94週、総作業時間は114万9015時間、主人公のクボの人形の数は30体、その表情に使われた顔は4800万通り(!)、使われた綿棒の数は17万7187本、“落ち葉の船”に使われたカラーペーパーの数は25万枚、そのシーンの撮影だけで19ヶ月を費やすなどなど……数字を見ただけで頭がクラクラしてきます。
もちろん、ただ労力をかけたというだけではありません。職人の手で作られた人形にはCGとは違った質感があり、時には実写顔負けのスペクタクルやアクション、この世とは思えないほどの幻想的な風景をも作り出しています。
何より、滑らかな動きと、表情豊かなキャラの魅力も相まって「アニメであることを忘れて、“そこにある”という実在感」をも得られるでしょう。スタッフの尋常でない技術の研鑽と努力は、これ以上ないと言うほどに実を結んでいるのです。
2:舞台は日本! 黒澤明や宮崎駿の影響もあった!
本作『クボ』のもう1つの大きな特徴は、舞台が日本であるということ。“三味線”や“折り紙”が作中で重要なモチーフとして登場するほか、衣装や建物が“古来の日本”を見事に再現しているのです。
監督のトラヴィス・ナイトは、自身が8歳のころに日本を訪れてからというもの訪日を重ね、日本の芸術や文化をこよなく愛してきたのだとか。『クボ』の製作にあたっては、衣服の“生地の折り重ね”などの日本文化を徹底してリサーチするのはもちろん、熟練の日本人アーティストを招いて監修してもらい、細部に至るまで妥協のない作品づくりをしたそうです。日本人から観ても、その風俗や世界観にまったく不自然さを感じることはない、というのは驚異的!
さらにトラヴィス監督は、黒澤明作品のカット割りや構成、宮崎駿の“魅了された文化を映像作品に落とし込む”取り組みにも影響を受けたと語っています。しかも、映画の冒頭のシーンは葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」を参考にしているほか、木版画家の斎藤清の作品も映画全体に大きな影響を与えていたのだとか……こうして、日本の芸術作品が随所に受け継がれているのが、『クボ』という作品なのです。
ちなみに、作中に登場する折り紙で出来た武士・ハンゾウは、本物の折り紙で作られており、その体長はわずか5cmだったのだそうです。「折り紙が生きているかのように動く」シーンも満載であるので、折り紙になじみのある日本人であれば、それだけでも感涙ものなのではないでしょうか。
3:日本の“死生観”や“わびさび”にもリスペクトがあった!
日本文化のリスペクトはそれだけではありません。物語上にて重要となる、日本の“死生観”などもしっかりと描かれています。
具体的には、劇中には“灯篭流し”が登場しています。それはお盆に行われる日本の伝統的な風習で、死者への言葉と添え物を、灯火をつけた入れ物といっしょに川に流すという行事。この日本独特の“死者が戻ってくる日(の行事)”にどういった意味があるのか……それは、映画を観終われば、きっとわかることでしょう。
また、神道の八百万の神が“自然のもの全てには神が宿っている”とされているように、日本では万物に霊魂や魂などが宿るという“アニミズム”の考え方があります。劇中の“猿のお守り”は、そのアニミズムが反映されていると言っていいでしょう。
さらに、日本の“わびさび”という美意識も製作の指針になったそうです。わびさびとは、儚さや不完全さを美しいものとする価値観。トラヴィス・ナイト監督によると、このわびさびは『クボ』という作品そのものだけでなく、スタジオライカのテーマでもあるのだとか。無情さや足りないものを美しいと感じる、完璧になろうと努力するけど人間らしさも内包する。それこそがライカの映画にはある、というのです。
4:誰もが楽しめる冒険活劇! キャラがすぐに大好きになる!
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これまでストップモーションアニメの技術や日本文化のことを語ってきましたが、本作『クボ』は難しいことを考えなくても「楽しい!」「面白い!」「イマジネーション豊かなアニメに圧倒される!」娯楽作であることを、強く訴えておきたいです。
その大きな理由の1つが“冒険活劇”であるということ。主人公のクボは過酷な運命に立ち向かうため、“サル”と“クワガタ”という仲間と出会い、3つの武具を手にするための旅に出ます。時には大きなバケモノと戦い、時には冗談に笑い、時には真剣に仲間を思いやる。そんな、大人から子どもまでワクワクできる(だけど切ない)物語になっているのです。しかも“道中の風景”の美しさも格別!
キャラクターたちも実に魅力的です。主人公のクボは開始10分で“健気でとても良い子”であることがわかるため(ここで大人はまず号泣します)全力で応援したくなりますし、お供のサルは厳しいようで実は優しいというツンデレな一面を見せてくれますし、クワガタは強がっていても間が抜けていて何とも愛おしい。村のおばあさんや子どもなどの脇役を含めて、みんなを好きにならざるを得ません。
また、ほんのちょっぴりの“怖い”シーンがあるというのもポイント。敵となる“闇の姉妹”の出で立ちは大人でも恐怖を覚えますし、作中のバケモノや、“安心できない(死ぬかもしれない)”物語運びもかなり刺激的です。『コララインとボタンの魔女』や『パラノーマン ブライス・ホローの謎』よりは控えめとはいえ、スタジオライカ作品ならではの“ホラー描写”がしっかり健在なのです。(ただし、怖すぎて子どもが観られないというほどではありません)
序盤に主人公のクボが行う“折り紙の芸”だけでも、その圧倒的なイマジネーションと、アニメという素晴らしい表現に感動できるでしょう。それはまだほんの序の口、次々に“ストップモーションアニメでしかできない”美しい画、躍動感溢れるシーンが押し寄せて来るので、もう幸せいっぱいでした。
劇中では「If you must blink, do it now! (瞬きするなら今のうちだ)」というセリフが繰り返されますが、それは『クボ』という作品そのものへのも通じています。まさに「瞬きすることも惜しい」最高級の映像が詰め込まれているのですから。
※次のページでは字幕版と日本語吹替版の違いについて解説しています!