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2017-11-14
■[読書][文化論]津堅信之『新版アニメーション学入門』
新書サイズでコンパクトにまとまっており、もちろんその分、深くまで踏み込んだところはないが、広範にわたるアニメーション研究を見渡すことができる
アニメファンではあるが、アニメーション学には疎い自分のような人間にとっては、よい本であった。
単純に、日本アニメ史だけでも勉強になる。
はじめに
第一部 総論
3、アニメーションの分類
5、アニメーション制作の流れ
第二章 海外アニメーション史
1、アニメーション技術の発見
2、ディズニーの功績と影響
3、第二次世界大戦後の多様化
第三章 日本アニメーション史
1、一九二〇~五〇年代──模倣から模索へ
3、アニメブーム
4、スタジオジブリ
5、デジタル化による革新と今後
第四章 学問としてのアニメーション
1、アニメーション研究略史
2、アニメーションの研究領域
第五章 現代アニメーションの新たな位置づけ
1、クールジャパン
2、アニメによる地域振興
3、知的財産としての諸問題
4、産業としての諸問題
第二部 各論
第六章 日本のアニメーション
1、テレビアニメ
2、劇場用長編アニメ
5、CM、PVなど
6、教育用アニメーション
7、短編アニメーション
第七章 海外のアニメーション
1、アメリカ
2、カナダ
3、西欧諸国
主要参考文献
アニメーション略年表
- 作者: 津堅信之
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2017/02/17
- メディア: 新書
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第一章 アニメーションとは何か
「アニメ」と「アニメーション」の違いについてから始まっている。
漫画映画やテレビまんがという呼び方が「アニメ」という呼び方に変わったのが昭和50年代まであったと書いてあって、幼い頃、親がアニメと漫画を同義語のように言っていたわけが、ようやくわかった。
アニメーションの定義について論じているところでは、アニメーション技術の前史として、ゾートロープと幻燈をあげている
本書では、コマ単位で管理されている映像ということを前提とした定義を行っている。
分類では、技術的な分類と制作目的による分類を行っている。技術的な分類では、例えばタイムラプスなども取り上げられている。タイムラプスがアニメーションなのかどうかは論者によって意見が分かれているようだが、逆に言うと、タイムラプスをアニメーションに含むという立場もある。
それから、フル・アニメーションとリミテッド・アニメーションについてなど
また、日本の商業アニメの基本的な制作の流れの紹介
第二章 海外アニメーション史
アニメーションの起源としては、リュミエール兄弟より早く、1892年に初興行が行われた、フランスのE・レイノーによるテアトル・オプティクという装置がある、というのが共通理解になっている。
が、世界初のアニメーションが何か、ということは明確ではない。
当時、コマ撮り技術は、トリック撮影技術の一種とされていており、これが少しずつ、今、我々がアニメーションととらえているものへと変化していったため。
具体的には、アメリカのブラックトン、フランスのコール、ロシアのスタレヴィッチが挙げられている。
1920年代のアメリカでは、マッケイなど漫画家による短編アニメーションが作られる。
一方、同時期のドイツでは、抽象アニメーションが生まれ、フィッシンガーらが登場する。その後の実験アニメーションの系譜として、ここではカナダのマクラレン、フランスで活躍したアレクセイエフが挙げられている。
また、商業アニメを確立した立役者であるディズニー、同時期のアメリカでディズニーとは対照的なフライシャー兄弟(ペティ・ブープやポパイ等)、ディズニーから分派したUPA
さらにこの章では、戦後の各地域やアニメーション・アートについても紹介されている。
第三章 日本アニメーション史
明治40年代(1907年~)にはすでに海外のアニメーションが輸入されており、1916~17年にかけて国産アニメーションが制作された。
下川凹天『芋川椋三 玄関番の巻』、北山清太郎『猿蟹合戦』、幸内純一『なまくら刀』がそれで、『なまくら刀』は2007年に90年ぶりにフィルムが発見されたとか。ちなみに、現存する日本最古のアニメーションとして、なまくら刀[デジタル復元・最長版][白黒ポジ染色版] | 作品詳細 | 日本アニメーション映画クラシックスで見ることができる。
1920年代、海外ではセルアニメーションが一般的となるが、セルロイドが国内で入手困難であったため、切り絵アニメの技術が極められる。切り絵アニメではのちに、大藤信郎がアート系の先駆けに
太平洋戦争期は軍部がスポンサーとなってアニメが作られる。日本アニメの近代化をなしとげた政岡憲三の弟子である瀬尾光世による『桃太郎 海の神兵』
昭和30年代、東映動画と虫プロが設立され、日本アニメのその後の道筋がつけられていく
東映動画からは高畑勲と宮崎駿が、虫プロからは富野由悠季、安彦良和、出崎統、りんたろうが輩出される
本書では、アニメブームを3つあげている(60年代半ば、70年代半ば~80年代半ば、90年代半ばから2000年代半ば)
さらにこの章では、スタジオジブリについてと、デジタル化についてそれぞれ項をもうけている
第四章 学問としてのアニメーション
直接的、間接的それぞれに、アニメーション研究にどのような領域があるのか
理論研究や歴史研究のほかに、近年でてきたものとして、サウンド研究やオーディエンス研究もあげられている。
間接的研究の中だと、カルチュラル・スタディーズに対して何故か言い方が厳しい!
