だし汁が好きなライターの玉置です。
子供の頃から、簡単な料理を作ったり、レシピ本を読むのが好きだったのですが、ある材料が必要になると、それを作るのを諦めていました。
その材料こそが「だし汁」です。和食の基本となる「だし」ですが、基本をおろそかにしたまま料理を覚え始めたので、だしという概念がわかっておらず、だし汁に対する強い苦手意識を持っていたのです。
だって砂糖や醤油ならわかるけど、だし汁ってなんだよって思いませんでしたか。何のだしでどれくらいの濃さなんだよと。当時テレビで見ただし汁の作り方は、たっぷりの鰹節と昆布を使って布で濾すとか、子供にとっては無理難題もいいとこですよ。今なら市販の顆粒だしでもいいんでしょ?と軽く受け止められますが、当時の私にはそれができなかったのです。
そんなわけで、だしを使った料理に対していまだに苦手意識があるのですが、もしかしたら炊飯器の保温機能を上手に使えば、だしが簡単にできるのではと思い立ち、実験をしてみようと思った次第です。
実験に使う炊飯器は、2006年製の一升炊き。サンヨーのこの機種は、1度単位で温度をキープした保温調理が可能な隠れた名機なのですが、今回は普通の保温機能だけで挑戦してみたいと思います。
まずは事前準備として、保温機能での温度上昇を確認してみしょう。1リットルの水(21度)を内釜に入れて保温スタート。1時間後:44度、2時間後:58度、3時間後:69度、4時間後以降:74度と、温度が上がりきるまでに4時間も掛かりました。これは機種によると思うので、あくまで我が家の場合ということで。この結果を踏まえて実験を続けます。
まずは和風出汁をとってみる
だしの基本といえば、やっぱり鰹節と昆布でしょう。
今回はじっくり時間をかけてだしをとるため、鰹節とサバ節などが混合された厚削りタイプを使いましたが、ややこしいのでここでは鰹節と記述します。
分量は水1リットルに対して、昆布5グラム、鰹節25グラム。この重さは、だいたいこれくらいかなーという私の目分量を測って数値化したものです。深い意味はありません。
いつもなら昆布を水から煮て、沸騰直前に昆布を取りだし、そこに鰹節をドサッと加えて、上品にするなら沸騰したところで濾したり、濃くするなら弱火で少し煮込んだりするのですが、今回は炊飯器に全部入れて、保温スイッチを入れてみました。
これでちゃんとダシがとれたなら、超簡単じゃないですか。
がんばれ、俺の炊飯器!
お前なら、きっとだしがとれるはずだ!
そして4時間後、そろそろいいかなとフタを開けてみると、プワーンと鰹節と昆布のかぐわしい香りが漂ってきました。これぞ、だしという香りです。家が急に蕎麦屋みたいになりました。
これを濾したらできあがり。琥珀色をした香り高き液体、これぞ私が子供の頃に答えを見いだせなかっただし汁です。
ちょっと味見をしてみると、まさにだしの汁!こんな簡単にだしがとれるなんて、あの頃の自分に教えてあげたい!
でも炊飯器でだしをとろうとしたら、きっと母親に止められるな。こらこら米が炊けないでしょうと。
さてこれをどうやって調理してやりましょう。
まずはそのポテンシャルを確かめるため、小鍋に沸かして醤油、塩、酒だけで味をつけて、お吸い物を作ってみました。具はシンプルに豆腐のみです。
見た目はぜんぜんですが、飲んでみると、これがうまい。だしの旨味ってこういうことなのかと、今更ながらに教えられる価値ある一杯です。香りもバッチリ。これをたっぷりと作って炊飯器で保温しておき、マイスープバーにしたいくらいです。
水からじっくりと温度を上げて旨味を抽出しただし汁があれば、煮物だって、味噌汁だって、かけうどんだって、なんでも美味しくできるはず!
だしをたっぷり吸わせる料理といえば、今の時期ならおでんでしょう。薄味に仕立てたおでん用の汁に、下茹でした大根、茹でて油抜きした練り物やもち巾着などを入れ、2時間程保温してみました。
決して煮崩れることなく、しっかりと味を吸いこんだおでんだねの数々。ありがとうといわせてください。
このおでんは、私が今まで作ってきたおでん史上で最高のおでんでした。たぶん10回も作ったことない気がしますけど。
鶏ガラスープにも挑戦!
