最近、北関東の観光地としてのポテンシャルに驚きまくっている、ライターのココロ社です。
わたしがこの記事を通して訴えたいのは、「群馬の魚はとびきりおいしい」ということである。
群馬といえば、観光地があまりない印象を持つ人が多いけれども、それは単に想像力の問題であり、群馬の端から端まで地図を眺めていると、訪れたくなる場所がいくつもある。先日、目に止まったのは雷電(らいでん)神社で、調べてみると面白そうだったのでぶらりと行ってきた。
ここで、本記事で紹介するスポットを軽く地図で紹介しておく。
(1:板倉レンタサイクルセンター 2:学園橋 3:雷電神社 4:板倉中央公園 5:小林屋)
雷電神社へはレンタサイクルがおすすめ
「ぶらり」と書いたが、最寄り駅の板倉東洋大学前駅(東武鉄道日光線)から約4キロの地点にある。バスは本数が少ないので、レンタサイクルがおすすめ。駅から歩いて5分程度のところに「板倉町レンタサイクルセンター」があり、乗れば20分程度で雷電神社には着く。道は平坦なので安心してほしい。また、この駅周辺には、もうひとつ、渡良瀬遊水地という、サイクリングに最適なスポットがあるので、午前中に雷電神社、午後は渡良瀬遊水地……という夢のようなプランが可能である。
わたしはといえば、歩いたあと食べる感じが好きなので、片道1時間かかるのだが歩いた。神社はもちろん、その道中も東京では見かけない風景ばかりで、こうして原稿を書いていてまた行きたいと思うほどである。
板倉東洋大学前駅の西口。
開放感があって気持ちいい。
とにかく歩道が広く、東洋大学板倉キャンパス開学とともに整備されたのだろうけれど、明らかに学生の規模を上回っている。
薄暗い青春時代をおくっていたわたしは、このキャンパスの学生ならどうだったろうと思う。人のまばらなキャンパス通りで向かいから片思いの相手がいかにもモテそうな男といちゃつきながら歩くところを想像してしまい、歯ぎしりしてしまった。
そのまま歩いていくと、ひょうたん型の広大な池にたどり着く。ひょうたんのくびれには、学園橋という橋があり、そこから大学が見える。
道中のあちこちで魚を見かけて期待が高まる
池をすぎると、まるで結界のように電信柱が張られている。
ちょうどこの電信柱を越えたあたりから田畑が広がっていき、その先に雷電神社がある。時空が歪んでくるような錯覚がして楽しい。
川のような側溝のようなところはすでに水が澄んでいて、魚がよく見える。
アオサギや人類がこの魚を狙って集まっていた。
細い道を歩きたいと思ったら、適当なところで左折して、小川のような側溝のようなところを見ながら歩くと、やはり小さな影が動くのが見える。どこもかしこも小魚がたくさんで、なんだかまるで海に遊びに来たかのような不思議な気持ちになる。
季節や時間によっては影が濃くなり、小魚たちの焦り具合も最高潮である。脅かしてごめん……。
罠のあと。ここで漁が行われていたのだろう。
早すぎるとご飯が炊けていないことがあるので公園と神社を満喫しよう
魚を追いかけて歩くうちに雷電神社に到着。
ほかの地域でも「雷電神社」という名前を見たことがあったが、ここが雷電神社の本社である。
そして雷電神社の参道、写真の右側に創業180年の小林屋がある。
1836年創業ということは、天保時代で、坂本龍馬が生まれた年。当然まだ黒船も来ていない。こんな歴史のある店なのに、庶民的な佇まいである。
この店をはじめて訪れたとき、朝から何も食べていなかったので、10時半ごろ、食事する気マンマンで勢いよく扉をガラガラと開けたのだけれど、「いま米を炊きはじめたところだから待ってくださいー」と言われ、ちょっと恥ずかしい気持ちになる。営業自体は朝9時半からのようなのだけれど、昼食をとりたいと思った場合は、11時半くらいを狙った方が良いようだ。