心理学とアニメーションの関係が深いというのは、なるほどというところだった。古くからアニメーションを実験素材として使っており、近年では、認知心理学などから「アニメーション心理学」という領域が独立しつつあるらしい。リミテッド・アニメーションの動きがなぜ魅力的なのか心理学から研究が進められているとか。
産業論や地域振興論なども
第五章 現代アニメーションの新たな位置づけ
この章は短い章であるが、アニメーション研究の広さと新しさを感じる。
ただ、基本的には、ここにこういう課題があるという指摘がぱぱぱっとなされている章でもある。
以下、あげられている課題としては
知的財産権にかかわる法令に対する、アニメーション作品という観点からの研究や提言
作品のアーカイブ
アニメーション産業論に関する基礎研究(労働問題についても触れられているが、単純な問題ではなく、現状では学問的な追及と労働問題との解決を結びつけるのは不可能、とも)
第六章 日本のアニメーション
この章が章としてはもっとも長い
項目立ては、スタジオとか作品とかになっているが、内容としては人名辞典的なところがある。
著名なスタジオ、監督等、作品などが並んでいて、本当に概観でしかなとはいえ、勉強になる
なるほど、このスタジオってこの頃にできたのかとか、こういう作品作ってたのかとか、この監督はこのスタジオ出身なのかとか
いわゆる商業アニメとアートアニメの両方を紹介しているほか、「CM,PVなど」「教育用アニメーション」という項目があるのが面白い。
CMやPVのアニメーションは確かに枚挙にいとまがないが、本書において「全貌が把握されて」おらず、この分野の研究が「早急に進むことが望まれる」ということが課題にあげられているのは、もっともだと思われる。とはいえ、すげー大変だな、これ、と。
教育用アニメーションもその意味で大変だなと思うのだが、本書によると、戦時中に武器の使用方法など兵士向けのアニメーションが作られていたらしいのだが「これらの作品は現在のところまったく再確認されていない」とのこと。
第七章 海外のアニメーション
こちらは、国・地域ごとに代表的な監督が紹介されている。
アメリカであれば、ディズニーはまあなんとなくわかるとして、ディズニーの対抗者があげられていて、作品名を聞けばわかるがスタジオや監督などは知らなかったところだった
W.ハンナとJ.バーベラ:トム&ジェリー(MGM)、チキチキマシン猛レース(ハンナ・バーベ・プロダクション)など
→ハンナ・バーベラはリミテッド・アニメーションを使っており、日本でも『アトム』以前に放映されていた。また、パワーパフガールズはハンナ・バーベラの関連会社
UPA:1940年代、ディズニーから労働運動の末、分派。リミテッド・アニメーションを発案・実践→世界的に拡大していく
また、人形アニメからハリーハウゼンの特撮映画への流れや、CGアニメ(サザランドによるCG技術の開発→『トロン』→ピクサー)
カナダは、マクラレン、NFB(カナダ国立映画制作庁)、F.バック
それから、フランス、イギリス、イタリア、ベルギー、オランダといった西欧諸国
帝政時代からアニメーション制作をしているロシア。短編も長編も、切り絵、人形、セルなど多彩。人形アニメーションが盛んで、『チェブラーシカ』で有名なカチャーノフなど。また、ソ連の巨匠、ノルシュテインなど
チェコは人形劇の伝統があり、人形アニメーションが盛ん。代表的な巨匠がJ.トルンカ
本書曰く「セルアニメーションとアニメーションの商業性を完成させた巨匠がディズニーだとすれば、人形アニメーションとその芸術性を完成させた巨匠はトルンカ」
むろん、シュヴァンクマイエルも。
特に中国についていえば、2000年代からアニメーション産業育成が盛んで、2011年段階で、制作分数でいえば、同時期の日本の3倍に達していたという。
最後、すごくどうでもいい感想だけど、津堅さんって農学部卒なんだ