和風だしがうまくできたのだから、材料を変えれば「鶏ガラスープ」もできるのではないでしょうか。この鶏ガラスープというのも、中華料理のレシピなどで頻繁に出てくる謎の液体で、子供の頃はだし汁同様にその存在を憎んでいたものです。
顆粒スープでも十分おいしいですが、せっかくなので炊飯器で鶏ガラスープを作ってみましょうか。
材料は水に浸けて血抜きをして、よく水洗いをした鶏ガラ1羽分にお湯1リットル。今回は乾物と違ってナマモノを使用するので、菌が繁殖しやすい温度を避けるために70度程度まで温めたお湯を使用しました。
保温をすること4時間。フタを開けると、ちょっと濁った鶏ガラスープが満たされていました。鶏のうまそうな匂いが漂います。
このスープを取り出してみたところ、ちょっと濁りが強くてなんだか生臭そうな印象です。
しかし、これは想定内の問題です。熱を加えてスープに溶けているタンパク質を凝固させれば、きっと澄んだスープになるはず。
鶏ガラスープを鍋に移して、火にかけて沸騰させてみましょう。
スープの温度があがるにつれて、ものすごい量のアクがでてきました。この作業をするまえに料理に使っていたらパニックになっていたかもしれません。
このアクをとって茶漉しで濾したところ、見事に澄んだ鶏ガラスープとなりました。
この状態で味見をしてみると、材料が鶏ガラだけだったので、市販の顆粒スープで作ったものに比べたらちょっと味が弱いですが、しっかりとした鶏の旨味を感じます。料理のベースとしては十分でしょう。
この鶏ガラスープを小鍋に入れて沸かし、醤油とおろしショウガで味をつけ、そこに溶き卵と小ネギを加え、最後にごま油を垂らして中華スープにしてみました。
無化調の手作りスープは、どこまでも優しい味がします。仕事中にお茶代わりに飲みたいくらいです。ちなみにですが、試しに化調をちょっと入れてみたら、旨味がグッと際立ちました。味の濃い料理に合わせるにはこれくらいがいいかも。この辺りは好みですね。
さて取り出した鶏ガラですが、試しにちょっと醤油をかけて食べてみたところ、己から出たスープでしっかりと煮込まれているためか、なかなかうまいじゃないですか。この温度だと4時間程度では肉の旨味がまだ残っているようです。もっと長時間煮てもよかったか。
逆に手羽先などの骨付き肉を使って同じようにスープを作れば、肉も柔らかく煮えて一挙両得になりそうですね。今度は水炊きとかやってみようかな。
ラーメンのスープを作ってみる
これまではシンプルにだしをとってきましたが、今度は一気に材料を増やして、ラーメン用のしっかりしたスープを作ってみたいと思います。
鶏ガラ、豚バラ肉、ネギの青い部分、鰹節、昆布、干し椎茸、ショウガ、ニンニクをドサドサと内釜に入れ、そこにお湯を適量注ぎます。材料はあったものを適当に使っています。ラーメンスープに正解はありません。
これを何時間保温しようか迷ったのですが、迷っているうちにすっかり忘れてしまい、結果的に24時間も保温し続けてしまいました。
これが直火だったら大惨事確実ですが、炊飯器の保温なら中の水分が減ることもほぼなく、ちゃんとスープができあがりました。
これだけ煮込むと、保温調理といえども鶏ガラがホロホロと崩れます。
このスープを沸騰させてアクをとってから濾し、醤油と塩だけで簡単に味をつけてラーメンに仕上げてみました。具は炊飯器で煮ていた豚バラ肉です。
食べてみると、和風の非常にあっさりとしたラーメンに仕上がっていました。具の豚バラ肉はさすがに味が抜けてスカスカだったので、途中で取り出すべきでしたね。
しみじみうまいスープですが、ラーメンとしては上品すぎる気もします。ここにラードと化調を加えたら、いわゆるラーメンらしい味になりそうです。でも逆に、この、店では食べられないシンプルな味こそが好きだっていう人も多いかも。スープの材料を変えることで、無限に味の違いが楽しめそうです。
ちなみに余談ですが、あまったラーメン用のスープでカレーを作ったら、いつも以上にコクのある味となりました。やっぱりベースのだし汁がうまいと、何を作ってもおいしくなりますね。
この炊飯器を使っただし汁作り、もっともっと可能性が広がりそうなので、しばらく実験を続けていこうと思います。
今回のレシピを簡単にまとめておきます。
■和風だし
〈材料〉
水:1リットル
昆布:5グラム
鰹節:25グラム〈作り方〉
1. 炊飯器に材料を全部入れて、保温スイッチオン。
2. 4時間ほど放置。
3. 漉したらできあがり。
■鶏ガラスープ
〈材料〉
お湯:1リットル(70度程度に温める)
鶏ガラ:1羽分〈作り方〉
1. 鶏ガラは水に浸けて血抜きをし、よく水洗いをする。
2. 水1リットルを70度程度に温めて鶏ガラとともに炊飯器へ。保温スイッチオン。
3. 4時間ほど放置。
4. できあがったスープを鍋に移して沸騰させる。
5. アクをとって漉したらできあがり。
■ラーメンスープ
〈材料:すべて適量〉
鶏ガラ
豚バラ肉
ネギの青い部分
鰹節
昆布
干し椎茸
ショウガ
ニンニク
お湯〈作り方〉
1. 炊飯器に材料を全部入れて、保温スイッチオン。
2. 24時間ほど放置。
3. できあがったスープを鍋に移して沸騰させる。
4. アクをとって漉したらラーメンスープのベースができあがり。
プロフィール
玉置標本
趣味は食材の採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は古い家庭用製麺機を使った麺作りが趣味。