ひとまず、近くにある、板倉中央公園で待ち時間を過ごした。この公園、人がいないけれど、 万葉集の「上毛野(かみつけの)伊奈良(いなら)の沼の大藺草(おおいぐさ)よそに見しよは今こそまされ」はこの公園の池のことだと言われている。「伊奈良の沼の大藺草とおなじく、遠くで見ていたときより会えて気持ちが強くなっている」……くらいの意味。大藺草は今のフトイのことで、丈の長い、ニラの親分のような草。そんなの見てウキウキするのかなと思うのだが、すごく変わった人が詠んだのだろうか。ロマンチックな風景というよりも、雑然としたところがいいと思う。
秋はこんな感じ。
植物よりも、鳥が気になってしまう。
この見慣れないかわいい鳥はオオバンというクイナ科の鳥で、群馬では準絶滅危惧種に指定されているので、遠くからそっと撮った。
なお、夏に行っても面白い。水草で埋めつくされている池の畔を歩いていると、ジュボッジュボッという異様な音がする。
夜に聞いたらエイリアンか何かかと思って震えあがるに違いないが、目を凝らしてみると鯉が水草から体を乗りだして食べ物を漁っていて笑ってしまった。
しばらく歩き回ってから、雷電神社に戻る。
この神社の創建は598年とされている。多くの神社がそうであるように、伝承にすぎなくて、もう少し創建は新しいのかもしれないけれど、この神社の彫刻は見ごたえがある。
この彫刻は18世紀のものだけれど、細部が面白いので、隙間から覗きながらぐるりと回っていくと面白い。
うさぎが草を噛みちぎっている表現が素晴らしい。
また、現代のキャラクター化された表現とはまるで違ううさぎの表現。鳥の延長のように見ていたのかもしれない。
そしてこれは鰻取りのシーンのはずなのだけれど、鯉に見える。いずれにせよ、魚が穫れる地域ならではの彫刻である。
リスが木の実を食べながら「それおいしいの?」と思っているのかもしれない。
この彫刻を眺めてから小林屋に伺うと、おいしさ倍増なのだ。
ちなみにこの雷電神社の奥にある末社の稲荷神社の社殿は実は重要文化財。
小さいながら、県内の建造物の中で最古。群馬の方におかれましてはしっかり記憶に焼きつけていただきたい。
180年間磨き抜かれたナマズの天ぷらは最高の味だった
そして米が炊けたであろう頃合いを見計らって、小林屋を再訪。
看板の「鯰(なまず)」の字のレリーフの勢いに期待が高まる。
お店のメニューは、川魚川魚川魚……どの川魚が好きか問いかけられているのである。
(いちおうカツ丼や玉子丼もあるけれど……)
テレビのセットのような不思議なお座敷もある。3~4人で来たときはぜひおじゃましたいスペースである。
なお、いただく前に、鯰情報をまとめておく。
雷電神社では、火雷大神(ほのいかづちのおおかみ)・大雷大神(おおいかつちのおおかみ)・別雷大神(わけいかづちのおおかみ)が祀られているが、鯰も祀られていて、地震除けになるとの言い伝えがある。鯰の像があり、触り放題。
また、鯰の像がリアルすぎてつらいご貴兄のために、かわいらしい鬼が上に乗っている鯰も用意。だいぶ白くなっているけど……。
そして、鯰を祀っている鹿島神宮(茨城県鹿嶋市にある神社)でもそうであるように、神様であるはずの鯰を神社のそばでいただくことができてしまうのである。ヒンドゥー教で、牛は聖なる生き物なので食べないことになっていたが、われわれにとっての鯰は、別の位置づけになっているのだろう。まあ、なんと言い訳してもいいから食べたいと思う。
小林屋では、天ぷらと、たたき揚げという謎の調理をほどこした塊の、ふたつのナマズが楽しめる。
