「言語の壁」による日本の孤立
以前の記事で書いたとおりわたしはエストニア人の女子高生ボーカリストとジャズ・ユニットを組んでいるんですが(新学期が始まってからは活動を休止しておりますが)、先日唐突に彼女からこんなメッセージが来ました。
「なんか日本では長時間労働が蔓延していて健康を害する人が多いっていう話を聞いたんだけど本当??」
どこでそんな話を耳にしたのか、学校で習ったのかと尋ねてみたら「なんかSNSでそういう動画が回って来たのでなんとなく日本人に聞いてみた」とのことでした。
彼女に限らず、「日本の労働環境の劣悪さ」はヨーロッパでもよく知られているので、ほかの学生から「カローシって何?」などと質問されたりすることがたまにあります。
なんで彼らが日本なんて遠い国の労働問題のことを知っているのかというと、主にインターネットを通じて海外メディアが報じているからなんですよね。そしてそれらは圧倒的に英語によるものなので、日本には入ってこないんじゃないかと。
わたしも英語での生活を初めて2年半近くになりますが、英語が多少なりとも理解できるようになってよかったと思うことのひとつが、
「海外メディアが日本についてどのように報じているのかをチェックできるようになった」
ことですね。
このブログでも、日本のテレビやネットで見られるいわゆる「日本SUGEE!!!」「自国礼賛」言説をたびたび批判してきましたが、そのような異状な思想が流行ってしまうのって、はやり言語の壁によって日本が世界から孤立していることがいちばんの理由だと思うんですよね。
エストニアや他の北欧諸国のように英語が当たり前に話せる人が多い国々では容易に国際メディアの情報にアクセスできるわけですが、日本はそうではありません。海外からの情報を吸収することに分厚いフィルターが存在しているようなものです。
逆に言うと、「日本の状況について海外でどのように報道されているのか」というのも、やはり「言語の壁」が原因で、チェックが非常に難しいわけです。
ドキュメンタリー『最悪のインターシップ』
とくに労働問題については「日本ヤバイ…(もちろん悪い意味で)」という文脈でよく海外でも紹介されます。
今回は「日本人だけが知らない日本のヤバイ事実」を紹介した衝撃的なコンテンツとして、 VICE News による "The Worst Internship Ever: Japan’s Labor Pains" (最悪のインターンシップ―日本で働く者の苦しみ*1 ) というドキュメンタリーを紹介しましょう。
2年半前にアップロードされて以降、再生回数は155万を超えています。本編は英語ですがPCからの閲覧であれば日本語への自動翻訳による字幕表示が可能かと思います。それも不可能な方のために動画の解説部分の日本語訳を紹介しておきましょう。
Japan is facing a serious labor shortage, a problem that can be traced back to an aging population and a prevailing fear that immigrants will dilute the country’s pure gene pool. In order to keep the world’s third-largest economy afloat, the Japanese government offers an internship program that attracts foreign workers from China, Vietnam, and the Philippines. The program, which allows workers to stay for three years, is advertised as providing laborers with transferrable new skills for when they return home.
VICE News recently traveled to Japan to investigate the internship program. We found that many interns are underpaid, saddled with insurmountable debt, and forced into a form of indentured servitude. Many are illegally placed as oyster shuckers, construction workers, and other unskilled positions. And, despite international condemnation, Japan plans to use thousands of new foreign interns to build the infrastructure for the 2020 Olympics in Tokyo.引用元:The Worst Internship Ever: Japan’s Labor Pains - YouTube
(引用者訳:日本は深刻な労働力不足に直面しています。原因として考えられるのは人口構成の高齢化、そして『移民の流入が日本民族の純粋性を薄める』ことへの恐れです。この世界第三位の経済規模を持つ国家のかろうじての存続のために、日本政府は中国、ベトナム、フィリピンから研修生を呼び寄せています。働きながら3年間の滞在が許可されるこの制度は、身につけた新しい技術を帰国後に自国で活かせると謳って募集が行われています。
VICE News はこの制度の調査のために日本を訪れました。我々は多くの無賃労働を強いられる研修生や、過酷な借金を負わされた研修生、奴隷契約を強制させられた研修生に出会いました。多くは違法であるはずのカキの殻割り作業、工事現場作業などの非技能的作業に就いていしました。国際的な非難にもかかわらず、日本はさらに数千人規模の新たな外国人研修生を2020年の東京オリンピックのためのインフラ整備に従事させようとしています。)
ご覧いただければわかるとおり、海外の視聴者からは
「日本には外国人奴隷制度が公然と存在している」
「国際的に非難されているのにもかかわらず、日本政府はさらに奴隷制を拡大しようとしている」
としか映らないであろう内容なのですが、こういうヤバイ事実は日本のメディアではなかなか報じられないのではないでしょうか。代わりに放映されているのが「日本は世界で尊敬される一流国家!! 日本スゲー!!! 日本に生まれてよかった」みたいなテレビ番組ばかりみたいですから、なんかもう本当に救いようがないんだなあと。
いまの日本がどうなっているのかを客観的な視点から眺めたいのならば、英語なり中国語なりフランス語なりを勉強して、海外から信頼できる情報を手に入れるしかないでしょうね。
*1:副題は labor pain (=陣痛)とかけているのかもしれません