どちらにするか、もちろん両方である。たたき揚げについては、食の細い人なら、たたき揚げ2つとご飯で満腹になる量なのだが、5個で250円。5個食べたらたぶんご飯はいらない。
そしてここの定食についてくる汁物は、最高装備の場合、ふつうの味噌汁ではなく、鯉こく(輪切りにした鯉を長時間煮込んだ濃厚なみそ汁のこと)になる。
鯉こくは単体でも定食のメインを飾れる実力を持っているが、今日は脇役に回っていただく。なんと贅沢な。
お茶をいただきながら、お腹と相談し、こちらをいただくことにした。
このセットは、メニューにはない、わたしのような大食い専用の手作りセット。構成は、なまず定食のいちばん豪華な、「ナマズの天ぷら2枚、鯉こく、小魚煮、お漬物、ごはん」のセットに、たたき揚げを2つつけてごはんを大盛りにした。しめて1,280円。
そこまで食欲がない人については、なまずの天ぷら・なまずのたたき揚げ・鯉こくを含むようにしながら数を調整して組み合わせるとよい。
以前、わたしはナマズを食べたことがあるが、バンコクの屋台で、網の上でナンプラーを刷毛で塗られた焼きナマズで、それはそれでおいしかったのだけれど、身が硬くて淡白だった。おいしかったが、日本に帰ったらナマズを食べまくるぞ、とまで思うほどではなかった。
しかし、ここのナマズはコラーゲンがたっぷり。写真のうっすらと黒いところがプルプルの皮。しかも身に脂がのっている。ナマズの種類が違うことによる味の差なのかどうなのかはわからないが、少なくとも、ここで食べるナマズの天ぷらは、ウナギに匹敵するおいしさだと思う。
たたき揚げ(細かく切り刻んだ魚の身=たたきを油で揚げたもの)は、つみれを揚げたものとビジュアルが似ているが、想像とは違う食感。外はカリカリなのだが、かじると、体験したことのないもっちり感に驚く。なまずに含まれるコラーゲンにも由来するのかなと思う。定食に天ぷらを含んでいると、天つゆが用意されるので、つけていただくと、なおおいしい。
天ぷらもたたき揚げも、ナマズをこれ以上ないくらい潤沢に使っていて、このお値段でいいのだろうかと思う。さりげなく価格破壊が起きている。適切な値上げをしているのだろうか……と他人事ながら不安になってしまうほどのボリュームである。
魚だけで満腹、という気分をはじめて味わった。
そして脇役の鯉こくも、ずいぶんと濃厚な味噌味で、いままで食べてきたどの鯉こくよりも具が多かった。
山椒が効いていて味が濃いのに飽きがこない。
小魚はクチボソ(モロコ)で、甘辛く煮染めてあり、噛むごとに口の中に香ばしさが広がる。
小さいながら、みっしりと身が詰まっているのがわかる。
なお、これらのお供になったごはんは、明らかに炊きたてであることがわかる香りと食感だった。
次も11時半に行くぞと心に誓ったのだった。
板倉は昔から水郷と言われており、川魚の宝庫。海から遠く離れているこの地域で、このように魚を堪能できるのだった。これだけ魚がおいしかったら、観光客はあえて海の幸をここで求める必要はないだろう……などと思った。
この店が浅草などにあったら毎週通うだろうけれど、大行列ができてしまうだろう。
神社に寄ったついでに昼ごはんを食べる店だと思っていたのだが、この店にごはんを食べに行ったついでに神社を見るくらいの気持ちになっている。
たとえ遠くにあってもまた行こうと思う名店で、群馬の魚のおいしさを堪能できて幸せになれる店だった。
紹介したお店
店名:小林屋
住所:群馬県邑楽郡板倉町板倉2335
TEL:0276-82-0032
著者プロフィール
ライター。主著は『マイナス思考法講座』『忍耐力養成ドリル』『モテる小説』。ブログ「ココロ社」も運営中。
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